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「……うん」

ジェイクのことをもっと知りたいと思う。
でもパーティすらジェイクとはまだ正式に組んでいない。今のイベントをクリアするまではと、ジェイクに仲間の話を切り出せていなかった。
そんな今の状態で、自分の欲求だけを優先させるのはズルく思えた。

ジェイクのリアルを知る前に、僕はもっと"ジェイク"と親しくなりたい。まだ、足りていない気がする。

「今度、ちゃんと僕のことから話すから。ジェイクのことも、あとで聞きたい」

『おう、何でも聞いてくれよな。フユのことも俺、知りてえし』

頼もしい声を耳にして、僕はそこで息を吸い込んだ。
僕のことを知りたいって言ってくれるジェイクの気持ちが嬉しい。だけど今はその余韻に深く浸らないように自戒の気持ちを込めて、シーツの上でぎゅっと拳を握る。
話を元に戻さないと。

「それと、溝口に話して貰うことまでは頼めない」

迷惑をかけても、巻き込んでもジェイクは許してくれた。だけど、それはまだネット上を拠点としていたからだ。
だけど今回は違う。この現実で溝口と接することは、前回とは比べ物にならないほど身バレの危険性がある。
そこまでのリスクをジェイクにかけさせたくない。

『クラスメイトと会話するだけだし、フユが何か思うことなんてなんにもねえよ』

でも話す内容は僕に関係している。溝口にしたらただのクラスメイトとの会話じゃなくなるかもしれない。万が一、バレてしまった時に同じクラスなら、人間関係で余計な支障が出てしまうことも考えられる。それは本来ならジェイクが負わなくていいものだ。

「でも」

『俺だけカヤの外、反対ー』

なおも続けようとした僕を遮って、今までより一際明るく、語尾を伸ばしながらジェイクが答える。

『ってか、例えばフユが教師や他の第三者に頼もうとしても、理由を聞かれたり、逆に溝口に使われるかもしれないだろ? 俺だったらその点問題ないし。適任だと思うぜ。
それにさ、例え身バレしたところで、俺だってアイツらのリアルを知ってるから、お互い様だしな。それに俺がバレたところで、フユにはまだ繋がらない』

「あ……」

そうだ、まだジェイクに僕のことを伝えていないということはそういうことでもあるんだ。
それなら、今ジェイクに打ち明けてしまえば、その方法をやめさせられる……?

『それにしても……今フユが目の前にいたら』

「ん?」

『そんなことばっかり言う、つれない口はこれかあ! って抓ってやるのに』

「えっ」

『俺、そんなに頼りねえ?』

拗ねたような口調の後、一変して雰囲気が変わった。重苦しい空気に僕は焦って口早に告げる。

「そんなことないよっ、ジェイクは頼もしいって思ってる! 前にジェイクが一緒に考えようって言ってくれたこと、凄く嬉しかったんだ。誰かと協力する大切さも教えてくれたし……って、ジェイク?」

耳元から急に聞こえてきた笑い声に、僕は名前を呼んだ。
嬉しそうに笑うジェイクの背後からは時折車の走行音が聞こえてくる。
何か歩いててあったんだろうか? そんな風に考えていると、ふっと優しく息が漏れ聞こえた。

『やっぱ前言撤回。目の前にフユさんがいたらぎゅーって抱き締める』

「え……?」

『今回も俺を信用してくれ。絶対大丈夫だから。俺はフユに頼られて嬉しいと思ってるし。……そうだな、これは協力プレイってヤツだ。ミッションは無事に予算提出を終えること。報酬はまた美味くて安い飲食店を俺に教えてくれること』

「そんなことでいいなら、いつだって……あ」

そんな風に話を持ちかけられた僕は、思わずそう答えてしまっていた。この言い方だとジェイクの提案を受け入れてしまったと気付いて、途中で声をあげる。

『決まりだな、フユ』

「……わかった。ありがとう、ジェイク」

やっぱりジェイクにはどれだけ感謝しても足りないけれど。重ねてでも僕の気持ちを伝えたい。

『詳しいことは、リアブレで話すか。……あ、思い出した。そういや俺もリアブレのことでフユに話があったんだ』

「何?」

『フユ、リアブレのイベント情報は確認したか?』

「イベント情報? ううん、最近は予算にかかりっきりでログインすらしてない」

『だよな。俺も今週はまだインしてねえんだけど、ちょっと気になる話を聞いてさ』

「気になる話?」

『次回の強制イベントは、3人パーティで挑まないといけないらしい。もし組んでないヤツがいるなら、ランダムに組まされるみてえだ。俺とフユが出会った時みたいに』

イベント前までに仲間が3人見つからなかったら、ランダムで仲間を強制的に配置するってことか。

『で、その話を持ちだしてきたヤツから、仲間への誘いがあったんだ。そいつ、元々はパーティを組んでたらしいんだけど、仲間が二人とも3年でこの春に卒業してからはソロプレイ中らしい。知らない相手と組むよりかは、って俺に声をかけてきたんだよ。フユさえ良ければ、そいつと交えて3人でパーティ組みたいんだけど、大丈夫か』

「僕は勿論。でも、その相手は僕も一緒でいいのかな?」

『フユのことは是非見たいって言ってたし、平気だと思う』

「? えと、見たいって」

僕のこと、既に知ってる相手なんだろうか。
マコトたちとパーティを組んでいた時のことを思い出そうとするけど、パーティ連れとの遭遇は多々あって、具体的なPC像は思い浮かばない。

『俺がメールしてる相手だってアイツも知ってるから』

あ、そういえば、前にメールのことを友達に話したって言ってたっけ。
その相手が今回のPTメンバーなんだろう。でも、ジェイクのリアルの友達が僕には全く想像できなかった。

『それに1人枠が残ったまま、万が一の可能性もあるランダム配置に不安を抱くよりかは、そいつのリアルも知ってる分だけ安心だと思うし』

「ジェイクの友達なんだろ? 大丈夫だよ。上手くやっていけるかな」

『それなんだけど』

言い出しにくいのか、急にジェイクの口が重くなった。

『なんつーか、そいつのキャラ、変態的っていうか』

うーんうーんと、唸るような声が電話口から聞こえてくる。
へ、変態的!?
とんでもない言い方にますますどんなキャラなのか、想像できなくなる。

『言うより見たほうがはえーと思う。リアブレに呼び出すから。会ってからでも決めるのは遅くねーよな』

「う、うん?」

ジェイクがこんなに言い淀むなんて珍しい。
一体どんな相手なんだろう。

家に着くと言ったジェイクに一旦別れを告げて通話を終えると、熱を帯びた携帯電話を充電機へと繋ぐ。
それからその足でパソコンの電源をつけ、デスクトップに置いてあるショートカットからリアブレを起動させた。

ジェイクと話すまではあんなに不安に駆られていたのに。今は嘘のようにすっきりした気持ちで、僕はリアブレの画面を見つめた。




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