TOV短編
RaY(砂歩様リク)
「!…美味しい」
「ほんとだ。凄いよユーリ、美味しい!」
「そうか?サンキュ」
繰り返される魔物との戦闘、表面上何でも無い風を装っていても、朝満タンだった体力は徐々に削られていく。
嬢ちゃんに頼るにも限界が有るし、傷は治せても空腹感ってやつは無くならない訳で。
青空の下、丸太に腰を下ろして円になる。
皆の手には、ユーリが手ずからこねこねしたコロッケが渡っていた。
「ユーリってホント何でも出来るんだね…。憧れるなぁ」
「おいおい、買い被り過ぎだぜカロル。オレは1人でバイトジョーには挑めないって」
「そうね、精々追憶デュークにスタンドアロン戦闘挑むくらいだもの」
「……、レベルが違う気がするんだけど…」
「気の所為だろ」
男前で大雑把なユーリの事だから、不味くは無くても大味なコロッケなのだろうと思っていた。
ところがどっこい、口にしてみて驚いた。
何と美味しいコロッケだ。
調理中の姿を見てはいないが、一手間も二手間も惜しまず加えたのだろう事が解る。
「意っ外ー…」
「オレからすりゃあんたの方が意外だよ。甘味超絶駄目なあんたの作るクレープが、何であんなに美味いのかね」
俺の隣に座ったユーリが、俺の皿からコロッケを1つ摘まみ上げる。
大きく開いた口にコロッケが放り込まれるのを、どこかぼんやりと眺め…、はっとした。
「ちょっ、ユーリ何すんの」
「食事」
「自分の食べなよ、それ俺のでしょ」
「年寄りは油物良く無いだろ。体大事にしろよ」
悪戯っぽく笑いながら、俺の皿を綺麗にしていくユーリ。
あぁ俺のコロッケ、こんなに美味しいコロッケ食べた事が無かったのに。
「…料理、上手いんだ…」
恋人の手料理
ひく、
唇の端が震えてしまう。
目の前の惨状が信じられなくて、飛び散る血もどうにも出来ず、只立ち尽くすだけ。
「…ユーリ」
「話し掛けんな!気が散る!」
「………」
くるくると宙を舞う包丁に目を奪われて、血にまみれたそれを迂闊にも綺麗だと思ってしまったりして。
…何これ、何で包丁が空飛んでんの?
俺か、俺が悪いのか。
俺はただ、
「サバみそ作ってって言っただけなのに…」
遡る事3時間程前。
あれだけ美味いコロッケを作るユーリに、俺の大好物・サバみそを作って欲しいと言ってみた。
恋人の手料理であり、美味い事が約束されている大好物だ、それはそれはうきうきして言った。
ユーリは快諾してくれて、じゃあ材料買って来るなって街に繰り出して行って、2人分には明らかに大きな袋を下げて帰って来た。
…そこで少し違和感を感じたけど、コロッケの事が有ったし、大して疑問にも思わずスルーした。
のが、いけなかったのか。
「ユーリ…、料理は戦闘とは違うのよ」
「解って、んよっ!」
「じゃあ何で包丁くるくる回してんの。円閃牙でしょそれ」
「蒼破ァ!」
「それ!そういうのおかしいよ!?」
新鮮な鯖を放り投げたと思ったら、包丁くるくる回して肉片に変えて。
またもう1匹放り投げたと思ったら、伝家の宝刀・蒼破刃で肉片に変えて。
本人は魚を捌いてるつもりなのかも知れないが、俺には、生魚を猟奇的に破壊している様にしか見えない。
あんなにいっぱい有った鯖は、その全てが見るも無惨な肉片に成り、床やら壁やら天井やらに散っている。
切り身と呼べる形のものなど、只の1つも無い。
「…料理、苦手なの?」
「宿屋の上に住んでたんだ。3食昼寝付きだぜ?上手くなる訳ねぇだろ」
「だ、だって、コロッケはあんなに美味しかったのに」
「おかみさんが、せめて1つくらい作れるものが無いと駄目だって。1週間毎日3食コロッケ作らされたんだよ。厳しい監視の元でな」
「……じゃあ…」
「そ。オレはコロッケしか作れない。生の鯖なんか触った事も無い。でも、あんたの頼みだから」
「…………」
「愛しい愛しい恋人の頼みで、愛しい愛しい恋人の大好物で。こりゃ作ってやらねぇと、だろ?」
にっこり、とてもとても綺麗に笑うユーリ。
その頬には返り血、左手には包丁、背景には肉片。
…笑顔の綺麗さをより不気味に彩る、最恐のオプション達。
「例えどんなもんが出されても、おっさんなら平らげてくれるよな?まさかなぁ」
「…………」
「だって、」
恋人の手料理だもんな?
(出来たぞ、おっさん)
(っ!!!)
(…何か…、緑色、なんだけど)
(なに、食えねぇの?オレのサバみそ)
(ぐ…っ、うぅぅ…!)
(生臭くて、青臭くて、口に含むともったり重く…何より甘い…!)
(……死ぬ…!)
――――――――
砂歩様リク、料理下手なユーリでRaYです。
コロッケが美味しいのは公式なのでそこは大事に、その他は絶望的という事に。
…下町コンビが料理壊滅的だったら、ダングレストの料理対決とか一体どうなるんだwww←
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