[携帯モード] [URL送信]
side-soichi
学生たちで混みあっているファミレスの一角にあるテーブル席で、中田惣一(なかたそういち)はラストを飾る海老フライを頬張っていた。対面するソファ席では生き生きとエビの生態について語っている紅林博隆(くればやしひろたか)と、なぜか食事をしている自分を食い入るように見ている阿宗明人(あそうあきと)の姿がある。

「……ノビ。俺、今エビを食べてるんだけど?」

キッと正面の博隆を睨む。博隆の方が年上だが、基本的に会話はため口だ。そのことについて、博隆から文句が出たことは一度もない。
ノビというのはrealbladeでの博隆のPCの名前だ。
博隆と明人は、惣一が今現在強制的に参加しているrealbladeというネットゲームで、パーティメンバーだった二人でもある。

「そう! だから急にエビの生態について思い出したんだ。海洋学部に入学したし、ついつい学んだことを惣一君に教えたくなったんだよね!」

食べにくいことこの上ない。そう思って文句を切り出したのに、逆に目を輝かせて答える博隆に呆れてしまう。

博隆も明人もこの春から大学生となり、本来ならば生活環境の違いからなかなか会うことは難しくなるはずなのだが、この二週間というもの、二人の顔を見なかった日が一日もない。恐ろしいことに毎日顔を合わせている。
断れば済む話なのだが、まず第一に高校生と大学生ではその財力も経験も雲泥の差がある。長く生きてる分だけこの二人は惣一よりも狡猾だった。

今日も車をダシに食事を誘われた。帰宅ラッシュに巻き込まれすし詰めのような電車で帰るより、快適な車での送迎に心が傾いてしまうのは仕方のないことだと惣一は思う。

「あー先輩は法学部だけど、別にそんな話をしてないだろ」

見た目の派手な印象とは正反対に、明人は難関大学の法学部へと進学した。
つい数ヵ月前までは自宅謹慎を命じられるほどの素行の悪さを見せていたが、大学受験は一発合格。合格すら難しいと言われていたのがうそのように、周囲の悪評を実力でねじ伏せていた。

「だって、あー君は惣一君を見るので忙しいし。ね、あー君」

「ああ」

惣一から少しもそれることなく、明人の視線が注がれている。少し伸びた金髪の前髪から見える鋭い眼差しからは、何とも言えない居心地の悪さを感じる。なるべく気にしないように努めてきたが、一回指摘されると我慢できなくなってくる。

「いくら俺がカッコイイと言っても、見すぎ! 見すぎだからあー先輩!!」

「見てても飽きない」

「いやいや、そーじゃなくて、俺が恥ずかしいっての!」

「って言っても、惣一君、正面に座ってるし」

にっこりと微笑む博隆に言葉を詰まらせる。一人でも厄介なのに、二人を相手にすると精神的にも体力的にも負担倍増だ。惣一は早々に勝負を投げ捨てて、目の前の食事に集中する。

「っと、メールだ」

テーブルの端においておいた携帯電話がメール着信を知らすべくピカピカと点滅している。
手に取って確認すると、友人である松前理広(まつまえりひろ)からのメールだった。
素早く目を通して、携帯電話をバッグへと仕舞う。

「ノビ、あー先輩。俺、今日リアブレへログインしなきゃいけない用事が出来たからここで帰るわ」

「リアブレの?」

「ああ。今度強制的なパーティイベントがあるんだよ。それで予めとパーティ組んどこうかと思って。その打ち合わせをこれからしてくる」

「惣一君!!」

ぱんっと机を叩いて、博隆が立ちあがる。
そして正面で携帯電話を持っている惣一の手を強引に握りしめた。

「リームさんのスクショ、正座で待ってるから!! 卒業したらID削除とかホント鬼だよ、あそこは」

「普通そうだ「そんなことないよ! 俺のリームさん愛を考えたらそんな鬼畜な行動できないのに!!」

卒業したら当然だと肯定しようとした惣一に大きく被って、目の前の博隆が熱く語り始める。

「リームさん欠乏のせいか、最近ではどうやって惣一君に女装させようかそればっかり考えてるよ!!」

「俺、今この瞬間からノビには近寄らないことを心に誓った」

あああついついカミングアウトしちゃったよ、と頭を抱えている博隆に軽蔑の眼差しを注いで、惣一は横の椅子に置いてあったバッグを持ち上げた。

「送る」

惣一と同時に、明人も立ちあがる。そして惣一が掴むより早く、伝票をその手中へと収めた。
素早い行動だ。だが惣一とて奢られてばかりは情けない。
財布の中から千円札を取り出すと、無理矢理明人へと押し付ける。

「今日は俺が払うから」

「いらない。惣一を勝手に連れ出したのは俺たちだ。ここにも強引に連れてきた。金を払うのは当たり前だ」

「あー先輩。俺のお願い、聞いてほしいんだけど」

これ以上奢ってもらってばかりだと自分がヒモのように感じてくるのだ。今日は何としてでも金を払う。そんな決意の元、上目づかいで言ってやれば、みるみる明人の顔色が朱に染まっていく。

「さっすが惣一君! 自分があー君の弱点だと解った上でのおねだり! 小悪魔!!」

「煩い黙れロリコン変態」

「冷たい! でも惣一君にはどんなに罵られても俺は大丈夫だからね!」

しまった、ドMも付け加えておけばよかったと惣一は軽く舌打ちした。


***


「今日もありがとうございました」

後部座席のドアを閉めて、惣一は運転席と助手席にいる二人へと声をかける。

「明日ね、惣一君」

「また迎えに行く」

そう一言を残して、車は惣一の前から発進した。
20時間後にはあの二人とまた一緒にいるんだろうなと軽く嘆息すると、惣一はバッグに入れた携帯電話を取り出した。そして履歴から相手の番号を選び電話をかけると、相手は数コールの後、声を発した。

「理広? 俺。……なんだよ、オレオレ詐欺じゃねーっての。ってか名前表示されてんだろうが。
今家に着いたから、これからログインするな。
待ち合わせは、どこ? ――オッケ、先そこで待ってて。
……うん? あーわかってるよ。その子のことは、口外禁止なんだろ。ネットのトラブルってめんどくせーよな。俺も経験あるし。
……あー、そっちは心配ない。俺のPC、マジ可愛いから。お前の10000倍ぐらい可愛いから。好感度が最初からMAXなことはあってもその逆は絶対にない。
それと悪いんだけど、今日のプレイで俺のPCのスクショ撮る時間を設けてもいい?
……いや、撮って送っとかないと身の危険を感じるって言うか。いや、こっちの話。うん、そう。頼んだからな!」

通話を切ると、惣一は息を吐きだした。
博隆や明人と過ごしたリアブレはかなり充実したものだった。今だって多少強引ながらも、こうして付き合いが続いていることから考えて見ても明白だ。なんだかんだ文句や悪態をついても、好きでなければ付き合わない。

今度のPTメンバーはどうなるんだろう。
理広のPCを思い浮かべて、惣一はふっと笑みを落とした。




[*前へ][次へ#]

8/20ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!