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ふふっと笑った彼女に眉をひそめると無骨でたまに油臭い手を遠慮なしに掴んできて勿体ないと呟かれた。
「この手は自動車整備に粉骨砕身しているのですがたまにそれが勿体なく感じる時がありますわ」
「勿体ないとは何だいナタリア」
それはたまに物足りなく感じるときはあるもののガイは仕事恋愛共に充実しており彼女であるナタリアに不満を呟かれることはないはずだ。
しかもそれが寝起き一番とあってはガイ自身不機嫌になっても仕方ないと思われる。
彼女の手に掴まれていない方の手でボサボサの頭を撫で付け欠伸を噛み殺して起き上がるとおはよう、と挨拶をする。
おはようございます合鍵使わせてもらいましたわ、と笑顔を崩さない彼女は最初からインターホンを押すということは頭に入っていなかったみたいだ。
もし浮気をしている現場を見付けたら現行犯を詰れるではありませんか、と以前彼女が言っていたのを思い出す。
信用がないというか、ただ経験してみたいだけなんだろうかというか、期待に応えられず申し訳ないというか。
そんな事実はいまのところないだけに彼女の無駄な努力にため息がもれる。
「ガイって私の髪に優しく触ってくれますでしょう。扱いも上手ですし、美容師とか合うのではないかと思いまして」
「……ありがとう。でも俺はその気ないから」
部品を触るのは好きだし仕組みを知ることは楽しい。
新しい機能を発見していく楽しさも古い車に出会えることも喜びといっても過言ではない。
機動性について語りだしたら止まらないがそれを言うのならまだギンジやノエルの方がまともに聞いてくれるだろう。
それでも彼等は操縦する方だからまたガイとは違った魅力をそれぞれに見出だして話が噛み合わなくなってくるのがオチなのだが。
「ガイってば天然のタラシですもの。きっと美容師とかになったらモテまくってより取り見取りでしたわ」
「君はつくづく俺に酷いことしてるって気付かないかなあ。浮気して欲しいってことなのかい」
「違いますわ。その中で一番に選んでもらえたら自信がつくではありませんか」
にこりと笑ったナタリアにそんなことまったく思ってないだろと考えつつ、それでも朝から可愛いことを言ってくれるじゃないかと彼女の頭を撫でてみた。
今日の仕事場での話は決まったなと思いつつ寄れていた学生服の袖を整えてあげて高校へと向かう彼女にいってらっしゃいと笑顔を向けた。
end
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整備士×高校生の早朝。
いきなりパラレルすみません…。
30分くらいで書けました楽しかったです。
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