TOV短編
RaY(匿名様リク)
「ユーリ、何それ」
「こども」
「………」
ある日お家に帰ったら、見知らぬ子供が青年とおてて繋いで立ってました。
見たとこ5歳くらいだろうか、やんちゃ盛りの男の子。
まん丸い膝小僧や林檎みたいなほっぺに擦り傷が幾つか有って、如何にもといった感じだ。
「…産んだの?」
「産むかよ。預かったんだよ」
俺と青年は毎晩毎晩お腹壊すくらい愛を注ぎ込みまくりな生活、男同士とは言えそろそろ孕むのでは無いかと睨んでいた矢先だった。
まぁいきなり5歳の子供が産まれる訳は無いから、勿論冗談だったんだけど。
ユーリは酷く冷めた目で俺を一瞥して、子供の頭を撫でた。
「ほら、自己紹介」
「うっせー!誰がするか!」
「名前言わなきゃろくな世話も出来ねぇだろ」
「世話してもらわなきゃなんないような子供じゃない!」
「犬1匹にも触れねぇチキンは子供だろ」
「ワンッ!」
「わっ…、こ、こわくないぞ!」
どうやらかなりのやんちゃ坊主みたいだ。
手を繋いでるのも懐いてるからとかじゃ無くて、青年に無理矢理やられてるっぽい。
…でも青年、ラピードは実際怖いと思うわよ。
「ポアットだってよ、名前」
「な、なんで」
「お前の両親から資料貰ってんの。ポアット=ダグ、5歳。ダングレストで見掛けた、青い髪で耳の長いナイスバディなお姉さんに夢中なんだってな?」
「!それってジュディスちゃんじゃないの!?」
「だろうな」
「う…」
「憧れのお姉さんに、ポアットは相当なクソガキだぜーって言っても良いのか?」
「…うぅーっ」
ポアット少年、その歳にしてジュディスちゃんに目を付けるとはなかなか素質有るじゃない。
そのお姉さんこのギルドに所属してんのよって言ったら、どんな反応するかな。
「で。この子なにルートで預かったの?」
「首領が貰って来た仕事でな。両親が久々にラブラブ旅行したいから子供預かってくれって」
「…それって」
思いっきり厄介払いじゃ無いか。
いくら幼いとは言え、そんな理由で他人に預けられても納得出来ないだろう。
膨れっ面をしているのも解らなくも無い。
しゃがんで視線を合わせてやると、不機嫌アピールしていた半目がちょっと見開く。
あぁ、そうしていた方が可愛らしいのに。
「ポアットくんはー、甘いのとかって好き?」
「大好き」
「青年には訊いて無いわよ。ポアットくんに訊いてんの」
「ワンッ!」
「わんこも良いから」
「ポアット、このおっさんのクレープ美味いぞ。作れって言ってみ」
「…おっさんクレープ作るの?」
「おっさんって。…作るよ。甘いの嫌いだけどね」
女性と子供には甘いもの、というのが鉄板だ。
案の定、ポアットくんの瞳がきらきらと輝く。
「きらいなのに作るの?うまいの?」
「うん、美味いらしいよ。おっさんにはよく解んないんだけど。不思議よねぇ」
「変なの!」
「変だよな。じゃあおっさん、先ずは苺クリームとチョコバナナな」
少年の頬にほんのり朱が上って、口角もほんの少し上昇。
勢い良く下降していた機嫌が直って来たみたいで、少し安心する。
やっぱり子供は笑ってるのが良いわよ。
それが“らしさ”ってやつだから。
「ポアットくん、苺とバナナどっちが良い?」
「オレ、バナナ」
「だから青年には訊いて無いっつーの」
「バナナ!」
「ポアット、バナナはオレだって言ってんだろ!」
「やだ、バナナがいい!バナナー!」
「青年は苺ね、決定ー」
「おいこらおっさん」
「マジ顔しないで頂戴。ポアットくん泣くわよ」
旅の間に散々作らされていたクレープは、その後の新婚生活でも毎日の様に作らされている。
その賜か手際は最早プロ顔負け、2つのクレープを作り上げるのに時間は掛からなかった。
苺と生クリーム、チョコソースとバナナ、シンプルながらに長く愛され続ける定番中の定番クレープ。
それを両手に、未だに争い続ける2人に歩み寄った。
「おーい、お2人ー」
「いいかポアット、世の中には年功序列って言葉が有るんだ」
「ねんこう…?何だよそれ!」
