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猫の様に眼を細め意味深な笑みを浮かべたナタリアを見て、ガイは眼を逸らし彼女の矛先が己に向かないことだけを願っていた。
「ガイ、こちらにいらして」
「……ただ今、ナタリア様」
願っていても現在この場にはガイ以外いなくて――それというのも彼女にとっては狭いこのファブレ公爵家の屋敷内にてルークが彼女から逃げ回っているからで――致し方なくガイがナタリアに付き合っている訳だった。
彼女の側に行くと、猫の様な表情をした彼女の目線の先に猫が猫の表情をして公爵家の一つの木から降りれずに縮こまっていた。
勇気を振り絞れば降りられるだろうに、そんなことを言っても無駄だと猫は目線で訴えてくる。
「さあガイ、私を肩車してくださいまし!」
「何をおっしゃるんですかナタリア様!」
あまりの発言に後退るとナタリアはむくれて猫ちゃんが木から落ちたらどうしますの助けてあげなければなりませんわ、と怒ってきた。
彼女は己をガイに肩車させて猫を助けるのだと宣っている。
ガイは落ちたらきちんと着地しますよ猫ですから、という言葉も出すことが出来ずに青ざめた。
「俺が女性に触れないこと知っているじゃないですか」
「……あら、うっかりしておりましたわ」
全くガイは使えませんわ、とあっさり引き下がった彼女に若干の痛手を被りつつ安堵し、ガイはまたナタリアに近付く。
いつもならそんなことではどうするとガイに対し宣っているところである彼女なのだが、今は本当に猫のことしか頭にないのだろう。
「でしたら何か梯子のような物でも持ってきなさい」
「…………」
ナタリアが腰に手を当てて猫を見据えているのにガイはため息をつくと畏まりました、とだけ言ってその場を離れた。
彼女は猫が落ちはしないかと心配で、一瞬でも眼を逸らすことが出来ないのだ。
ルーク捜索と銘打って二人で庭を散歩しながら話をしていた時、木の上に爪を立てて身を縮めている可愛らしい猫を見付けたナタリアと言ったら、それはもううろたえて見物であった。
その後、落ち着いた彼女は怪しい笑みを浮かべて私が助けましょう、とガイに宣言したのだった。
「……まったく」
ガイは下を向いて歩きながら微笑を漏らした。
こんな命令などしなくとも、ガイ自身に猫を助けろと言えば良いものを。
そうしないのがナタリアなのであると感じてガイは可笑しくなりながらもお姫様のために脚立を取りに物置へと向かった。
end
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――そんな君だから。
だから何だというんだとガイは首を捻った。
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