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刀剣乱舞
四月馬鹿

出陣の帰り道
もう少しで本丸
と言う辺りで山姥切が足を止めた
「すまない。
先に帰っててくれ」
「どうかしたか?」
長谷部も同じ様に足を止めて山姥切の視線と同じ方へ目を向ける
「じゃあ、先に戻って
お茶の準備しておくよ」
「早くおいでねー」
同じ部隊である、燭台切と蛍丸が声をかけ
ちらり、視線を大倶利伽羅は向け先に進む
「やれやれ、二人は元気だなぁ」
俺は疲れた
と、鶴丸がボヤきながら本丸へ向かい歩くと不意に思い出した口調になった
「そう言えば今日は嘘をついて良い日だな」
「…何だ、それは…」
「えいぷりーるふーる、と言うらしいぞ」
「嘘、つくの?鶴丸さん」蛍丸が首を傾げて問えば、楽し気に鶴丸は頷いた
「ああ、すぐに嘘だとバラせば良いだろうし
そうと決まれば、誰にするかなー…
主が出迎えてくれるから、手始めに主に驚きをもたらすか」
「え、主に嘘つくの?」
「鶴さん、それは止した方が良いと思うよ」
「俺達を巻き込むな」
蛍丸、燭台切、大倶利伽羅の言葉に鶴丸は片手を左右に揺らし
呑気に笑う
「何、直ぐに嘘だと言うから大丈夫さ」
「どんな嘘つく気?」
燭台切の気遣わしげな声に鶴丸は首を傾げる
「そうだなぁ…
あ、山姥切が折れたとか、どうだ?」
「え、ちょっとそれは」
「それは止めた方が」
「…悪趣味だな…」
「何、一軍は皆が常にお守り常備しているんだ
主も、戻らない訳ないのを知ってるだろ」
嘘だと、むしろ直ぐ分かる方がいいじゃないか
何なら君等は下でも向いてればいいし。
そうと決まれば、主を驚かせないと
「あ、ちょっと鶴さん」
小走りで駆け出した鶴丸に燭台切が慌てて声をかける。
「急ごう、僕等の機動だと間に合うか分からないけど…」
止めた方がいいよね
燭台切の言葉に蛍丸が頷き、大倶利伽羅がため息を吐くも走り出した

出陣から戻る時間
大体、審神者は玄関近くに居る
今日も居た
いってらっしゃい

お帰りなさい
を出陣や遠征の皆に欠かさない様にと
時間は基本的に把握している
ガラッ
「主!」
威勢良く開かれた引き戸、息を切らせた鶴丸に審神者は瞬いた
「お帰りなさい。
出陣お疲れ様でした…
鶴丸さん一人?」
微笑みと共に気遣う口調の審神者は不思議さを滲ませ問いかけた。
「それなんだが…山姥切が折れた…
皆は、主に会わせる顔がないと…」
眉を潜め走ったせいで苦し気な口調の鶴丸は
俯いていた顔を上げ、なんてな嘘だ。と付け足そうとし主を見た
「……え?」
主の顔は真っ青だった
大きめの瞳は見開かれ
瞬きもせず
ぱたぱたぱたぱたと涙が零れている
頬を伝い
顎から滴り胸元に落ちていく
服は濡れた滲みが、どんどん広がっていく
「主!
ちょ、鶴さん」
「鶴丸!早く訂正しろ」
「主、主!大丈夫?」
息を切らした三人が玄関先の審神者を見て青ざめた
蛍丸が審神者に駆け寄り腕を掴むが