「歳上が偉いって事だよ。だから、オレがバナナ欲しいって言ったらお前は苺で我慢しろ」
「やだよ!おれバナナ好きだもん!」
「オレはお前の何倍もバナナが好きなんだよ!」
「…おーい…」
「やーだー!バナナバナナバナナー!」
「うっせぇ!ガキは黙って大人の言う通りにしてろ!」
「………」
ユーリ、君は一体いくつなの。
年功序列なんて5歳に言って解る訳無いでしょ。
綺麗な顔を、…アレクセイ見た時みたいに険しくしてまで、そんなにチョコバナナが良いのか。
って言うかユーリがバナナ好きとか欲しいとか言ってんの、何かえろいんだけど。
どうしよう5歳の子供のいる所で勃起とか、洒落になんないんだけど。
「バナナー!」
「バナナはオレのだ!」
「何だよ!女のくせにオレとか言ってんじゃねー男女ー!」
あ、地雷。
ラピードが部屋の隅で、尻尾をぺたりと垂らして丸くなった。
俺にも解るよ、怒ってるユーリ。
「…誰が女だって?」
「女だろ!かみの毛長いし!」
「髪長い男もいるだろ。おっさん長いだろーが」
「女の顔だし!」
「イケメンに何言うんだよ。第一こんな哀しい胸の女いるか」
「お母さんそんなだもん!」
「………」
「………」
うわ、聞いちゃいけない事聞いちゃった気がする。
あんな哀しい胸でよく子供にお乳やれたわね…って、これ例のお母さんへのセクハラじゃ無いよ?
見た事も無い女性にセクハラする程飢えて無いからね、今の俺は。
「…おっさん、クレープ」
「…バナナ?」
「いや…苺で。バナナはポアットに」
「はいよ」
呼ばれて両手のクレープを差し出すと、ユーリは白いクリームがはみ出てる方を取った。
あんなに激しくチョコバナナを取り合っていたのに。
これはアレかな、ユーリも俺と同じ気持ちって事かな。
ポアット少年のお母さんに、哀れみを抱いてしまったかな。
「はい、バナナ。中いっぱい入ってるから、溢さない様に気を付けてね」
「ありがとう、おっさん!」
「あっちのお兄ちゃんにもお礼言いなね?譲ってくれたんだから」
「…お姉ちゃんじゃないの?」
この子本気だ。
本気でユーリを女だと思ってる。
確かにユーリは綺麗だし、髪長いし、細いし。
胸は勿論無いけど、…哀しいレベルの貧乳もまぁ存在する事だし。
背は高いけど、5歳の視点からじゃ自分より大きい人は皆同じくらいに見えたりすんのかしら、だったら解んないよね。
でもこれ以上ユーリの自尊心を傷付けては駄目だ。
折角、今は哀れみの情故に落ち着いているんだから。
「お兄ちゃんって呼べば、次も好きな具譲ってくれるよ?」
「!…お兄ちゃん、バナナありがとう」
「…おぅ」
苺は苺で好きなユーリ、何だかんだ美味そうに食べてくれてる。
口元にクリーム付いてるのが可愛くて、舐めてあげたいのを抑えるのが辛いくらい。
「一口いるか、苺」
「こっちも一口あげる。はい」
「サンキュ。あーんしろ、ポアット」
「あー、む。……」
「美味い?」
「おいしい!お兄ちゃんも」
「ん。……あーやっぱうめぇ」
お互いにあーんし合って、可愛らしいったら無い。
あんなに激しく争っていたとは思えないくらいに。
あのペースじゃ直ぐに食べ終っちゃうね、次を作っておいてあげなきゃ。
「わんこも食べる?」
「ワフッ!」
「ん、待ってて頂戴。直ぐ出来るからね」
ポアット少年をいつまで預かるのか、俺は知らないけど。
喧嘩回避と機嫌回復には甘いもの、というのが証明された訳だから。
ご両親の所に返す頃にはちょっとふくよかになっちゃってるかも、なんてね?
子供と女性(女顔青年も含む)には甘いもの
(バカお前、カスタードはオレだって言っただろ!)
(うるせー!お兄ちゃんはキウイ食べてろよっ!)
(…あれ、また喧嘩してる)
(おかしいなぁ、絶対無敵の答えだと思ったのに)
――――――――
匿名様リクエスト、子育てレイユリ。
ほのぼのでしょうかコレは。←
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