TOV短編
RaY(まな様リク)
「わ、っと、…ぉお?」
足の裏に何か丸いものを感じたと思ったら、視界が回った。
ついさっきまで見えていた、男湯と女湯を隔てる柵が何処かへ消えて。
代わりに、憎らしいくらい晴れ渡った青が視界いっぱいに。
あ、やべ、こけるんじゃねこれ。
そう思って、咄嗟に、隣に有った薄緑色の浴衣を掴んだ。
巻き込み事故に要注意
掃除中の浴槽には、ほんの僅かしか湯は残っていない。
足首が浸かるかどうかと言った所だ。
そんな量の湯じゃ勿論クッションになる訳も無く、オレは只ちょっとした段差の下に転んで落ちただけになった。
「…ってぇ…、うーわ濡れちまった」
背中から倒れてそのまま落ちて、僅かに溜まってた湯を思いっきり被った。
倒れた時に舞い上がった水も、仕返しとばかりにオレに降り注いで、もう全身びしょ濡れだ。
そりゃもうパンツまでしっかりと。
「ついてねぇな」
「…超こっちの台詞なんですけど」
濡れた手で濡れた髪を払ってたら、隣からえらく不機嫌そうな声が。
声の方を向くと、其所に居たのは。
「お、シュヴァーンじゃん。お久」
「まず謝ってくんない青年。おっさんを巻き込んだ事と、シュヴァーンって呼ぶのやめて」
オレと同じくびしょ濡れになったシュヴァーンことレイヴン。
濡れて色味を増した薄緑色の浴衣は、やはり布が多い所為か重そうに見える。
立ち上がって浴衣を絞ると、際限無くぽたぽた水が垂れた。
「悪ぃ、石鹸踏んだ」
「…、良いけど。珍しいね上の空」
「ああ、何だろうな。平和ボケかも」
浴衣を絞るおっさんに手を伸ばせば、不機嫌な表情を崩して、手を取ってくれる。
引っ張られて立ち上がって、タンクトップを力一杯絞った。
おぉ垂れる垂れる、湯だから良いけど水だったら風邪引いてんなこれ。
「平和ねぇ」
「平和だろ。ユニオンの重鎮兼騎士団隊長主席の誰かさんが、温泉で風呂掃除なんかやってんだから」
「…さーて誰の事やら」
「さぁ、誰の事かね」
うっかり踏んづけた石鹸は、転んだ反動でどっか行っちまった。
まだ全然掃除終ってねぇのに、探し出さなきゃ進まねぇぞ。
「おっさん、石鹸探すぞ」
「えー、1人でやってよ。旅に出ちゃったの青年の所為でしょ」
「可愛い恋人のおねだり聞いてくんねぇの?」
「…こういう時ばっかそういう事言う」
「普段から言ってたら有り難みねぇだろ。ほら」
浴槽から上がって、未だ浴衣を絞るおっさんに手を出す。
さっきとは逆、今度はオレがおっさんを引き上げる。
…と思ったのに。
「…何やってんだよ」
「何って仕返し」
手を掴まれて、引き上げるより強い力で引っ張られて、また浴槽に逆戻り。
引っ張られた勢いのまま、倒れるおっさんの体の上にダイブした。
さっきと同じかそれ以上の水柱が立って、せっかく絞った服が無意味になってる。
「ふざけてんじゃねぇって、石鹸」
「ふざけてないわよ。石鹸ならほら、洗い場の桶ん所に飛んでったから、そこ探せば直ぐ見付かる」
「解ってんなら、」
「ちょっとくらいいーでしょ。水濡れユーリのえろい事、我慢なんか出来ようか、いや出来ない」
「おいこら…、っ」
頬を両手で捕まえられて、キス。
ユウマンジュの温泉の味がする…、こんなキスは初めてだ。
それが何か面白くて、新鮮で、何度も何度も。
そうしてたら深くなりそうな不穏な気配を感じて、離れた。
ちょっと不満そうなおっさんの顔が目の前にある。
濡れて髪がぺったりした、いつもとは違うおっさん。
「…ちょっと解るかも」
「何が?」
「濡れユーリのえろい事。…濡れレイヴンも、なかなか」
「…濡れ“レイヴン”なら嬉しい評価だけど。“シュヴァーン”って意味じゃ無いよね」
「さぁな」
突っ張った腕を屈めて、また、キス。
水音が耳を擽って、
いつもと違う味の唇が面白くて、
いつもと違うおっさんが、不覚にもかっこよく思えたりして。
「石鹸は良いの?」
「直ぐ見付かるんだろ」
「…そーね」
タンクトップを捲り上げる太い腕に、
ちょっとだけ爪を立ててしがみ付いた。
水の事故に要注意
(…私達が女湯に居るの、忘れてるんでしょうか)
(解っているんじゃないかしら。彼らだもの)
(くそぅおっさんめ!うちだってユーリと温泉味のちゅーがしたいのじゃ!)
(っていうか男湯にフレンとガキんちょ居る筈でしょ!あいつら何やってんのよ!)
(フ、フレン…どうしよ)
(関わらない方が良いよ。レイヴンさん小刀持ってるから)
(止めたら殺られるよ)
(…目のやり場凄く困る…!)
――――――――
まな様リクエスト、一緒にお風呂+いちゃいちゃです。
…恐らく裸の付き合いとかもっとピンクな感じのとか、そういうものを期待してリクエストして下さったのでしょうが、斜め上でごめんなさい/(^q^)\
ユウマンジュのお掃除です。
長らくお待たせ致しました…!
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