TOV短編
RaY
「ふ、ぁ、…っくしょん!」
この時期、麗らかな陽気に付き物のアレ、花粉。
大半の人間はソレにやられて目ぇむずむず鼻ずるずる、オレもそれは例外じゃ無い。
目は真っ赤で潤んでるし、鼻もかみ過ぎて真っ赤だし、何とも間抜け面を晒して毎日を生きてる。
…のに。
「何かユーリ、顔がやらしーわね」
「…あんた、鼻水にまで欲情出来る真性の変態だったんだな」
目の前のおっさんは涼しい顔で、ずびすびな俺をしげしげ観察してる。
そう、涼しい顔、だ。
目は赤く無い、潤んでも無い、鼻水も垂らして無い。
平素と全く変わらない顔のまま、只じぃっと、俺を見てる。
「随分楽しそうだな」
「おっさん花粉症持ちじゃ無いからね。珍しいの」
「嫌味かよ」
「…ねぇユーリ、花粉症に苦しむお前さんに耳寄り情報教えてあげよっか」
「!」
普段通りの顔をちょっと真面目に引き締めて、びしっと指を突き付ける。
ごつごつした、弓を引く男の指。
…耳寄り情報だ?
おっさんの情報は大抵ろくでも無いのばっかだけど、流石に花粉症に絡めてアッチに雪崩れ込む様な馬鹿な真似はしないだろう。
「聞いてやるよ」
「アリガト。あのねユーリ、花粉症ってのは粘膜の異常なのよ」
「粘膜?」
「そう。粘膜にはね、カカオと糖分が最高に悪影響なんだって」
「……糖分」
「つまり、…俺の言いたい事もう解るよね?」
「………」
カカオと糖分。
糖分が、最高に悪影響。
つまりだ、俺の大好きな甘味達は、俺を苦しめる要因を助長する力を持っているって事。
「花粉が飛び始める3ヶ月くらい前から甘味断ちすれば、その年は相当楽になるってさ」
「…嘘だろ」
「ユーリ、甘味断ちしよ?今からでも、食べ続けるよりは楽になる筈だよ」
嘘だ、そんなの信じない、
…とか言えねぇ、信憑性有り過ぎだろ。
だってそうだろ、おっさんが花粉症無いのは、つまりそういう事じゃ。
「ユーリ…」
「……っ、」
心配そうな目で見んな、心配してくれんのは嬉しいけど。
意地悪で言ってんじゃねぇのが解るから、どうしたら良いか。
いやどうしたらも何も甘味断ちすれば色々収まるのは解ってんだけどな、でも、それってオレには。
「…ユーリ…」
「っ、…あんたは、オレに…」
オレに死ねっつーのか!?
(そんなん言って無いじゃない!お願いだから甘味断ちして、鼻水垂らしたユーリにはちゅー出来ない!)
(無理だ無理絶対無理、甘味断ちするくらいなら鼻水と友達になる!)
(いやぁぁぁああああ!!!)
――――――――
私が劇団行ってた頃代表に聞いた話。
私が花粉症無いのはそういう事かなぁと。
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