game-2
「さーてとっ、一気に片付けよっと!」
ジェイクの横まで進めると、リームはビーに向けて杖を突きだした。
「★はリームが魔法の詠唱している間、リームの盾を頑張ってね!」
「はいはい。ったく、人使い粗いなお前は」
リームの盾になるように、ジェイクがその身を動かす。その動きと同時に、一旦リームへと集中したビーの体勢が再びジェイクへと向けられた。
ジェイクは空中を切り裂くかのように、持っていた斧を一振りすると、再び退勢を構える。
その後ろではリームの足元に巨大な魔法陣が出現していた。ぐるぐるの時計回りに回転する陣は、一見しただけでも解る高レベルの攻撃魔法演出だ。その分、発動まで時間がかかるのだろう、リームの詠唱が続いている間にビーの攻撃ターンが開始される。
連続して繰り出されるビーの攻撃に、珍しくジェイクが防御の構えを取った。だけど、ビーの攻撃を連続で避け続けることは難しい。蓄積されるダメージは、じわじわとHPゲージを削り取っていく。
これ以上のダメージは阻止させる!
僕は行動制限が取れるとすぐに、治癒魔法がかかる範囲内に移動し、ジェイクに向けて治癒魔法を選択した。
フユの詠唱時間がもどかしいけど、今の速度ならもうすぐ…!
僕が思ったのと同時に、フユの魔法が展開発動して、ジェイクの身体を包んでいく。
「サンキュ、フユ!」
ビーの攻撃を耐えたジェイクが再び斧を持って、ビーの群れへと攻撃を仕掛けた。一気に間合いを詰め、ざんっとSEを鳴らして、斧が一直線にビーの身体を切り裂く。一撃で仕留めるも、まだまだ数が残っている。単体攻撃を得意にしているジェイクは、複数の敵を相手にするのは、能力上不得手だ。
リームの様子を判断すると、まだもう少し魔法発動まで時間がかかりそうだ。
だったら……!
僕はすっかり体力が回復した魔法使いのアバターの傍を離れ、敵の攻撃圏内へとフユを動かす。
「フユ?」
「攻撃対象、分散させたほうがいいと思う。ううん、して欲しい」
「――わかった」
反対されるかと思ったけど、僕に考えがあると解ってくれたのか、ジェイクはそのまま引いてくれた。
敵の攻撃がジェイクと僕に向けば、回復を1ターン遅らせても持ちこたえられそうだ。
そうすると、1ターン分、治癒魔法以外の補助魔法を使うことができる。
攻撃ターンを終えて、ジェイクが再びリームを庇うようにその身を置いた。リームが今詠唱しているのは攻撃魔法のはずだ。
だから、僕にできる補助魔法――指定プレイヤーの魔法攻撃力と速度を上げる魔法――をかける……!
ビーの攻撃は思った通り、ジェイクと僕で分散された。同時攻撃から、交互に攻撃される変化だけでも随分と防御が取りやすくなる。
攻撃を耐え、行動制限が解けると、すぐに僕は魔法のコマンドを選択する。
すぐにフユの詠唱は終了して、画面にリームに見た目でも解る光の効果が表れ始めた。
「うにゅっ、フユフユ、これこれっ」
魔法の効果に気付いたリームが感情アイコンを笑顔にする。喜んでもらえてると、そのアイコンからも感じ取れて、僕自身も嬉しくなる。
戦闘で、誰かの手助けになれること。それは僕がリアブレで望んでることだから、余計に。
「えへへ☆ リーム、張り切っちゃうからね!!」
ゲーム内のリームの動きが変わる。
ビーへと杖を突きだし、左右に振った。発動間近だ。
「かんせーいっ! いっくよー!!」
メッセージに合わせるように、リームの杖が地面へと叩かれた。
「ヘルズ・フレイム!!」
メッセージ欄にその魔法の名称が打ちこまれたと同時に、リームの足元で回転していた魔法陣が一気にビーの元へとその範囲を広げた。
ビー全体まで範囲内に収めた途端、魔法陣から炎の柱が上がった。そして一瞬、全体に鳳凰のシルエットを映しだし、画面が炎に包まれた。画面上部まで燃え上がっている壁のような炎のエフェクトに目が奪われる。
「強い……!」
「すっげーな、アイツの魔法」
「うんうん、褒めて褒めて☆」
時間がかかった分、威力は絶大だ。想像以上のリームの魔法。
