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じりじりと追い詰めるような空気が、僕を蝕むように包みこんでいく。
押しつぶされないように、気持ちを奮い立たせて僕は溝口を睨みつけた。
そんな僕を溝口は楽しげに受け止める。

「僕の後ろで、ってどういう意味なんだ」

何よりも僕が今一番溝口に聞かなければいけないのはその点だった。
今回のことで繋がりがあるのはジェイクだ。それも溝口を呼び出すために、ジェイクは溝口に接触している。その上での、この溝口の反応に嫌な予感が襲ってくる。さっき届いたジェイクからのメールに、変化は何も感じなかったけれど、もしかして、溝口だけがジェイクに気付いて、る…とか。
ぐるぐると、頭の中をマイナス思考が駆け巡っていく。

そんな僕の態度をあざ笑うかのように、溝口は唇の端を上げた。

「俺に聞くのか? 自分で考えたらどうだ。そういうのがやりたかったんだろ」

「っ……」

「最も今さら何か手を打ったとしても、遅いけどな」

「でも、……僕はもう溝口と会う要件はない」

もう生徒会と関わる用事はなにもない。今日で終わるんだ。

「春寿。……お前は本当に馬鹿だな」

優しく柔らかく。そんな表情も出来るのかと思うほど、穏やかな笑みを溝口が浮かべる。
それがまた得体のしれない恐ろしさを感じて、僕は数歩後ずさった。
溝口との距離は充分なほどあるのに、気持ちがずっと押されてる気がする。負けたくないのに!

不意に、溝口からベル音が聞こえてきた。
少し逡巡した後に溝口が胸ポケットから携帯電話を取り出した。表示を確認すると、僕に背中を向けて耳にあてる。

「なんだ」

不機嫌を隠そうともしない声音だ。

「……情報処理室だ。……」

すぐに無言になった溝口はちっと舌打ちをすると、持っていた携帯をポケットへと突っ込んだ。

「春寿」

また強引に僕の腕を掴むと、教室の前方へと進む。

「な、にっ」

「真と鉢合わせたくないだろう」

田之上…!? 今の電話の相手は田之上だった!?

それ以上の説明はせず、溝口は無言で前方にある扉を開けた。扉一枚で繋がっている隣の空き部屋は準備室として倉庫になっている。
中は暗く、いたるところにコピー用紙の束やプリンタのトナーが無造作に並べられていた。
腕を引っ張り、入口から死角になる位置の壁にぶつけるようにして溝口は僕を押し付けた。

「なんなんだ――んっ!?」

声を塞ぐように、僕の口元を掌で覆う。

「騒ぐな」

右腕を押さえつけたまま、耳元に顔を埋めるようにして、小声で囁かれる。
そのすぐ後、教室のドアが開かれる音が聞こえた。

「あれ、溝口くんいない」

「柴田君、電話で大輔は何か言ってた?」

「場所だけ聞いてすぐに切っちゃったから……マズかった?」

「うーん、その切り方だと、怒ってるかもね大輔」

「え、ど、どうしよう、田之上くん」

二人の話し声が壁一枚隔てた向こう側から聞こえてくる。

田之上が、すぐ傍にいる。そのことに僕は激しく動揺していた。

不意に口元を覆っていた溝口の手が、僕の意識を向けるように僅かに動いた。誘導されるように、溝口を僅かに見上げる。思った以上に溝口が間近に顔を寄せていたことに、心底驚く。近い。近すぎる。
身体を捻りつつ、空いている左手で押しのけようとするも、溝口の身体が僕から離れない。
僕が四苦八苦している間にも、会話は続けられる。

「大輔に何か言われたら、俺も口添えするから」

「ありがとう、田之上くん!!」

「お礼なんていらないよ。俺も柴田君にはお世話になってるし。そうだ、またバスケ部に遊びに行ってもいい?」

「勿論だよ、大歓迎!!」

興奮したような柴田の声が聞こえてくる。

「さてと……。大輔もいないことだし、生徒会室で待ってようか」

その言葉に、身体の力が抜ける。思ったよりも早く、田之上たちはこの教室から出て行きそうだ。
けれど、そんな期待を砕くかのような、柴田の問いかけが続いた。

「あの、田之上くん。今朝、溝口くんと話していたことって本当? 聞くつもりはなかったんだけど」

「ああ、リアブレのこと? 本当だよ。暫くはソロプレイに専念する」

静かな部屋の中、田之上の声がやけに大きく聞こえた。

ソロプレイ? マコトが?
でも、それじゃ、ハクとは――溝口とはどうなってるんだ?
そんな風に思った気持ちのまま、溝口を直視してしまう。
ここでそんな反応をしてしまっては、自分の首を絞めるだけだということに、僕を観察するように見ていた溝口と視線が交わってから気付く。

「リアブレで、やりたいことができたんだ。それにはパーティプレイを必要としてなかったから。でも、その用事さえ終われば、またパーティを組んでプレイしたいなって思ってる」

「それじゃ! そのときは、オレとっ」

「ごめん、柴田君。言い方が悪かったのかな。俺はフユとハク以外と組む気はないんだ。パーティは解散じゃなくて、休止なんだよ。……そう、決して解散なんかじゃないから」

休止……? 用事……?

聞こえてきた情報に脳内整理と把握が追いつかない。

そんな僕に目の前の溝口は薄く微笑むと、口元を覆っていた手を放した。冷たい空気が熱を持っていた肌にふわりと触れる。その心地よさに僕が口を開いたほんの一瞬。溝口は顔を少し傾けると、掌の代わりといわんばかりに僕の唇を塞いだ。僅か開いていた唇から、生々しい感触が入り込んでくる。

「っ!?」

より一層、必死に溝口の身体を押し戻そうとしようと力を込めたけれど、びくともしない。壁に押し付けられている体勢自体、不利だった。
抵抗しようとしても、物音をたてたら気付かれてしまう現状、限度がある。それを溝口はよく解っていた。反撃しにくい状況に追い込んだ溝口は僕を執拗に弄り続ける。




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