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格好良いなんて、彼女にはとったら政治の道具にもならないつまらないものだ。せめて綺麗が控えていなければ意味がない。
優しいなんて、彼女には従順であると頷かれて終わりである。そこにあるシャンデリアや絨毯となんら変わりはしない。
紳士的なんて、彼女には数ある礼儀の一部でしかない。ああ、これもまた先程出会ったと同じモノだと区別も付かなくなっているのだろう。
アニスたちに言われた俺の支えているそれらも、彼女には机の上に揃えられた書類のようなもので、流し読みをされておしまいだ。
現在、彼女の目の前には一人の爵位を持った青年がいた。
少しばかり身を屈めて手を差し出し、彼女をダンスへ誘おうとしているのだ。
容姿は並以上、物越しは柔らか。
青年は男爵、親は伯爵、後ろ盾は確か公爵であったか。
まあ、実際はそんな分析は関係ない。
こちらの後ろ盾は反則にも我がマルクトの皇帝陛下だと思われているのだから。
微笑んで差し出そうとした彼女の手を奪うかのように掴むと、失礼と言って笑って見せた。
「約束してあったから」
「……そうでしたか、ガルディオス伯」
軽く頭を下げて悔しそうな表情を見せずに去っていく男を見送ると彼女、ナタリアへと目を向けた。
ナタリアは驚いた顔をしていたが、何度か瞬くと含みを持った笑みを向けてきた。
「ガイラルディア伯爵。私は貴方とは何の約束もしておりませんわ」
「さあ、そうでしたか。では改めてお誘い申し上げても宜しいでしょうか」
首を傾げて見せるとナタリアはくすっと愛らしく笑ってくれた。
「まったく、ガイは強引なんですから」
まったくもって不本意だ。
誰の所為でこんな礼を失するような行いまでしなければならないのか、と責任転嫁したくなる。
「綺麗だよ、ナタリア」
「ありがとうございますわ、ガイ」
澄ました顔で返され、嗚呼これだからと思う。
「……誰にも見せたくなくなる位にね」
また驚いた表情をするナタリアに安心して息をつく。
幼馴染みということを差し引いても、他とは違う特別な相手だと意識してもらいたくて今日も水辺の白鳥のように己は必死なのだ。
end
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なっちゃんに見初められるような花になってください伯爵。
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