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番外編(二周年企画設定/ホワイトデー話)
【注意】
※二周年企画の設定です。
※真&春寿なので、苦手な方はご注意ください。あまあまではないです。いつも通り。
※途中wikiを参考にしてます。
※バレンタインデーにフユへチョコメッセージをくださった方、ありがとうございました!!







駅ビルの食料品売り場は、ホワイトデー当日ということもあるのか想像以上に活気づいていた。
いつもなら一人では歩きにくい洋菓子売り場も、ホワイトデー特設コーナーのおかげで今日は男子の比率が多い。制服を着た男子生徒が何人も見える。

そして、それは僕の隣でも。

「美味しそうなお菓子ばかりだから、悩んじゃうね。ハル」

「うん」

お菓子が陳列しているケースを見ながら笑みを浮かべる真に、僕も頷く。

今日は隣の家に住んでいるお姉さんから貰った義理チョコのお返しを選びに駅にあるデパートまでやってきていた。
義理チョコとはいえども、家族以外から貰ったチョコは凄く嬉しかった。姿を想い浮かべながら、少しでも喜んでもらえるよう、吟味するように眺める。……けれど、数が豊富にありすぎて、どれを選んだらいいのか悩んでしまう。

「真はどれにする?」

僕より慣れているだろう真に尋ねる。
隣で真剣にお菓子を選んでいる真に、僕も自然と気合が入ってくる。

お返しを買いに行かなきゃと生徒会の仕事を早めに切り上げた僕に、真も「プレゼントしたいものがあるから」と一緒に買い物をすることになった。きっと真もバレンタインデーにたくさんチョコを貰ったからそのお礼をするんだろう。

ちなみに溝口はバレンタインデー当日、全部一刀両断で切り捨てていた、らしい。元々記念ごとに興味がないのか、お礼を買いに走る僕を随分白けた表情で見ていたのを思い出す。溝口に好意を持っている子は大変だと思う。

「俺? そうだな…」

視線を左右に彷徨わせて、真は少し離れた商品ケースへと向かった。

「はい、ハル」

そして、試食用のケーキを手にして戻ってくる。小さなプラステックのフォークに刺さっているのは、チョコレートケーキみたいだ。

「これはどうかな?」

真からフォークごと受け取って、口の中へと入れる。ほろ苦い味わいが瞬時に広がった。

「――おいしい!」

「良かった」

それから真は次から次へと色々なお菓子の試食を僕にさせた。真が持ってくるお菓子はどれもおいしくて、甲乙つけがたい。
中でもふんだんに生クリームを使ったショートケーキがとても美味しかった。ただ、僕にチョコをくれたお姉さんと今日会えるのかがわからない。そう考えると生菓子は厳しい。

ぐるぐると悩んでいると、真が心配そうに僕の顔を覗きこんだ。

「ハル、どんなものにするか悩んでるなら俺に相談して? 一緒に考えたいから」

「でも」

真だって自分のプレゼント選びがあるのに。
そう思って言葉を濁した僕に、真はなおも続ける。

「女の子へのプレゼント選びは、経験あるから。さっきハルが俺に聞いたのも、何かで迷ったからなんだよね?」

「うん……。えと、じゃあ、お言葉に甘える」

正直なところ、真が相談に乗ってくれるのはとても助かった。
今まで女の子にプレゼントを渡したのなんて、片手でたりるぐらいしかない。

真に値段を含めての相談をして、僕は無難に日持ちするクッキーの詰め合わせを選び終えた。

安すぎず、かといって高価でもない。
無事にお返しの品を買うことができて、僕はホッと一息をついた。
家族の分も買ったし、ようやく一仕事を終えた気分だ。

「ハル」

食料品売り場を出て、駅の広場までくると真が僕を呼んだ。
そして、僕の目の前に白い小さな紙袋が掲げられる。そこに書かれた英語の文字は、さっき試食したケーキ店の名前だ。
僕が一番おいしいと思った店の――。

