TOV短編
RaY♀(早良様リク)
学パロ。
――――――――
「ユーリがおかしいんです!」
俺の城のドアがけたたましい音を立てて開き、同時に、鈴の転がる様な声が響いた。
普段の穏やかな声色とはまるで違う、叫び声と言える音量で。
入口に立つ桃色のお嬢様は、肩を怒らせ、眉を吊り上げ…、だがしかし瞳だけは爛々と輝かせながら。
級友がおかしいと、宣言した。
君もおかしいよ、…とはちょっと言えない空気
「はい、お茶。パックので悪いけど」
「いえ、そんな…、有難うございます」
落ち着き無く仁王立ちしたお嬢様をとりあえず中に招き入れ、安っぽいパイプ椅子に座らせる。
同じく安っぽい緑茶を安っぽい湯呑みに淹れて出してやると、漸く自分が何かおかしい事に気付いたのか、大人しく茶を啜った。
「で、」
「はい?」
「ユーリがおかしいって。何か有ったの?具合悪いとか?」
少し理性を取り戻してくれた所で、本題だ。
このお嬢様は根っから良い子だから、誹謗中傷のつもりでおかしいなんて言う筈は無い。
そんな子がおかしいと言うなら、ちょっと重い意味でおかしいのかも知れない。
「そうなんです。おかしいんです、ユーリ」
「どうおかしいの?」
「何て言うか…、怪しい、です」
「…怪しい?」
「リタもジュディスも言ってました。男の影だって」
「………」
落ち着きを取り戻した瞳に、再び輝きが宿る。
…これはアレか。
年頃の女子が矢鱈と興味を示す、他人の。
「つまり、ユーリに」
「恋人がいるんじゃないかって!」
「…恋話なら本人捕まえてやって頂戴、おっさん一応仕事残ってんだけど」
「だってユーリは捕まらないし、捕まえても笑うだけで答えてくれません。レイヴンなら、ユーリから何か相談されたりしてません?先生でしょう?」
「今時先生に恋の相談する子なんていないわよ」
「ユーリはレイヴンを信頼してます、2人は只の先生と生徒じゃ有りません!深い話をしてる可能性は捨て切れない、」
「って、リタっちとジュディスちゃんが?」
「フレンが!」
「………」
適当な情報で煽るだけ煽って、後は俺に丸投げって。
皆酷いわ。
詰め寄るお嬢様は、俺が何か知ってるって、確信めいたものを持っているみたい。
…恋話に対する嗅覚が凄過ぎる。
「…嬢ちゃんよ」
「はい!」
「俺がどうこう以前に、本当にユーリに恋人がいるかどうかも曖昧なんでしょ」
「ふふ、そこは間違い有りません。ネタは上がってますよ」
にやりと笑ったお嬢様は、徐に制服のポケットからメモ帳を取り出した。
細かい字で几帳面に書かれたそれは、机1つ挟んだ位置にいる俺には読めない。
「……、ネタって」
「先ずはお昼休みです。今までユーリはわたし達と一緒にお弁当を食べていたのに、1週間前からそれが無くなりました」
「…単に食べて無いだけじゃ無いの?」
「ところがどっこいです!目撃者の話によると、ユーリは1人分には明らかに大きい弁当箱を持って廊下を爆走していたと」
「大食いがばれたら恥ずかしいとか」
「ユーリはそんな事を気にする性格じゃ無いです」
「…まぁね」
「それに一緒に食べていた時、ユーリの食べる量は普通でした。甘いものだけは規格外でしたけど」
ぱら、メモ帳のページが捲られる。
「次に服装。最近のユーリは、胸元の釦を3つしか開けていません」
「3つ開けてたら相当でしょ」
「先週までは4つでした。今週に入ってからはたまにネクタイもして来ます。異常です」
「流石に校則を理解したとか、」
「3つでも相当、でしょう?校則が理由なら、もっと留める筈です」
「…そうね」
ぱら。
「更に登校時間。遅刻常習犯のユーリが、今週に入ってから無遅刻です」
「新しい目覚まし買ったんじゃない?」
「以前皆でお泊まり会をした時、ユーリは目覚まし時計を光速で叩き割りました。どんな目覚まし時計でも、寝起きのユーリは止められません」
ぱら。
「そして、」
ぱら。
「遂には、」
ぱら。
「とうとう、」
ぱら、ぱら、ぱら。
捲られるメモ帳、尽きないネタとやら。
…ユーリ、お前さんどんだけよ。
「最後に!」
「や…、やっと最後?」
「これは決定打ですよ、間違い無いです」
「………」
「ユーリは、」
指輪をしています!
