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6-1
放課後。

俺――渋沢貴紀(しぶさわたかのり)は光海――川崎光海(かわさきみつみ)と郊外にある大型ホームセンターに来ていた。
文化祭準備に必要な買い出しだ。日常雑貨を手広く扱うこの店に来れば、大体のものは揃う。
俺は豪徳寺から渡されたメモに視線を落としながら、購入すべきものを探していた。

「貴紀、紙皿と紙コップはこっちだよっ」

本来、買い出し担当は俺と経堂だった。
それを光海が、女の子に重いものは持たせられないからと、自らその役目を申し出た。
経堂は顔を真っ赤にして、光海の提案を嬉しそうに受け入れた。面倒な買い出しを引きうけるという光海の行動に、クラスの連中の好感度も鰻登りだった。俺を除いて。

「ああ」

光海が顔を俺のほうに寄せて、メモを覗き込む。

「あとは割りばしもか」

光海なら、購入しなければならない品物はすべて頭に入っていそうなのに、その都度こうして確認をする。

「光海。二手に別れて探したほうが、早いと思うんだが」

「オレさっき言ったじゃん、メモを見ないと覚えてらんないって。かといってそのメモは貴紀が預かったものだから、俺が独占するわけにもいかないし。それにこんな広い店、一旦別れたら合流するのも面倒だよ。いちいち携帯で待ち合わせするのも大変だし。どうせ時間はあるんだし、二人で一つずつ確認していこ?」

なんだかんだで適当な理由を言われ、光海は俺の傍から離れない。

「こうやって、二人で選んでるとさ」

「なんだ?」

「予行練習っぽいよね」

「? なんのだ」

光海の言いたいことがわからず、俺は問い返した。それに対して、光海はふふっと笑いを零した。

「もちろん、ルームシェアをした時の」

動きが固まってしまう。
そんな俺の様子を見て、ただ光海は愉しそうに微笑んでいた。



***



「しまった」

「買い忘れ?」

長かった買い物を終えて、ホームセンターの外に出た時に、俺はメモに書かれていない品があることを思い出した。
出掛けに、メモに書き忘れたと豪徳寺から口頭で指示をされた絆創膏だ。

が、薬局は学校に戻る途中でもあるから、わざわざ戻らなくてもいいだろう。
それより早く戻って、解放されたい想いが強い。

「いいよ、オレ、買ってくる。貴紀はそこのベンチで待ってて?」

「いや、それなら、俺が」

「いーからいーから。貴紀に待っててもらうってシチュエーションが好きなんだから。で、なに?」

「……絆創膏だ」

「オッケ。買ってくる」

光海は手を振りながら、再びホームセンターへと戻っていく。


疲れた。


光海の後ろ姿を見て感じたことはまずそれだった。
友人付き合いの範囲内なのに、今ではこんなことですら、疲弊する。

俺は、店の横手にあるベンチで体を休める。大きく息を吐いて、背もたれに背中を預けた。

子連れの主婦や、学生、サラリーマンなど多種多様な人たちが出入りしている入口を眺めながら、自分の現状を省みる。

これから光海とどう付き合っていけばいいんだろう。

得体が知れない。
光海を一言で表すなら、そんな印象だった。

さっきの会話もそうだ。
ルームシェアの件を拒否しようとしたら、話題をすり替えられた。話を自分本位に振って、俺の答えも聞かずに一方的に遮断する。

俺の返答なんて、はなっから求めてないのかもしれないが。

「はぁ……」

何度目かわからないため息をつく。

途端、何かが倒れるような音が裏手から聞こえてきた。

辺りを見回してみても、不審な点はない。だとすると、店の裏手だろうか。周りを見ても、喧噪のせいなのか、誰もそれに反応していない。
自分の気のせいかと思いながら、俺は立ち上がって、音が聞こえた従業員専用の通路を覗き込んだ。

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