.


肌触りの良い二人お気に入りのシーツに爪を立て嫌がるナタリアを見てルークはほくそ笑みながら彼女の腰を持ち上げた。


「……自分勝手な人」


ルークに抱かれて階段を降りていくナタリアは眠そうな顔をルークの首筋に隠して揺られて行く。

夜も深く見回りの兵士ばかりが城内を徘徊する時刻。
二人の寝室から無理矢理引き離されたナタリアは夜の冷えた薄い空気を吸い込んでまどろんだ気持ちをゆっくりと浮上させていく。

ルークの執務室につくと、ソファーに寝かせられてルークに覗き込まれた。


「此処で寝てろよ」

「明後日の、マルクトとの国交式典のために体調を整えておきたいのですが」


濃いアメジストが細まり妖艶に笑う。
その余裕のある綺麗な顔はナタリアが逆らえないことを理解しているのだ。


「お前が傍に居れば俺の仕事がはかどる」

「私は、眠っていて宜しいのでしょう」

「勿論、居るだけで良いんだ」


そう言って長い朱色の髪を靡かせて執務に戻るルークを薄目を開けて見ているとナタリアはため息をつきたくなった。

物足りなくなるとは何時だってナタリアの方なのだ。






----------------





駒なんて黒か白かも分かりかねるような薄暗い月明かりを頼りに、ルークは城内客室の床に寝そべりながらチェスをしていた。
盤上を一瞥するとクッションに顔を預け、手前で胡座をかいて座り込むガイを見上げる。


「ほら早くしろよ。お前の番だぞ、ガイ」

「勘弁してくれよルーク。もう何刻だと思ってんだ」


欠伸を噛み殺してからナイトの駒を進めたガイにルークはまだ深夜にもなってねえっての、と直ぐさまビショップでナイトを取る。
やったな、と間延びする声で言ったガイはいい加減にしろよと心の中で罵る。


「俺は明日の国交式典のために、本日遥々マルクトのグランコクマから船を乗り継いでお前ん家にたどり着いたばかりなんだよ」

疲れきっているのが分からんのか、と言うとにやっと笑ったルークは分からねえなと返してきた。

「他人の事なんか結局分かったつもりにしかなれなえんだから」


ぴくっとガイは眉を寄せる。
誰も真面目な切り替えしなど求めてなかったし、そういうからかわれ方も気に食わない。
腹が立ちながらクイーンで詰めるとルークがあからさまに嫌な顔をしてきたのでガイも笑みを返した。


「そういえば国王、というよりもナタリアとの結婚生活の方はどうよ」

「あー…うん。ぞくぞくするな」

「何でだよ」


ガイはルークの言いたいことが全く分からなかったので、そういう表情をするとルークは嬉しそうに目を細める。


「ほらナタリアって根っからの王族気質だろ。真面目だし潔癖だし、それに清楚さ半端ないし」

「んん、そうだな。なんかルークが言うと珍し過ぎて気持ち悪いな」

「おい。でさ、そんなあいつに開けと言って股を開かせれる奴は世界で俺しかいないんだぜ」

なあ堪んないだろ、と駒を見つつ笑ったルークに野蛮人とガイは心の中で罵ってやった。





----------------





――誰も貴方に愛想なんて微塵も求めていませんから大丈夫ですわ。


若干傷をえぐられた気になった言葉は式典後のパーティーの時であった。
隣で来賓に二倍増しの笑顔を振り撒いていたナタリアはルークの分も引き受けていたのだろう。

ふて腐れて周りにほほえましく思われていたなどとは気付かないルークは、深夜疲れて寝てしまったナタリアを横目に見て一人テラスへと出た。


「なあ、お前にこれ程マルクトと仲良くすることが出来たかよ」


アッシュ、と呟き自嘲気味にルークは笑った。

本当はアッシュの立ち位置に己がいるのだと素直に喜べる時など少ない。
しかし、アッシュの為にも己は此処にいるのだと胸をはってルークは夜空を見上げた。


「ナタリアは『ルーク』以外に渡せない、だろ」


唇だけで笑い、星を数える。
これはルークの中では独り言ではなく、会話なのだ。


夜は普段よりも己に素直になれる時間。
だからルークは闇が空を包む時に誰かが欲しくなるのだ。


「今日も疲れたけどさ、まっ心配すんなよ、アッシュ」


ベッドから起き上がったナタリアが一人で喋っているルークに嬉しくなって笑っていることも気付かず、ルークは会話を楽しんだ。


「明日も、俺なりに頑張るから」



――夜は静かに更けていく。








end

----------------

夜に一人でいたくない王様ルークん可愛いだろうなと思いながら書いてみましたが、大体ふてぶてしくなってしまいましたね。
最後だけかな?終わりよければ全てよし!ってことで…。

おそまつさまでしたorz








































第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!