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――日の光りを煌々と受け今日も偉大な存在、バンエルティア号は空という名の大海を優雅に泳いでいる。


それは先程チャットが機関室にて黄昏れていた際に漏らしていた言葉であり、その横でハロルドが己の考えている飛行艇イクシフォスラーに使えそうな機能があるかどうか見回っていた。

現在は、というと暑い季節の為にセルシウスがダウンしたことも受けてアドリビトム面々は一致団結しルバーブ連山へ停泊するようアンジュに頼み込み――何故かスパーダが懇願していたが、その理由が着いてやっと分かった――連山付近のなだらかな川原に停まって川で水遊びをしている。
勿論、水着を所持しているものは漏れなく着用している。
スパーダだけでなくチェスター、ゼロスあたりも満足そうに川原に立つ女性陣を近くで眺め回していた。


その様子を乗り込み口からユーリは一人、苦笑しながら見据えていた。
つかの間の休息としても、なんとものどかな光景だ。


「あら、こんな楽しいことやってんなら教えてくれたって良いじゃないのよ」


欠伸を噛み殺しながら寝起きのレイヴンが降りてくるとユーリの隣に立った。

「眩しいねえ。輝いてるねぇ」

目の保養、目の保養、とにやけながら一歩前へ踏み出す。

「健全なる青年は行かんの?」

「水遊びに俺は巻き込まれたくねえからな」

「なるほどね。美味しいハプニングならおっさんは大歓迎よ」


そう言って嬉しそうにレイヴンは通り過ぎていく。
何人か検討をつけてみたが、レイヴンはやっぱりしいなの元に向かっていった。

裸に触ろうものなら呪いをかけられそうだ。





「ちょ、おわっ!」


川の一角に集まっていた王族たちの方から焦った声が聞こえ、ユーリはそちらを見据えた。
状況としては王族であるルークにその使用人であるガイが背中を蹴られて盛大によろけたところだった。

その目前には王族令嬢のナタリア――何とも魅力的な水着をしている、というか下乳が若干見えている――とその護衛をしているティア――こちらは大きな胸がすっぽり隠れている白い水着だ――がいて、思った通りガイは二人に向かって倒れこんだ。

確かガイは女性恐怖症であったか。
彼女らの胸に顔を埋める形となったガイは悲鳴を上げて拒否反応を示し手を伸ばして突っ張る。
その際にもバランスを崩して倒れた二人の乳を触ってしまっていた。

地獄のような天国のような、まさにレイヴンが言うところの美味しいハプニングなのだろう。

すると、ガイの手は藁にも縋る思いなのかナタリアの水着を掴み、外してしまう。
ナタリアとティア、そしてその場にいたアニスも合わさり悲鳴が大きくなった。

その間にライマ国の国王候補であるルークは事が己に飛び火しないようそそくさとその場を離れていった。
高慢であり良く思っていない相手だが逃げ足の速さは認めてあげようとユーリは思う。



暫くするとスケベ大魔王の称号を手に入れたガイが正座をして震えていた。
その前に立ち、ティアとナタリアがこれでもかと言うくらい説教をしている。
後ろを振り向いてもルークはいないのだからガイとしてはとんだ災難だろう。

腕で胸を押さえて水着を持ちガイへ怒りをぶつけていたナタリアは、ティアの方が胸は大きかったとのガイの発言にもう一度怒ってみせるとあとはティアに任せたようだった。
きょろきょろと辺りを見回して、調度良い物影が見付からないことが分かるとため息をついてユーリの方へと向かってくる。

どんな状況でも変わらない王族としての気品を持った出で立ち。
腕によって持ち上げられた形良い胸が揺れ、金色の髪から肩、腰へと流れる曲線がなまめかしく見えた。


歩いてきてこちらに気付いたナタリアはにっこりと笑ってユーリを見上げた。


「あらユーリ。そんな日影で涼んでいないで川にも行ってみたら如何です」


ナタリアは目の前で立ち止まって己にのみ、その透明な白い肌を晒す。

ユーリは口角を上げると何も言わずナタリアの肩に手を乗せ、そしてその弾力のあるキメの細かい滑らかな胸元に顔を埋めた。
その間に、肩に置いておいた手を邪魔をする布のない背中へと滑らす。

すべすべでありまた柔らかな肌を掌で確かめ腰へと落ち着けた。


「あっ……!」


放心状態であったナタリアが急に顔を歪めるのを胸元から見上げると、ゆっくりと顔を放す。

先程と違い赤く頬を染めながらこちらを睨み据えてくるナタリアをユーリはぺろっと上唇を舐めて正面から受け止めた。


「むっ胸に何を致しましたの、ユーリ」

「ああ、この印が何か分からないなら教えてやるよ」

痛みで歪んだナタリアの表情と、胸元についた一つの花びらに笑みを浮かべるとナタリアはキスマークくらい分かりますわとむくれた。
熟れた桃のような顔で言われても迫力などなくて、むしろその顔にそそられるということをこの娘は分かった方が良いのではないだろうかと考える。


