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3-2
「そこ、認識してくれてるのに、他がわかってないなー。貴紀、わかってないよっ」

二度、わかってないと繰り返す。そしてまるで小さい子供に言い聞かせるように、ゆっくりと丁寧に、大きな声で俺に語りかける。

「貴紀に、選択肢なんかないんだよ。オレと出会った時点で、貴紀はオレのものなんだから」

「俺は、お前のものじゃない」

光海を睨むと、一瞬驚いたように目を見開く。それから、笑顔を浮かべた。

「ははっ、いいね、うん、いいよ! オレ、抵抗されるの大好きっ。ホント、貴紀は可愛いなあ」

意味がわからない。
光海が何を考えているのか、わからない。

「俺は俺の行きたい道を行く。光海とは一緒にはいかない」

「ふーん、貴紀の未来にオレは必要ないっていうんだ」

「そうだ」

力を込めて、光海に向かって投じる。

「でも、オレは貴紀が必要だから、その案は受け入れられない」

あくまで明るく。
からからと、俺の決意を笑い飛ばすかのように言い放つ。

そして光海は、椅子から立ち上がると、悪戯を思いついたというように、微笑を浮かべた。
俺はそんな光海の雰囲気に気圧されながら、光海を見上げる。

そのあとの光海の行動は素早かった。

「ッ!」

後頭部の髪の毛を引っ張り、俺の顔を上げさせる。
俺が痛みに顔をしかめるのと、光海の顔が俺に近づくのはほぼ同時だった。

柔らかな感触が唇に当たる。

それが光海の唇だと気づくのに、数秒の時間を要した。俺が固まっているのをいいことに、唇の間から舌が入り込み、歯列を割っていく。そこまでやられてようやく、俺の思考と身体は動き出した。

光海の胸倉を力任せに突き飛ばした、はずだった。
渾身の力を込めたのに、光海は微動だにしなかった。逆に、俺のほうが椅子を引きずって後退して距離をとる。
そんな俺の様子をただ愉しそうに光海は笑顔で見ていた。そして、ゆっくりと唾液で濡れた唇を舌先で舐める。

「卒業まで我慢するつもりだったのに、手、出しちゃったっ。ごめんっ」

まるで気持ちのこもってない謝罪をつけながら、光海が俺を見つめる。

「み、つみ……」

「オレ、貴紀のこと大好きだから、放さないよ、絶対に。それから――逃がさない」

光海が笑う。
笑って、俺に宣告する。



光海の秘密を知ってしまってから、歯車がどんどん動き出す。加速する。勢いをつける。
俺にはどうやってそれを止めたらいいのか、その方法がわからなくなっていた。

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あきゅろす。
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