.


ファブレ公爵家の使用人だった頃。
それも怒りや嫉妬、苦痛や哀しみで全てに憎悪していた時。
よく少し離れて隣に佇んでいた君は、手を伸ばせば届きそうな距離に居ながら実際は雲の上のような人だった。

君は世界を二分する大国のお姫様だったから。
己はしがない一使用人に過ぎなかったから。
君には切り離すことが出来ない婚約者の存在があったから。
己には女性恐怖症という、いま思えば忘れいてはならなかった姉との繋がりがあったから。

愛を伝えることも許されなくて、それが当たり前のことだったから。


先程から己の腕の中にいるナタリアを見詰めながらごちゃごちゃとそんなことを思って、堪えきれなくなって噛み付くように口付けた後だった。
いきなりのことで頬を染めながら睨み据えてくるナタリアを視界にいれつつ、謝る気などこれっぽっちも起きなくて彼女の首筋に顔を埋める。
込み上げてきて膨れ上がるそれを吐き出してしまうように押さえ付けてしまうように、強く強くナタリアを抱きしめると苦しそうに呻いて身体を離そうと抵抗してきた。
その動きすらも手に入れたくて隙間を無くすようにきつく拘束する。
息の詰まるような声がしてナタリアの辛さが直に伝わってくる。

怖いくらいに、夢なんじゃないかと思うくらいに、今在る事実が嬉しい。
恋人の蜂蜜色の髪に顔を埋めて、この想いを伝えて受け止めてもらうのを許されることを誰ともなく感謝したくなった。



「ナタリア。君が好きだよ」




end
----------------
圧迫死させたいくらいに好かれてということはよく分かりました、なんて言い返されたけどそれもまたこの前進し続ける気持ちに相応しくないと思ってしまった。

陳腐ですね;;このガイ君のごちゃごちゃした気持ちがうまく文章に出来なかったです。
もっと凄く嬉しくて愛おしくて切なく思ってるはず。ごめんねガイ。


あきゅろす。
無料HPエムペ!