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「はぁ…」

 ため息をついて鏡に写る自分の姿を見る。
 気が乗らない。

「なんでこんな物…」
 鏡に写る自分の頭部にはフサフサの――ネコミミ。




 時は少し遡って、生徒会室。
「なんですか? これは」
 手渡された物を見て、不快感を露に舘野学人(タテノマナト)は目の前の人物に問う。
「見ての通りネコさんセット♪」
「"ネコさんセット♪"じゃありませんよ。これを俺にどうしろと?」
「モチロン付けるんですよ。舘野副会長。あ、因みに拒否権ないから、ね?」

 会長命令だよ。と言ってよこすのはこの櫻城学園の生徒会長である結城(ユウキ)だ。

「冗談じゃありません。俺が何故こんな物を付けなくてはならないんですか」
「何故って、生徒会の文化祭企画がコスプレ喫茶だからに決まってるでしょ?」

「私は裏・方・担・当なのですが」

 『裏方』を強調してみるが、会長は聞く耳を持たないらしい。
「ダメダメ、副会長っていったら会長のコンビなんだから。オレと一緒に表で目立って貰わなきゃだよ」

 そんな勝手な。



「目立ちたくないから裏方なのに」
 もう一度大きくため息をつく。
 今は生徒会室にある別室。
 仕方なく頭にカチューシャ状になっているミミを付けたが。


「――似合わな…」

 似合うのもどうかと思うが。

「この眼鏡がいけないんだろうか」
 地味で真面目な性格を、そのまま形にした様な容姿を見て学人は呟く。
「まぁ、さっきよりはましか」
 眼鏡を取ると、幾分ましになったように思える。

『ガラッ』
「ま〜なとくん。ま……だ…」
 鏡に映る異様な傾向に我ながら辟易している学人が振り返ると、隣室から会長が顔を出した。
「つ、付けましたが」

「………」

 会長は入って来るなりじっと学人を見たまま固まっていた。
「会長?」
 不思議に思って呼びかけると、我に返ったように返す。
「学人(マナト)……」
「はい」
 突然真剣な顔になるから、学人は思わず居住まいを正してしまった。
「………やっぱり付けなくていい」
「え?」
「ミミ、付けちゃダメ」
「それは…」


 付けるな。と。


 ほんの少し、胸のあたりにもやもやしたものを感じた。  



  
 

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