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怪我をした時、それに気付いて文句を言いながらも傷を治癒してくれるティアにルークはいつもくすぐったい気持ちにさせられる。
それは、傷口を包み込む光がとても優しく温かく感じられるからかもしれない。
しかし、それと共にどこか寂しそうにティアの手と治癒術の光を遠くから見詰めるナタリアに申し訳ないような気持ちにもさせられていた。
何故ナタリアがそんな顔をするのか、ルークには分からなかった。
もしかしたら自分が知らぬうちに傷付けていたのかもしれない。
それをずっと察してあげることが出来なかっただけなのかも知れない。
「俺さ、馬鹿だから分からないんだ」
俺の所為でナタリアを傷付けていたらごめんな、と先程の戦闘で腕に切り傷をつくったルークが腕を差し出しながら言うとナタリアは不思議そうな顔をしながら見返してきた。
「ナタリアさ、その、俺がティアに傷を治してもらってる時に悲しそうな顔をするだろ」
それはもしかしたら勘違いかもしれない。
声が裏返りそうになるのを堪えて言葉を紡ぐ。
俺がナタリアに何か酷いことをしていたなら謝るよごめんな、とルークが言いきるとナタリアは口元に手を添えて俯いてしまった。
もしかして泣かせてしまったのだろうかと慌ててナタリアの顔を覗き込むが、安心したことにナタリアは泣いていなかった。
ほっとしたのもつかの間、そのかわりに顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに見ないでください、と震える声でルークから身体を背けてしまった。
「……ナタリア」
「恥ずかしい。ごめんなさい。ルークは、ルークもティアも悪くないのです」
きっと私がただルークの治癒をしたいと思う気持ちが嫌な顔をつくってしまっていたのですわ、と言うナタリア。
自分勝手なのですわ、と顔を伏せてしまったそれにルークは顔を赤くした。
そこに自分への好意を見付けたような――。
自分にはそんな嬉しがるような権利はないと思い首を振り思い直しつつ、それはどういうことなのかナタリアの白い首筋に向かって訪ねる。
「その、俺に言いたくなかったら良いんだ。ただ、ナタリアが辛そうな顔をしているのは見たくない」
そんなことを言っても良いのだろうかと思い不安になりながらも言葉を紡ぐとナタリアは相変わらず優しいのですわね、と笑ってくれた。
「私には第七音素の先天的素養があることは幼い頃より存じ上げておりました」
稀である能力の素質を持つことは民のために己が役立つことに繋がる可能性を一つ増やすことになる、と考えることもできる。
そのためナタリアは父に頼み込んで第七音譜術士としての教育をして欲しいことを伝え、治癒士として術を操る能力を発揮するようになった。
「でも今思えばそんなことは後付けに過ぎなかったのです」
私は、と言葉を区切ってどこか照れ臭そうに微笑んだナタリアを見て正直に綺麗だなと思った。
「私は、ルークの傷を治たくて、ただそれだけだったのです」
うっとりと目を細めて幼い恥ずかしい想いを蘇らせているナタリア。
そんな顔をさせてあげられる奴はきっと一人なのだろう。
「……アッシュは幸せ者だな」
そこまで人に想われるあいつが羨ましいと思い、自分でも下手くそだと分かる笑顔でナタリアに返した。
それでもその言葉にナタリアは喜んでくれるのだろう。
だが、想定した頬を染めて笑顔を増す表情をナタリアはするどころか訝し気に見つめ返された。
あまりにも不自然過ぎたかと焦るが、ナタリアはそんなルークから目線を逸らして一緒にしないでください、と息をついた。
「………え」
「だから、ルークとアッシュを一緒にしないでくださいと言っているのです。アッシュは貴方のように敷地内を走り回って逃げ回ったりやんちゃばかりして無茶して怪我ばかりするような方ではありませんでしたわ」
貴方といったらガイの忠告も聞かずいつもいつも、と腕を組んで本人を目の前に愚痴を言い始めたナタリアにルークは顔を赤くするしかなかった。
「じゃあ、ナタリアは俺のために」
「今の話で貴方以外に誰がいると言うのですか」
すっかり恥ずかしさもなくなった様子のナタリアは深くため息をついて顔を背けてしまった。
その顔を見ながら、嗚呼と思うしかなかった。
つまり誰でもない俺なんかのことを想って行動したナタリアがいた、ということ。
「俺さ、すごく嬉しいかも知れない」
きっと今、幸せそうな顔をしているだろう。
目を向けたナタリアが瞬くのを見詰めながらまた傷ついた腕を差し出した。
「傷を癒してほしいんだ。頼むよ、これからも」
今も想われていたいなんて我が儘言わないから、それだけは望んでも許されるだろうかとルークは心の中で誰ともなく謝った。
end
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短髪ルーク書くの難しいです。
しかも短髪ルーク視点とかかなり苦手で時間かかりました。
なっちゃんが譜術修得しようと思ったのがこんな理由だったら可愛いのになっと思って書きました。
ルーク暗いね!
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