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刀剣乱舞
初手入れ部屋 山姥切国広

山姥切は心底困っていた。

何故ならば、打ち粉を手にした審神者が
さっきから泣きながら重傷の自分を手入れしている為だ。
「ご、ごめんね…こんな沢山、怪我…怪我を…」
ぐすぐすと。
ぽたぽた目から涙を落とし、視界がぼやけるのか空いた手で目を擦る
審神者の目元は既に真っ赤だ
「…泣くな。あんたが泣く理由は無いだろう。
怪我をしたのも痛いのも俺なんだし」
困ったまま言えば、ひくり、審神者の肩が跳ねた
「ご、ごめんなさい…」

くしゃり、眉が更に下がり。
泣くまいと我慢する様に唇を噛み、乱暴に目元を擦る。
「ちゃ、ちゃんと何か色々して…出陣、したら
こんな、怪我しなかったかも…」
しれないのに。
嗚咽混じりに申し訳なさそうな声で言われ
そうなのだろうか。
と考えるが。
良く分からない。
政府からの使いと言う、こんのすけに忙しなく出陣をさせられ
挙げ句この様で
「俺が写しだから、こんな事になっただけだろう
気にするな…
あんたも災難だな、初期刀が俺なんかで」
今更考えても、どうしようもない。
審神者のせいでは無いだろう。
ならば、自分のせいだ。
そう思い言えば
酷く
傷ついた顔をして審神者は、自分を見つめ
先程より涙を溢れさせた
「…く、国広君は
私が、選んだ初期刀で…
写しと、か、分からないけど…
私と、これから頑張って、貰う人なのに…
こんな大怪我をさせ、ちゃうし…自分のせい、って言わないで…」
私、国広君に自分の初期刀になって欲しいから
選ばせて貰ったんだよ
もし
もし、他の本丸より国広君の何かが足りないなら
それは私のせいで
国広君は全然悪くないから。
お願いだから
国広君は悪くないから
いたらない審神者で、ごめんなさい。

訥々と、涙を零しながら打ち粉を動かせば
緩やかに傷は消えていく
躊躇いがちに片手を伸ばし、目の前の審神者の目尻を拭った
「…泣くな。悪かった。
あんたを泣かせたくて言った訳じゃないんだ…
次は、気をつける。
写しと侮らせたりしない」
誰にも。

自分の為なんかに、こんなにも涙を流す主
何かが足りなくて負けたのかもしれない
だが、それでこの主が責められるのは嫌だ。
足りなければ補えば良いのだろう
写しに出来る事が、どれだけあるか分からないが。
少なくとも
何かあった時に
目の前の主を守りきれるだけの強さを身につけねば

ぐい、と無造作に目元を拭う。
驚いた様な顔の審神者が、ほんの少し笑った
「…ありがとう」
「手当てをして貰っているし、礼を言うのは俺だと思うが」
「…私が、べそべそ泣いてたから
慰めてくれたんだよね…
優しいね。」
だから、ありがとう。
涙目のままだが、それでも笑いかけてくる姿は
先程より、居心地がいい
「もっと泣かせた気がするが」
「今は、泣いてないよ
嬉しいから」
ぐす、と未だ止まりきらない涙目のまま審神者は笑う。
言葉通り嬉しそうに
「あんたは…俺でいいのか?」
「うん?私の初期刀は目の前に居る山姥切国広君だよ。
他の山姥切君が例え居ても、私の初期刀は国広君だけだから」

顕現した時に握手をした
その時も思った
これが自分の主なんだと
今も思っている
この泣き虫の主に代わって自分が敵を倒すのだ
その為に
自分は、人の型を模したのだ。
「大丈夫だ
次は負けない」
「……あのね」
「何だ?」
「負けても良いから」
「………負けて、いいのか?」
「うん。負けても良いよ。だから
ちゃんと帰って来てね」
怪我しないのは難しいかもしれないけど
少しでも怪我したら帰って来てね
約束して。

この時
本丸内における
全員に対する唯一の主命が確定した。
誰かが軽傷になり次第帰還。



END
1605

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あきゅろす。
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