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壁に密着してあるベッドに寝転がり壁を背にして扉の方を向いていた。
小さな宿舎に夜の気配が迫り、室内の闇を濃いものにしていく。
ランプに明かりを燈すことが面倒だったため、ルークは腕を枕にし目を閉じて個室の静かな黒を味わう。
埃くさい臭いと湿ったシーツの感触。
外の虫の音と共に隣の部屋から微かな音がしてガイが何らかの部品を机から落としたのだろうということを想像させた。
キイッという音がしてゆっくりと目を開くと、ルナの明かりに浮かびあがるようにぼんやりとルークの部屋の扉を開けたナタリアの姿が見えた。
「…………」
扉を叩いた音はしなかった。
それだけは確かだよな、と思って扉を静かに閉めてこつこつと床板を鳴らしながら近付いてくるナタリアの淡い瞳と己のそれとを交わす。
床に膝をつき、交わしていた緑を隠すようにナタリアはルークの胸板に顔を埋めてきた。
深く息を吐いたナタリアは肩の力を抜いてそのまま寄り掛かってくる。
「お前、何か言うことは」
「こんばんは」
「…………」
「失礼します」
「…………」
「少し、恋しくなりました」
それを聞いたルークは少しだけ身体を起こすと両脇を支えてナタリアをベッドへと引きずり込んだ。
身体を傾けて壁にナタリアの背中を押し付けると囲うようにして背中と頭を抱きしめる。
背にナタリアの腕が回され、しがみついた後ゆるりと放され手が添えられた。
「……ルーク」
「…………」
擦り寄る蜂蜜色に頬を滑らせ、相手が抜け出さないことを確認するとルークはゆっくりと目を閉じた。
扉を叩く音が聞こえ微かに目を開いた。
「夜遅くに悪いな」
「……なに」
ルークの部屋の前で扉を叩いたガイは何だよ煩いな静かに寝かせろよ、くらい言われるかと思っていたためルークのその反応に頬を緩めた。
ああなんだ、と思いながらもとりあえず話だけは伝えておく。
「ナタリアが部屋にいないらしいんだ。アニスとティアが心配してる」
「ここにいるよ」
予想通りの反応、答えに優しく笑みを零すとじゃあもう少ししたら戻るように伝えてくれ、とただそれだけ言ってそこから離れた。
声の調子からして寝ぼけていた訳ではない。
ルークがあのように素直になるときは、心から安定している時だ。
久しぶりだったなと思いながらガイは皆のいる広間の方へと足を向け、ルークはまた目を閉じた。
end
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