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番外編3-3
俺はノビが意気揚々と持ってきたデザイン画を前にため息をついていた。

ノビのセンスは最悪と思っている俺だが、さすがに気合を入れると言っていただけあって持ってきたデザインは悪くはなかった。

黒を基調としたメイド服は、胸元がギャザーがハートマーク型に寄せられ、背中は丸く切り取られ素肌を見せる形になっていた。
スカートは超ミニだが、裾から覗く白の三段レースが可愛さを際立たせてる。
髪型はツインテールで、白いフリルのカチューシャを付けるようだ。

女の子が着れば確かに可愛いだろう。女が着れば。

ノビ……俺が着るということをすっかり忘れてるだろッ!
俺の胸元なんか強調したって仕方ねーんだよ!
貧乳は好きだが、俺のじゃねーよ!!
しかもすね毛を剃ってねってなんじゃこりゃ!
なんで女装のためにそこまで本気にならなきゃいけねーんだよ、ド阿呆が!!

と、まあ止まらない愚痴。

勿論俺の感情以外にも現実的な問題がある。
衣装は凝れば凝るだけ時間もかかる。
簡単に作れる服にデザインを変更しないと、いくら手作りとはいえども予算が、なにより時間が厳しくなる。
つまりもっとシンプルでいいし、俺の生足は見せなくていい。ウィッグも金がかかるからいらねーし。

結局、メイド服も俺がデザインするしかないのか……。
作り手――ノビへの負担も考え、なおかつ俺が満足するメイド服デザイン。

「はぁ……」

これというのも全部溝口がメイドとか言いやがるからだ。
お前がメイド服着ろよ! と、メイド服の溝口を想像してやっぱいいやと思いなおす。
ダメージを与えようとして、俺がダメージを与えられたらたまらない。

「中田君?」

「田之上」

顔を上げれば田之上がドアの前に立っていた。俺の顔を確認すると、ゆっくりと近づいてくる。

「今帰りなのか?」

「そう。生徒会ミーティングが比較的早く終わって。教室の電気がついてたから気になって戻ってきたんだけど……仕事熱心だね」

横までやってくると、俺の手元を覗き込んだ。
机の上にはメイド服のデザインをはじめ、文化祭の資料が散らばっている。
良かった、文化祭の資料も置いといて。メイド服だけだったら軽く変態だ。

「田之上のほうこそ。毎日毎日大変だな」

「そんなことないよ」

笑顔で否定する。なんて謙遜。大変に決まってるだろ。
俺はこのメイド服のデザインだけでもう投げ出してやりたい気持ちでいっぱいだ。
すでにもう、自分を自分で褒めたいんだけど。偉い俺。頑張ってる俺。

「これは紅林先輩のデザイン? 凄く気合が入ってるね」

「まーな。ただ、時間的な問題があるからさ、デザインの変更をしようと思ってる」

「そうなんだ」

「あ、そうだ。田之上はどんなメイド服が好み?」

「え?」

俺が尋ねれば思いっきり怪訝な顔をされた。ちょっと直球すぎたか。

「いや、メイド服をデザインし直さなきゃいけないんだけど、2着も思いつかなくてさ」

さすがに俺と松前が同じデザインの服は色々と無理がある。というかお揃いは勘弁願いたい。

「俺もメイド服はよくわからないな」

困ったように苦笑された。うん、ま、そーだよな。
でも俺もネタ出しに困ってる。食い下がるようにして、田之上に質問をぶつける。

「彼女に着せたいメイド服とか」

「彼女、いないから」

「え!? マジで」

思わずまじまじと田之上の顔を見つめてしまう。
目の前にいる田之上は、誰がどう見たって美形だ。さらには性格もいい。
だからか。だからなのか?! あまりにレベルが高すぎて近づけないのか!?
ということは、同じ理由で俺に彼女ができないのか。それなら仕方ない。

「じゃあ好みの子に着せたいメイド服のイメージとかでもいいんだけど」

「それだったら、清楚、かな」

なるほど。清楚ね。
そういうイメージでデザインすれば、シンプルになりそうだな。

「好きな子のために、と想えばデザインを考えるのも楽しそうだね。俺も好きな相手に自分が選んだ服を着てもらうの好きだよ」

「田之上、好きな子いるんだ?」

あまりに甘い顔で言われるから、俺は問い返していた。

「うん」

きっぱりと、そこだけは強く頷いた。田之上が片思いしてるとは思わなかった。
田之上が迫れば、相手はすぐにOKだしそうだけど。

「ってか、服を着て貰えるなんて仲いーな」

「仲がいい?」

「いいだろ。嫌いな奴が選んだ服なんて普通着ないし」

「…そうかな。ありがとう、中田君。勇気づけて貰えると嬉しいな」

ふんわりと、心底幸せそうに笑う。
あーあ、何だよこの調子じゃ時間の問題でお付き合い開始じゃないか。誰だこの話振った奴。俺か。

「いつも喜ばせてあげたいって思うんだけど、欲しいものとか言ってくれなくて」

「へえ。田之上がいればそれだけで嬉しいとかいうタイプ?」

「それだったら嬉しいんだけど」

「な、その好きな子のイメージする色って何?」

「ピンクかな。白も似合うけど」

清楚でイメージする色がピンク。いかにも可愛い女の子だ。俺の脳内ではロリエロ美少女が妄想されていた。

白を基調として、アクセントにピンクでも使うか。
服の丈は…清楚でイメージするならロングワンピースだろ。多少動きにくくなるが、毛を剃らなくていい利点最高。

「メイド服をデザインするのも大変だな」

トンっと指先で机を叩いて、田之上が俺の机から数歩距離を取った。
目の前の田之上に俺の考えなんてバレバレだったらしい。

「頭抱えるよマジで。田之上、1着ぐらいデザインしてくれない?」

「ごめん、好きな子以外の服を考える気はないんだ」

間髪をいれずにきっぱりと断りが入る。

そうだよな、何が楽しくて男が着るメイド服のデザインをしなきゃいけないんだって話だ。
そんなの嬉々とやりたがるのは、ノビしかいねーよ。

ヒントを得られただけでも良しとするか…と俺がぼんやり思っていたとき。

「でも、大変なら他の人に頼んでみようか。大輔とか――」

「いや! いい!! 俺が精いっぱい考えるわ!!」

俺は慌てて机の上に散らばっている資料をクリアファイルの中に入れ、バッグへと突っ込む。

溝口に話を持ちかけるなんて冗談じゃなかった。
それなら、松前と二人でデザイン案を考えた方がマシだ。

そうだ。松前も手伝わせればいいじゃん。俺一人必死に考えることねーよな。アイツも着る服だし、これ!

「じゃ、田之上も生徒会頑張れよな!」

「う、うん?」

急に行動開始した俺に驚いたのか、ぱちぱちと瞬きさせながら頷く。
俺は田之上を置いて、教室から飛び出していた。

溝口回避。そのためだけに。




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