「…最初からそれだけ言えば…」
「指輪だけなら、ファッションと言われてしまうかも知れません。でもこれだけ情報が出揃えば、その言い訳を崩せます!」
小さい文字できっちり書かれていたメモ帳の中で、このページだけは矢鱈とでかい字で書いてある。
“指輪!”と、只それだけが。
余程衝撃的だったんだろう。
「…本当は、最初は只のファッションかと思ったんです。指輪は指にしてある訳じゃ無く、チェーンに通してネックレスにしてあったから」
「でも、ユーリがあまりにもおかしいから、と」
「はい。…何も話してくれないから…、わたし、信用されていないのかもって」
「………」
あーあ、落ち込んじゃった。
…いいとこのお嬢様なんて、地位やらお金やら目当てで近付く連中ばかりだったんだろうし。
そんな中で、掛け値無しで接してくれるユーリとかリタっちとかが、本当に大切な友達なんだろう。
大切な友達が、大切な事を話してくれないのって…、辛いよね。
「泣かせちゃったね」
「…レイヴンの所為じゃ無いです…。わたしが、我儘なだけで…」
「んーん、嬢ちゃんは悪く無いのよ。悪いのは俺。…と、」
「オレだな」
「!」
嬢ちゃんの正面、机を挟んだ向かい側に俺が座ってて。
その、俺が座る椅子の後ろに、もう1人。
1人分には明らかに大きい弁当箱を持って、シャツの釦を3つだけ開けて、首に指輪を光らせた、ユーリ。
「ユーリ…!」
「悪ぃ、エステル。信用してねぇとかじゃ無かったんだけど」
「俺が悪いのよ。ホラ、立場的に、ね?」
「交際ってだけならまだしも、結婚は流石にばれたらまずいだろ」
「……、え?」
コトン、
ポケットから手を出して、机の上で開く。
硬い音を立てて机に置かれたのは、指輪。
ユーリが首から下げているものと同じ形で、それよりも大きいもの。
「え…、?交際?…結、婚?」
「オレ達な、こないだの日曜に籍入れたんだ」
「実は今、ユーリの本名ってユーリ=オルトレインなのよ。内緒ね」
「オルトレインって……夫婦、なんです?2人が?」
「ん」
「おう」
「えぇええっ!?」
ユーリが1人分には明らかに大きい弁当箱を持っていたのは、俺と一緒にお昼を食べる為。
ユーリが釦を3つしか開けなくなったのは、流石にそれ以上は他の男に見せないでって俺が泣いて頼んだから。
ユーリが遅刻しなくなったのは、毎朝俺がボコボコに殴られながら死ぬ気で起こしてるから。
他にも、いっぱい、いっぱい。
お嬢様が挙げたネタは全て、確信どころか正解ばかりだった。
「卒業したら言うつもりだったんだけどな」
「泣かせちゃってごめんね。一緒に秘密守ってくれる?」
「一緒に…?」
「そ。信じてるぜ、エステル?」
「…っ、はい!」
はは、ばれちゃった。
教師が在学生と婚姻関係だなんて、超絶大問題よね。
…でもま、問題発覚は無さそうだし?
信じてるしね、ばれなきゃ良いのよ!
(オルトレイン夫人ですか…、素敵ですユーリ!式はいつです?ドレスの仕立てはヒュラッセイン家御用達の店に任せて下さいね!あと、)
(ちょっ、嬢ちゃん声でかっ!)
(…やっぱり話したの早まったか?)
(テンション上がると止まんねぇからな、このお嬢様は)
(…ま、ばれたらばれたで学校辞めるし)
(問題ねぇよな)
――――――――
早良様リクエスト、学パロで結婚しているRaY♀、です。
…独断でエステルが出張ってしまいました…す、すみませんorz
隠してるつもりが隠せてないよユーリ!的なのがコンセプト。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!