――効果が消えた後、残っていたのはゆらゆらと揺れている草原の草木だけだった。
***
戦闘勝利のBGMがフィールドBGMに切り替わる。
穏やかな草原風景が広がり、さっきまでこの場で戦闘が行われていたのがウソみたいだ。
「やったな、フユ」
「うん! ジェイクとリームがいてくれたからだよ」
「何言ってんだよ、フユもいたからだろ? 俺たちの勝利だな」
みんなで勝ち取った勝ち、なんだ……。
ジェイクの言葉にじわりと胸が熱くなる。僕も役に立てたということが、どうしようもなく嬉しかった。
「ありがとーでした。いやあ、レベルアップ目的で敵が強いフィールド探してたんスけど、想像以上に強すぎて。MP尽きたときはもうダメかと……」
赤い点滅も消えて、魔法使いのアバターはメッセージ欄にお礼を書き込んだ。もう完全に復活したみたいだ。
「間一髪だったわけか」
「運が良かったッス。にしても、ネカマさん意外と強いっスね」
心地いい空気がピシッと画面上から固まったのを感じた。
僕たちの学校は男子校だ。だから必然的にプレイヤーの性別はひとつしかない。だから、つまり――
「あ゛? 誰がネカマだって? もう一回言ってみやがれ、てめーに魔法ブチ込むぞ」
画面のリームがゆらり、と僕の正面にいる魔法使いに近付いた。
感情のアイコンは笑顔のまま、だけど口調だけが恐ろしく物騒な文章がメッセージ欄に現れ出る。
近づいたリームから不穏な空気を感じ取ったのか、魔法使いがじりじりと後退し始めた。
「俺、そろそろ落ちます、助かりました! では」
「あ、逃げんな、てめっ」
ビーに追いかけられていたときより、迅速だったんじゃないかと思わせる動きで、魔法使いのアバターは颯爽と画面上からその姿を消した。
あれだけ元気なら、もう大丈夫……なはず?
「リーム、中身の口調がダダ漏れてる」
「みょっ」
「お前なー。完全に怯えさせてんじゃねえかよ」
「可愛いリームにネカマとかいうからだよっ」
「ネカマはホントだろ」
「むぅっ、★はわかってないょっ!!」
「つーか、いい加減名前で呼べって」
「ジェイク★って打つの面倒だょー。★なら簡単だし。でも、フユフユは別だよっ」
リームをフユへと近づける。平地で並ぶとフユとリームの身長差が良く解った。フユより低いのなら、ジェイクと並ぶと、相当リームは小さく見えるんじゃないだろうか。
「フユフユって呼び方可愛いし、何より呼んでるリームが凄く可愛い!!」
「そこかよ……。あー、フユ。紹介遅れたけど、コイツが俺の言ってたパーティ相手。なかなか変態だろ?」
「変態じゃないもん!! リームは男の子の夢を叶える必須エロ的な存在なんだよ! ロリロリのエロエロは絶対に、絶対に必要なんだから!!」
「っても、お前の中身知ってたらエロもロリもねえんだけど」
テンポよく繰り広げられる二人の会話に、自然に笑みがこぼれる。きっと普段から二人は仲のいい友達同士なんだろう。
少し、羨ましい。
「ジェイクとリームって仲がいいんだね」
「にゅっ……フユフユのその反応は想定外だょっ」
本気で驚いたようなリームの反応。二人を前にすると、ますますリアブレが楽しいものなんだと実感する。
ジェイクとリーム。
きっとこの二人とパーティを組んだリアブレは、僕が想像している以上に楽しいプレイになりそうだった。そんな期待が押し寄せてくる。
バーティを組むかという答えはもう決まっていた。それは、頼まれたからというより、寧ろ僕から願い出たいことだ。
「ジェイク、リーム。僕のほうこそ、これからよろしくお願いします」
メッセージ欄にそう打ち込むとすぐ。
「それは俺の方だって。楽しいプレイにしようぜ」
「フユフユ、礼儀正しい!! うんうん、これから、よろしくねっ♪」
二人の返事に、胸が温かくなる。
久しぶりの3人パーティ。――それは僕が今まで経験したものとは異なる、新たなリアブレのプレイとなりそうだった。
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