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「何故かしら」


ティアが首を傾げて小さく微笑むのをアニスは隣でジュースを啜りながら盗み見ていた。

本人は隠しているつもりだろうがティアは可愛い物に目がない。
潤んだ瞳はまさに可愛い物を見ている時のそれと似ており、砕けた表情を見ているとからかってしまいたくなるのだが今はそれよりもティアが何に興味を惹かれたのかに関心があった。

どれどれとティアの前方を窺ってみたがこれといって珍しいことはない。
大佐とナタリアが買い出しから戻ってきてティアとアニスが飲み物を飲んでいるカフェテラスの前の通りを歩いているところだった。

二人はそれぞれ袋を抱えて――ガイと一緒に行ったら全部持ってくれるのに――いつも通り言い合いをしており、ナタリアのむくれた表情が見え隠れする。
キャンキャン吠えるナタリアに面倒臭くなった大佐が胡散臭い笑みで片手を挙げて挨拶をし離れていこうとするのをそうはさせませんわ、とナタリアが相手の服の裾を掴んで引き留めた。
それすらも戯れの一部なのだろう。
大佐はやれやれと窘める表情を業と見せてナタリアを煽る。

あーあナタリア遊ばれてるな、とアニスは思ったがやはりティアが何に惹かれたのかが分からない。
分からないなら聞くしかないだろう。


「何処見てんのティア」

「えっなにアニス」

「何故ってなにが」

「えっええっ聞いてたの」


立て続けの質問に困惑したらしいティアは少しして自分が見られていたことに気付いたらしく頬を染めていた。


「あっあのねアニス、その、何故か分からないのよ」

珍しく煮え切らないティアにアニスも首を傾げた。

「なあに。言ってよお」

「だからね、可愛いと思ったのよ。その、ナタリアが」

「そりゃナタリア美人だもん。ティアもね」

「そんなこと言ったらアニスの方が愛嬌あって可愛いわ。そうじゃなくて、ほら大佐の後ろにいるじゃない」

「うんうん、いるね」

「……それだけよ」


ティアは何故か恥ずかしそうに下を向いてしまったがアニスは口をぽかんと開けるしかなかった。

ナタリアが大佐の後ろにつくことなど何度か見てきた。
そんなのは陽射し避けだ。
何だかんだ言いつつナタリアは陽に弱いのだ。
確か砂漠越えの時からだっただろうか、大佐が足手まといになるよりはマシだと陽避けになることを許可したことからたまにあるのだ。
それに大佐だけでなくガイの後ろや横にいることだってある。
その状況にアニスは何の可愛さも見いだせない。


「ほら、ナタリアってお姫様じゃない」

若干皮肉にもとれる発言にアニスは目を見開いた。
それを感じ取ったティアは嫌味じゃないわよと先手を打つ。

「だからね、よく兵士を従えてるじゃない」

「そうだね。城では使用人かな」

「何だかいつも堂々としてるでしょ」

「まあピオニー陛下と渡り合える程度にはねえ」

「行きますわよっていつも先に進んでいく感じでしょ」

「あー確かにそこは変わんないよね」


くすくすっと笑ってティアはジェイドの裾を引っ張る、というよりはジェイドに引っ付いているように見えるナタリアに笑みを深めた。


「あれって前から見たらナタリア半分くらいしか見えない位なの」

「それは近いね」


アニスは言及して意味深にナタリアと大佐の関係をつくってしまうことも出来たが、それよりも――後で大佐の降伏が怖いわけじゃないんだからね――相手が何を見ていたのかは分かったので今度はからかうことを目的に前方の店に指を向けた。


「あっクマさんの可愛いぬいぐるみ発見!」





end

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第三者からのジェイナタ。
言及しないのは書いてる奴が飽きたからとかではないですよ!
何気なく感じてるアニスたちがいいなと思っただけで、本当、そんなんじゃないんだから。


あきゅろす。
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