「これは?」

「ハルが美味しかったって言ってたから、ハルにあげる」

「貰えないよ!」

手をぶんぶんと振って拒否の態度を示すも、真はその手をひっこめようとはしていない。

「もう買っちゃったから、ハルがいらないっていうなら捨てるしかないな。これはハルのために買ったものだから」

断れば躊躇なく捨ててしまいそうな真の態度に、暫く逡巡したあと、紙袋に手を伸ばして受け取る。

「貰ってくれて、ありがとう」

「そんな…お礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう。でも真から貰う理由が、ないよ…?」

そう呟くと、真は微笑みをさらに強めた。その艶めいた微笑になぜかぞくりと背筋が凍る。

「ねえ、ハル。ホワイトデーがなんで3月14日なのか知ってる?」

ふるふると頭を振る。どうしてその日になったのか、詳しい由来は知らない。

「3世紀のローマでは、兵士の恋愛結婚禁止令が発令されていたんだ。その政策に反して結婚しようとした男女がいた。
二人を救うためにウァレンティヌス司祭が殉教したことがバレンタインデーの起源とされている。
その背いた二人が改めて永遠の愛を誓ったのが一か月後の3月14日。ホワイトデーはその日付から来てるらしいよ。
永遠の愛を誓った日をホワイトデーにするって、いいよね」

にこにこと笑みを浮かべる真。

――どうして貰う理由で、その話が出てくるんだろう。

軽いはずの手の中にある紙袋が急に重たく感じられる。
僕は安易な気持ちでこれを受け取っちゃいけなかったんじゃないか――。

永遠の愛を誓う日に、プレゼントを渡す行為。
それは真にとってどういう意味を示すのか、尋ねる一言がどうしても紡げない。

そこに踏み込んだら最後、抜け出せなくなる。
そんな気がした。

「真、そういえばチョコのお返しは……? 買い忘れたなら、今ならまだ戻れるから」

真が他に何も持っていないことに気付いて、僕は話を変えるようにしてデパートの入口を指さす。
もしかしたら僕の相談を受けていたせいでプレゼントを買う時間を奪ってしまったのかもしれない、そう思ったからだ。

そんな僕の問いかけに、真は優しく微笑んだ。

「必要ないよ。今年は一つも貰ってないから」

「え?」

真の発言が信じられなくて、声をあげてしまう。そんな僕の態度に真はくすくすと笑いを零した。

「貰ってない。好きな人以外から貰うつもりはないし。さすがに大輔みたいに酷い言葉で断ってはいないけど。
――でも、好きな人からは貰えなかったんだけどね。まあ、それは仕方ないって自分でも思ってるから。だからせめて」

真はそこで言葉を区切った。僕の反応を伺うようにじっと見据える。
僕は蛇に睨まれたカエルのように、身動きひとつとれない。

プレゼントしたいものがあるから、真は僕と一緒にこの買い物に来た。
お返しがないというなら、真の第一目的のプレゼントは……僕への……。

「ハルが受け取ってくれてよかった。今日はありがとう」

張りつめた空気を真自ら変えるように、軽い調子で言葉を放つ。
さっき続けようとした言葉の先ではないというのは、その変わった口調からも察することができた。
真はそれ以上話を進めることなく、僕を機嫌良さそうに見下ろしている。

「……う、ううん、僕のほうこそ付き合ってくれて助かった。真のアドバイスのおかげでお返しのクッキーも選べたし」

「お礼なんていらないよ。俺はただ、自分の目でハルがどんなものを選ぶのか、確認したかっただけだから」

意味がよく、解らない。

「……どういう意味……?」

絞り出すように、それだけ尋ねる。

「実は本命のお返しだったってことがなくて、良かったなって思って」

首を傾げて問いかけた僕に、真は茶化すように明るい口調で紡ぐ。
そう、口調は明るい。笑みも浮かべている。ただ、真の纏う雰囲気だけが、怖い。

辺りは帰宅する人々で騒々しいぐらいなのに、僕たちの周りだけ音が消えたみたいに感じられる。

「そんな、本命だなんて。……好きな相手だって、いないし」

真がなにを考えているのか、わからない。
だけど、これだけはどうしても言っておかなきゃいけない気がした。

真っ直ぐに真に向けた僕を、真は笑んだ表情で迎えた。そしてそれは次第に、愛おしげなものに変化していく。

「うん。知ってる。でも大丈夫だよ」

真から逸らすことは許さないというように、執拗な視線が僕を捉える。
そして、さりげない動作で身体を寄せると、耳元で囁いた。

「きっと、すぐに見つかる。ハルの大事な人は近いうちに、必ず」

放たれた言葉はまるで警鐘を鳴らすかのように、いつまでも僕の耳に残っていた。




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