審神者は、ぱたぱたと涙を零し続ける
唇は形作らず
嗚咽の声すらない
「主、すまない。
嘘だ!嘘!山姥切は折れてない」
のろり、視線が鶴丸へと動く
意味が分からないと言う風に首が傾げられる
涙は零れたまま
「今日は、嘘ついて良い日と聞いたんだ」
だから
「…帰ったぞ」
「ただいま戻りました…主?!」
新たに聞こえた声に、のろりと審神者が視線を向け瞬いた。
長谷部が審神者を見て慌てた様に周りを見る
燭台切、蛍丸、大倶利伽羅は視線を背けたり眉を下げる中
鶴丸が片手を軽く上げ申し訳なさそうな顔と声音で口を開いた
「俺が、驚かせて泣かせた。すまない」
「鶴丸!貴様ぁっ」
シャリンと音がし、長谷部が抜刀すると
一気に鶴丸の首筋へと刃先を充てた
「…あんた、どうした
大丈夫か…?」
山姥切が気遣わしげに声を掛け審神者の前に立つ
「……国、広君…」
「ああ、ただいま。」
瞬く度に審神者の目からぼろぼろと更に涙が零れる中、
そろり、両手が延ばされれば審神者が山姥切の頬や布越しの頭へ触れる
「家の、…国広君だよね?」
「ああ、あんたが初期刀に選んだ山姥切国広だ」
触れられるままに山姥切が答えれば
くしゃり、と審神者が顔を歪めた
「よ、良かったぁ…
折れてない…」
ぐすぐすと嗚咽を上げる審神者に顔や頭を好きに触らせたまま
山姥切が、ちらり、鶴丸を見た
「鶴丸に言われたのか?」
うん。と頷く審神者に鶴丸が首筋の刃に青くなりつつ焦った口調になる
「き、今日は嘘をついて良い日だと聞いて、な。
直ぐに嘘って言うつもりだったんだ」
「…主、こいつを圧し切りましょう
もしくは刀解でも。
こいつが居なくても、俺が主の為に何人分もの働きをして見せます」
怒りにまかせた口調で長谷部が言えば
審神者は左右に頭を振る
「だ…駄目。
鶴丸さんも、大事な家の子なんだから…」
泣き止もうと、目を擦り
ぐすぐすと審神者が言う様子に、山姥切が片手延ばした
「擦るな。
もう既に赤いのが更に赤くなるぞ」
審神者の目元擦る手を掴み、ゆっくり下げさせてから
長谷部の方へ近づく
「…何だ?…は?
そ、その様な事…」
不承不承、刀を収めた長谷部は山姥切からの耳打ちに、一瞬で赤くなり
審神者と山姥切を交互に見る
「いいから。
早く連れて行け。
鶴丸には、俺から話す。」
強い口調と視線の山姥切に、長谷部が口をつぐむと躊躇いがちに審神者の前に立った。
「主、申し訳ありません。失礼します」
「え?うん、きゃあっ」
涙目の審神者が分からないままに頷けば
長谷部の両腕が尻下へ回り、浮遊感に驚いた声を上げると
反射的に、そのまま長谷部の首に抱きつき
高くなる視界と足下がおぼつかない感覚に
情けない声を出す
「た、高い。長谷部君、下ろして、下ろして…」
審神者の声に困った様に長谷部が山姥切を見る
「あんたは、そのまま部屋まで誰にも見られない様に
長谷部に連れて行って貰ってくれ」
他の男士に、そんな泣いた所を見られれば
理由を言わねばならないし。
理由を聞けば鶴丸が袋叩きに合うぞ。
山姥切の言葉に審神者が眉を下げ
ぐ、と長谷部の首に回した腕に力込め
「長谷部君。ご、ごめんね…か、顔隠しとくから
寝た事にでもして…」
運んで下さい。
申し訳なさ気な口調に長谷部が審神者を見て微笑みかける
「主が謝られる事は何一つありません。
お部屋まで運ばせて頂きますね」
「ここあ、持って行ってやるから待っていろ」
山姥切の言葉に、うん。と返事をした審神者は
あ、と顔を上げ
蛍丸、燭台切、大倶利伽羅を見て赤らんだ涙目で笑いかけた
「出陣、お疲れ様
お帰りなさい」
「ただいま、主」
「ただいま。鶴さん止めれなくて、ごめんね」
…帰った
三人からの返事を聞きながら、長谷部が歩き出す
再び、しっかり掴まり顔を伏せる
長谷部が歩き出し、離れたのを確認すると山姥切が鶴丸を見た
「すまない。
もうしない。」
青ざめたまま鶴丸が宣誓する様に片手軽く上げる
「……次、あいつをあんな風に泣かせてみろ」
軽く上げられた鶴丸の手を山姥切が取る
「先ず、一枚ずつ手の爪を剥がす」
鶴丸の手に触れ、爪先をトントンと示しながら抑揚の無い声で山姥切が言う
「その後は足の爪
全部剥がし終わったら今度は指の間接を1本ずつ折っていく」
鶴丸の顔色は蒼白だった
他の三人も青ざめ口を閉ざす
「安心して良い
手足全て折ったら手入れ部屋に入れてやる
手伝い札は使わない
折れた骨が剥がれた爪が、じわじわくっつき治る様を眺めてれば良い」
あいつの主義で資材は潤沢にある。
「体験したければ言え
あいつを泣かさずとも
やってやる」
「く、国広君!
ごめんよ。僕等からも鶴さんには
よく言っておくから」
青ざめた燭台切の声に、山姥切が顔を向けた
碧の瞳は仄暗く感情が読み取れない
元々整った顔は、普段より表情が読めない
「そうしてくれ。
あいつの大事な家の子、を俺だって
わざわざ痛めつけたくは無い」
山姥切が鶴丸の手を離し、布を翻し歩き出した
「…じゅ、寿命が縮むって…こう言う事を言うんだね…」
「鶴丸…後で、ちゃんと詫びに行け…」
主に、許して貰って来い
燭台切が、しゃがみこみ。大倶利伽羅は苦々しげに言う中
ぶんぶんと縦に鶴丸は首を縦に振った。
「も、勿論だ
こんな驚きは、流石に御免だ…」
「こ、怖かった…」
へなり、蛍丸も座り込む

スタスタと山姥切は台所へ向かっていた
「…あいつの言う、強くて優しい写し。
では無かったかもしれない…」
さっきの俺は。
自嘲めいた笑みを口許へ浮かべる
「…所詮、写しだからな…」
仕方ない。
小さく息を吐く、片手でむに、と自分の頬を摘まみ軽く引く
「本丸で一番強く優しい写し、とは難しい…」
引いた頬から手を離し、ぺちぺちと今度は軽く叩く
ため息と共に
本丸内で一番怒らせては、いけないのは山姥切国広
怒らせてしまった者は口を閉じ、何があったか語ろうとしない。



END201604

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