「何故それをする必要があったのかと聞いているのです」

「俺は親切心で忠告してやったんだぜ。何処でも堂々とすることを心掛けているのは立派だが、時と場合を考えた方が良い」

そんな格好で人前をうろついていたら襲われる可能性があるからな、と薬指の指先で背中を撫で上げる。
迫り上げる指にゾワッと背筋を伸ばしたナタリアは下唇を噛み締めて恨めし気にユーリを見返した。

「口で言ってくだされば分かります!こんな痕があっては恥ずかしくてまた川になど行けないではありませんか」

「良いんじゃねえの。そんな白い肌、日に焼けたりしたら黒くなるよりも真っ赤になって痛みが続いて最終的に皮が剥けるのがおちだぜ」

王族さまはスパとか行ってた方が身のためだろうな、と言うとナタリアは眉を寄せる。

「……分かりましたわ。百歩譲ってその助言、ユーリの優しさからくるものと有り難く頂きます。ですが、今日の私のこの川原で遊ぶという楽しみはどうしてくれますの」

キッと皆が楽しんでいるのを視界に入れてナタリアは言う。
どうするか、そんなのは知ったこっちゃない。
だがまあそれくらいなら責任とってやるかとナタリアの腰から手を放して己の腰に手を当てた。


「菓子作りでもするか」

「ふえっ、お、教えてくださいますの」

ぱあっと期待に満ちた顔を向けてナタリアは身を乗り出してきた。

「勿論、ナタリアに根性があればの話だけどな」

応えるように笑みを見せるとナタリアはまた一段と悔しそうな表情をする。

「失礼な方ですわ!食堂で待ってなさい!すぐに行きますわ」

「仰せのままに、お姫さま」


畏まって見せるとまったくもって憎らしいですわ、とその白い滑らかな背中を向けてナタリアは颯爽と去っていく。


元々お嬢さまや何やらは澄ました顔して高貴ぶっているところが気に入らないのだが、こうも己の言動一つで揺さ振られるナタリアという存在は楽しい。
そんな楽しみもこんなおかしなギルドに入らなければ知らなかったのだろう。


ナタリアの態度にくつくつ笑って見送っていると、戸惑うような様子で声を掛けられた。


「……ユーリ」

「ん、なんだよ」


後ろを振り向くと、フレンが物言いたげな表情をして立っていた。

エステルにでも誘われたのだろう水着姿で、均衡のとれた腹筋は見事であるがいつもの鎧からすればなんとも滑稽な姿に映る。
言ってみればパンツ一丁と一緒だからだ。


「登場口近くであのような行為はしないでくれないか」

「あのような行為って?」


にやにやして疑問で返せばフレンは嫌そうな顔だけを向けてくる。
ため息を吐いた相手は自らの後ろをちらっと見て、この位置ではナタリア様を見届けていた人たちからユーリのやっていたことが見えていたぞ、と囁いた。


「なんだ、そんなことか」

「そんなことって」

「あんなの見せ付けたに決まってんだろ」


そう言い放つとフレンは頭を押さえた。


「アッシュ様がいなかったから良かったものの」

「ルークならいたぜ。それに今回はどう考えたって立役者はガイだからな」


文句言うならガイかガイを蹴ったルークに言ってくれよな。俺が甘いもん好きなのは衆知の事実なんだから、と宣えば王族の肌を甘味物に例えるのは頼むから止めてくれとフレンは目頭を押さえてエステルの方へ戻ろうとする。


「俺は別に肌が甘いなんて言ってねえぜ」

「なっ……!」


腕を組んで笑って見せるとフレンはこちらを一睨みして今度こそ戻っていった。

肌の前にそれがあのお姫さまであるとも言っていないのだが触れないでおいた。
それにはフレンも気付いただろう。


「暗に意味することは何か。どう受け取るかは個人で変わってくるものだけどな」


――勿論自分自身も。


さて、と艦内に視線を移してまた気高いお姫さまをからかって遊ぼうかとユーリは軽く楽しい悩みを抱えながらバンエルティア号へ乗り込み食堂へと向かっていった。





end
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某お方の影響を受けて書いてみましたユリナタ。
ユーリは、というよりもTOVメンバーはRM3の内容でしか知らないのでおかしところがあったら本当すみません。




















あきゅろす。
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