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眉間に皺を寄せたら可愛くなどないし、寧ろそんな顔を自分がさせたくなどない。
悔しそうに唇を歪めるナタリアを見てお前がそんな顔をするなよ、と困ったルークはしかしそれを顔に出さずに椅子に踏ん反り返って見せた。


「うるせえな。俺はあいつと違って欠陥品なんだよ」

「何ってことをおっしゃるの!そんなことありませんわ」


ルークはナタリアが難儀な奴だと思って仕方がなかった。

何で俺が王族の血縁で朱髪でアッシュの兄で王位継承権を持っているのだろうかと思う。
ナタリアはアッシュの国を良くしていこうと努力する姿を応援し共に挑み支えていこうとしている。
そして、アッシュはナタリアに好意を寄せている。

しかしナタリアは第一王位継承権を持っているルークと婚約しており、あろうことか彼女はそれを受け入れている。

それで良いのか。
おかしいのは自分か。
どこかおかしいと思うことがおかしいのか。

いつだって優秀なアッシュの対極として見られ居心地悪く過ごしてきた。
引け目を感じて仕方ないというのに、ナタリアは婚約破棄などしないし国王も次期王位継承については黙ったままだ。


「あいつの方が王位を継ぐに相応しいと誰もが思っていることが事実だ」

「それこそ妄言ですわ」


では貴方が欠陥品だとしましょう、と先程まで唇を引き結んでいたナタリアは腰に手をあてて誇らしげに頷いて見せてきた。

「だとしたらアッシュもまた欠陥品ですわ」

「…………」

「ルークは何だかんだ言いつつも帝王学は学んでいますわ。国交の中で見えてくるものも見聞きをしています」

努力が足りないためそれぞれに対し考えるまでに至っておりませんがその理解力で真は補っていますわ、と言うナタリアを唖然と見詰めるしか出来なかった。

「そして貴方はアッシュと違い人の痛みを考え躊躇する気持ちを持っていますわ」

ナタリアは声を強めてその一言を発した。
ルークとしては先を読み今の民に苦渋を強いても決行しなければならないことは出て来ると学んできているためただの甘い奴と言われているとしか思えなかった。
きっとアッシュも同じことを思うのだろう。そしてその考えは間違っていないと思う。


「私は自分の行いが全て正しいと思っている訳ではないルークの暗い考え方がすきですわ」

「……俺は根暗で優柔不断な奴と言われているとしか考えられないんだが」

「ええ、私はそんなルークの素晴らしさや優しさを一番よく知っております」

そう言ったナタリアは口元に手をあててそんなことを言ってしまってはガイに怒られてしまいますわね、と笑った。


「アッシュは自らを犠牲にし民にも苦渋を強いて未来を掴む強さと愚かさと危うさを持ち合わせております。ルークの方がその点で全体を見極める力と己を護る力に優れております」


――そのためアッシュも欠陥品。


「二人は双子なのでしょう。二人で補い合ってやっと一人前になれると考えることはできませんか」


そこでやっとナタリアが何を言いたいかが分かった。


「お前二人体制の王なんて民も臣下も面倒臭いことこの上ないぞ」


難しいこと言うな、と踏ん反り返ったまま息をついてルークは苦笑した。
今の段階では戯れ事だと流すこともできる。ピンッと張り詰めていた空気が緩み、ナタリアもほっと息をついていた。


二人の王、それはナタリアが一人で悩んで出した答えなのだろう。
溌剌とした発言の中に見え隠れする支離滅裂とした不安定な考えに込み上げてくる気持ちを飲み込んだ。
そんなことを一人で考える必要なんてなかっただろう。

たまに城を訪れるエステルがナタリアの事をよく心配していた。
その度に大丈夫であるかとルークに――アッシュはいつも忙しそうにしており気が引けて話すことが出来ないとのことだ――聞いてくるエステルに知らねえと返していたが、自分のことではなくアッシュやルーク自身についてずっと想いを巡らせていたのだろう。
それを全て民へ向けてやれよとむず痒い気持ちにさせられる。

ナタリアの気持ちを少しでも組んでやりたい気もするが、何をしたいのかも分からない自分を王位につけても仕方ない。
そこもアッシュに引け目を感じているところだ。

古い考えを固持してルークが王になる必要などないのかもしれない。
だが歴史ある伝統を崩すことはまた思うよりも難しいことだ。


ふと無心になってクレスやロイドと剣を交えている時を思い出した。
あいつらは今後将来について何を考えているのだろうかと。
普段が普段、くだらない事しか言い合ってないだけに頼りないが、あいつらと話をするのは嫌いじゃない。


「……何か良い方法ないか考えてみっか。俺には一緒に悩んでくれる奴らもいるし」

「その奴らの中に私も入れてくださいまし」


ナタリアは淋しそうにそう言ったがルークは鼻を鳴らして嫌だね、と言ってナタリアのいる部屋から出ていった。




end

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うーんなっちゃんはエステルとか誰かに相談出来ない子。
そのある意味弱いところをルークは優しいのに教えてあげなくてナタリアをしょんぼりさせてたらいい。
想いが報われなくて擦れ違っていっても良いよ。


あきゅろす。
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