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game-1
【Game】


助走をつけたジェイクは空中へとジャンプをすると、そのまま持っていた斧を叩きつけるように振り下ろした。
巨大なムカデのワームと呼ばれるモンスターの身体を切り裂くように、一直線に斧を勢いよく滑らせる。その刃筋を辿るように光の残像効果がもたらされた。エフェクト効果は通常の技よりもはるかにダイナミックに表現されている。

画面上部にクリティカルヒットという文字が神々しく表示されると同時に、中央に陣取っていた青紫色のワームがフィールドから姿を消していく。一撃必殺だ。

「凄い! ジェイク凄いよ!!」

スキルランクが上がって覚えたばかりの新技披露に、僕はまるで自分のことのようにテンションが高くなっていた。高揚した気持ちのままオープンチャットにメッセージを打ち込む。
豪快で爽快感のあるジェイクの技は、ただ見ているだけでも楽しい。

「いやもう、フユさん喜びすぎだろ、嬉しくなっちまうなー!」

敵を倒し終えたジェイクにフユを近づけると、僕は治癒魔法のコマンドを選択した。フユの身体が光に包まれ、詠唱を開始する。
ほどなく魔法が発動し、ダメージを受けたジェイクのHPが回復していく。
上昇するHPゲージを見て、僕はほっと息をついた。

「回復、ありがとな。スカイクラッシュって技なんだけど、発動までにちょい時間がかかるのが難点だろーな。ソロだったらあんま使えなかっただろうけど、今の俺にはフユがいるし」

スキル発動により、通常よりも少し攻撃のターンが遅くなる。その分だけ、相手のアクションが早くなり攻撃を受ける回数も増してしまっていた。だけど一度発動してしまえば破壊力も高く、頼れる大技だ。

「あ、そうだ。フユ、俺の傍に来て」

言われるがままに、ジェイクの横にフユをさらに動かす。フユを並べると、ジェイクの動きが止まった。
意図が掴めず、僕はジェイクの反応を待つ。

「今日待ち合わせしてるヤツにさ、スクショ取ってほしいって言われたんだけど、その練習していい?」

「いいよ、でも練習って?」

キーボードの操作一つで画像保存は簡単にできそうだ。

「よし、フユさんの可愛い発言ごと保存っと」

「あ…っ!」

メッセージログには僕の興奮したメッセージがそのまま残っていた。
今画像保存をされると、その僕のメッセージごと記録されてしまうわけで……!
保存終了されてはじめて僕はそのことに思い当った。

「いやー、フユさんが快諾してくれてよかった!」

恥ずかしいけど、ジェイクがこんなに喜んでるならまあいいか。本当に楽しそうに発言を残すジェイクに、自然と気持ちが絆される。

「にしてもアイツ遅せーな」

「もうそろそろ来るのかな」

明日の打ち合わせも終えて、僕たちは以前から行っている宝探しのイベントを再開させていた。今日はガハラ地方南に位置する草原フィールドでの宝探しだ。
待ち合わせがフィールド上でも大丈夫なのか少し心配だったけれど、ジェイク曰く待ち合わせの相手なら、フィールドでも問題ないとのことだった。

もし街中の待ち合わせだったら、マコトやハクに遭遇する可能性が通常よりも高くなる。僕に気を使ってくれたのかもしれない。さりげない優しさが嬉しい。
ジェイクの友達にも後で会ったら、ちゃんとお礼を言わなきゃ。

「電話の様子だとこれからログインって言ってたから、そんなに遅くはならない感じだったけどな」

だとすると、もうそろそろここに来るかもしれない。
ジェイクの友達ってどんな感じなんだろう。全く想像ができない。現状では謎のヴェールに包まれたままだ。
胸踊る気持ちで登場を待っていた、そのときだった。

突如通常のフィールド用BGMが戦闘のBGMへと切り替わった。
それと同時に画面の右横から見知らぬアバターが飛び出す。魔法使いの赤い法衣を身にまとったそのキャラは、赤く点滅していて一目で瀕死状態だということが解った。
勢いよく僕たちの方までやってくると、ジェイクの後ろへとその身を隠した。

そしてそのすぐ後。そのキャラを追ってくるようにしてビーというハチの大群が僕たちの周りを取り囲んだ。

「フユ、敵は俺に任せろ」

ジェイクはそう発言すると、数歩前に出て敵の注意を引きつけた。追ってきたビーの体勢が一気にジェイクへと集まる。
僕はその間に、瀕死状態の魔法使いへの元へとフユを寄せた。

「うん、2ターンだけ持ちこたえて」

「オーケー! そいつはフユに預けたぜ」

1匹なら大したことがないビーの攻撃も、8匹ともなると見過ごせないダメージになる。
ジェイクは僕を信用してくれた。僕もその期待に応えたい。僕にできることはこのアバターを回復させて、早くジェイクを手助けすることだ。

ジェイクが攻撃を仕掛けると同時に、僕は治癒魔法のコマンド選択を開始する。フユはすぐに詠唱を始め、黒の法衣がふわりと舞った。
きらきらと光が降り注ぎ魔法使いの身体を包み込んで、忙しなかった赤の点滅が消えていく。

「thk!! mj助かった! MPなくなっちまってどーしようかと!」

回復すると同時に、オープンウィンドウにメッセージが現れた。打ち込む余裕すらなかったみたいだ。感情アイコンも笑顔が選択されている。
良かった、助けることができて……!
残るはあのビーの大群を片付けるだけだ。

ジェイクは斧を奮い、ビーに向けて攻撃を繰り出していた。一撃で仕留められるものの、数が多すぎる。
ジェイクは負けない。そう信じていても、次のターンまでの行動制限がもどかしかった。

焦れるような時間の中。
画面の下部からまた別のアバターが現れた。その容姿に目を奪われる。

(おんな、のこ…!?)

薄緑色のツインテール。
シースルーのフリルがゆらゆらと揺れるミニスカート。
紫を基調とした臍出しの服装はどこからどう見ても、女の子の姿をしていた。

その子はビーに囲まれてる僕たちの近くまで歩みを進めると、杖を突きだした。
ビーの一部が彼女をターゲットへと変える。それに動じることなく、その子はさらにジェイクの方へと近づいていく。

「ったく、やっと来たのか。遅せーよ」

「にょっ、★が解りにくいところ指定するからだよっ!」

「もしかして……」

そうだ、きっとこの子がジェイクの言っていた……!

「はじめまして、フユフユ♪ リームが来たから、もう大丈夫だよ☆」

きっとオープンウィンドウに残っていたログから僕の名前を推測したんだろう。その女の子――リームは僕に向けてメッセージを送った。




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