リクエスト作品
ミニチュアガーデン


いつも整えている髪を降ろしてぼさぼさにしている姿を見ると可愛いものだと思う。

腰に腕を巻き付いてくる相手をそんな風に評価すると、先日訪れてきたジェイドと彼を思い返してみた。





いきなり入城してきた楽しげなジェイド、とガイ。
幼馴染みであるガイは何故か見慣れた場所だというのに怖々と辺りを見回し、ジェイドにつかず離れずの位置を保ってついて来ていた。


「一般的にいう記憶障害というものです」


ナタリアを見た瞬間――姉上と呼ばれるオプション付きで――抱き着いてきたガイに驚いているとジェイドはそう言って応接間の椅子へと腰掛けた。

記憶障害。それは記憶を構成する過程で何かが正常に機能しない状態をいう。

どういった理由でそうなったのか詳しいことは教えてくれなかったのだが、一応ベルケンドでも検査しようかと思って来たらしい。
しかし、どうやらガイの記憶が五歳程度までのものしかなく――つまるところホドが存在した時の記憶しか持っていないということだ――彼の精神面が検査のそれどころではないのだというのだ。
状況判断に劣り周りの知らない大人ばかりに恐れ、とりあえず詳しいことは落ち着くのを待ってからにしようということになり、彼が休養できるところを探していたらしい。

一番はペールの場所だと思うのだが、ペールはガイの代わりに屋敷のことを任せられているらしい。

ベルケンドにも近いし安全と言う意味で何も知らないナタリアの元に連れて来られ、懐いているようですし暫く頼みますと言って去っていったジェイドには、はっきり言って無責任だと首を絞めたくなった。





腰に巻き付いている相手、ガイをもう一度見る。

ガイにこんなにしっかりと触れたことなど――彼が女性恐怖症なのだから当たり前なのだけど――まったくなく、それはとても新鮮なことだった。

しかし、自分を姉と想い慕うガイが不思議でならなかった。
ガイの姉には強くは思い出したくないあの場所、レムの塔で彼女のレプリカと出会っていたが、しかしナタリアと似ているという印象はなかった。

腰に巻き付いているのは、幼いころに抱き着いていた位置がそこだから腰を屈めて辛い体勢になってもそこにいくのだろうか。
ふっと笑ってナタリアが自分では整えることのできなかった彼の頭を撫でてあげると、彼は大袈裟に肩を揺らした。


「ご、ごめんなさい。嫌でしたか」

「……ううん」


驚いた顔で見上げられ、嫌だったのだろうかと思えば心底嬉しそうに笑みを見せてくる。

ナタリアはもしかして彼は姉に殴られる方が多かったのではないかと勘繰ってしまった。


「ガイ……ラルディア。今日は何処に向かいましょうか」

「うーん、お花畑」

「貴方はそればかりではないですか」


軽く頭を叩けば、それでも嬉しそうに笑って、こちらが正解なのかとも思わされる。
それにしても純粋な笑みを見せるガイは五歳には見えないにしてもナタリアと同じ位かそれより若く見える。


「今日は雨が降ってないから姉上に花冠を作りたいんだ。―…作らせて、いただきたいの、です」


言い方が難しいとでも言うように首を捻らせるガイにナタリアは彼を抱きしめた。


――正直、とても可愛い。


ナタリアには兄弟がいないので、いたらこんな感じなのだろうかと思ってしまう。


「それにしても、ガイに彼女がいたらどうしましょう」

こんなことをしているのを見られたら怒られてしまいますわ、と思ってナタリアは笑みを固める。

「ま、まあ仕方ないですわね。行きましょうか、ガイラルディア」

「はい、姉上」





――記憶障害。

ジェイドは控えたがきっと記憶喪失の方だろう。
彼に何等かの急激なストレスがかかったのか、それともこれまで貯まっていたものが小さな衝撃で現れたのか。

それは分からないけれど、彼が今安らかであれば良いとナタリアは思った。





「あと少しで冠が作れますよ、姉上」


花摘みをしているとガイの器用さに驚く。
にこにことしながら花を編んでいくガイの指先を見詰めていると、ガイは目を細めて照れ臭そうにほほ笑んだ。


「とても素敵な花冠ですわね」

「……姉上にそう言っていただけると、とても嬉しいです」


ガイははにかむようにそう言うと、作り上げられた花冠を大切そうにナタリアの頭へと被せて綺麗です姉上、とまた笑った。



無邪気な笑みは彼からの絶対の信頼を向けられているということの表れ。
ルークやペールへ向けられるものとはまた違う、もっと親しい人への、それ。

主人や従者、友人。ましてや恋人へとは向けられない。
絶対的に揺るぐことのない位置への信頼。


「今度は姉上のネックレスも作らせていただきたいと思います」

「ええ、頼みますわ。ガイラルディア」



ナタリアはガイの笑みを正面から捉えながら少しだけ複雑な気分になった。






――数週間後、記憶を取り戻したガイがナタリアに触れるようになるのはまた別のお話。







End

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回想のシーンでガイをお前呼ばわりしたマリィベル様にびっくりした覚えがあったので、彼女は厳しい方だったんだろうなと思っています。
本物と優しいマリィ(ナタリア)の違いにガイが嬉しくなったりきょどっていればいいなと思います。

リクエストありがとうございました。


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