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番外編3-2
執事+メイド喫茶は担任の許しも得て、本格的に始動しようとしていた。

執事はこの俺の素敵企画だから通るとしても、メイドはない。通るわけない。そう思っていたのに、生徒会の後ろ盾はなんて恐ろしいことか。担任にチクりも兼ねて「メイドは溝口案です」と口添えた瞬間、渋っていた担任はあっさりとはんこを押した。
普段から内申を上げるために頑張っている俺より、あの陰険眼鏡のほうが担任の信用があるということに愕然とした。
あいつ…担任の弱みでも握ってるのか?

ともかく無事通ってしまった企画を前に、俺が頭を悩ませていること。それは予算内での服の作成だ。
執事用の服はまだどうにかなりそうだが、メイド服に関しては最初からお手上げだ。
この男子校で調達するのがどれだけ難しいことか。

いっそ買ったらどうだろうとコスプレ衣装専門店で値段を確認したけど、正直舐めてた。俺はメイドを舐めてた。こんな高級なメイド服を着せることができるご主人さまは確かに金持ちだ。それだけは俺が保証する。
福沢が数人必要と解った時点で、オーダーメイドは却下した。かと言って、クラスの中でメイド服が作れるような奴もいない。
メイド服だけで文化祭の予算が消えそうになってるこの現状。
それも俺と松前の分2着も用意しなきゃいけない。
時間もなければ金もない。
無理だ。なす術なし。

用意することは難しい。それが解れば十分だ。
できない理由はきちんと説明もできる。

立候補した松前には悪いが、全力でメイド企画は潰させてもらう。
俺は思わずほくそ笑んだ。


***


「ふっかーつ☆」

一言ミニチャットでログインしていたノビにメッセージを打ち込む。
俺はノビに『作業中☆ 話しかけたらお仕置きだぞぅ!』というミニメールを送りつけていた。

「あ、リームさん、お帰りなさいー。作業は終わりですか? よかったら手伝いますよ」

すぐにノビから返答がある。
ノビは推薦で大学が決まったらしく、ログイン時間が増えていた。
もう一人のPTメンバーである奴の沈黙と反比例するかのようだ。

「もう終わり! 文化祭用の調べ物だから大したことないょっ。それに多分、企画倒れ流れになるからだいじょーぶっ!」

「企画倒れ?」

「うん☆ それより今日はリームのコスチュームチェンジするからっ」

「本当ですか? 是非、俺に! 俺に!! リームさんの服選ばせてください!!」

「えー。ノビのセンス最悪だから、ヤダ」

「あ、ノビじゃなくて鬼獄――

ノビとのミニチャットを切り、俺は街中にある移動ポイントへと向かう。
女性服を取り扱ってるショップは一カ所だ。すぐにノビは来るだろう。
どうせ服を考えるなら、リームを可愛く着飾る方が楽しい。随分金もたまってきたことだしな!
嫌なことは忘れて、今日はぱーっと一日楽しむか。


***


なんであの時、俺はノビに口を滑らせたんだろう。


放課後。
有志が残り、文化祭へ向けての話し合いが行われる時間。
俺はこの時間を利用して、メイド企画の中止を知らせるつもりだったのに――

「紅林先輩が衣装作ってくれるんですか!?」

「うん。俺、裁縫得意だし。文化祭も俺のクラス、皆が受験に専念したいって理由で習字の作品展示だしねー。一日で準備終わっちゃった。俺はもう志望校も決まって免許も取っちゃったし。今死ぬほど暇なんだ」

自ら女装したいと名乗り出る奴がいたことにも俺は驚いたが、さらにメイド服を作りたいと立候補する奴がいることまでは、予想できなかった。

「それに生徒会で田之上と溝口を借りてるからね。元生徒会役員として、二人の代わり…はおこがましくて言えないけど、クラスの一員になったつもりで頑張るから」

おおーっと、残っている連中から歓声が起こった。
俺は苦虫を噛み潰したような表情で、ノビを見る。

ノビこと紅林博隆(くればやしひろたか)は田之上と溝口たちが選ばれたと同時に、お役御免で引退した元生徒会会計だ。
今では俺の方が圧倒的に強いけど、戦士や騎士になればノビはかなりの使い手になっただろう。
だけど選んだ職業はよりにもよってダンサー。
ノビの考えることは解らない。

そう、解らない。なんでここにいるのか、解りたくなかった。

田之上と溝口は放課後になった途端、生徒会室へと向かった。そしてそれと入れ替わるようにノビがやってきたのだ。

俺は予算が足りないことをまず田之上に相談した。田之上を味方につけて、そこからクラスを説得しようと試みたからだ。
それが間違いだった。
田之上に話す=溝口にも伝わる=生徒会連中に漏れると言う繋がりがあったことをすっかり俺は忘れていた。

ノビは生徒会ルートでこの企画のことを嗅ぎつけたんだろう。恐ろしい嗅覚だった。

「今日は田之上と溝口の分まで働くから、何でも言ってね」

にっこりと、ムカつくほど端正な顔で笑いかける。悪いことなんて何にも知りません、みたいな笑顔だ。
中身はロリコンのくせに。

2か月前、ノビの正体を知った時は少しだけ驚いた。名前の漢字表記から推測できたものの、認めたくなかったこと。
ノビが俺より2年も長く生きているということに、だ。
中身がノビならこの紅林もどうしようもなく変態なんだろうと思ったが、リアルのノビは擬態が上手いらしい。
本性を隠して、人の良さそうな優男っぷりで周りから人気を得ていた。
俺もノビを知らなければ、騙されていたかもしれない。

「スッゲーな、中田! まさか紅林先輩が力を貸してくれるなんて思わなかったよ!」

冴島がきらきらと目を輝かせて俺を見る。
ノビのことを尊敬しているような純粋な目だ。
知名度は抜群。ノビはだてに生徒会役員じゃなかったってことだ。

「俺も全くこれっぽっちも想像してなかったさ」

ノビの奴、俺に話を持ちかけるんじゃなくて、まず先にクラスの連中に話をはじめた。なんて用意周到なんだ。ただでさえ面白半分でいるアイツらに話をしたら、ますます面白がって賛成になるに決まってる。
そもそもこの女装に疑問を抱いているのは俺一人だろう。

もう一人の犠牲者松前は立候補だから頼りにならない。今日もバイトだとかでこの放課後の話し合いには不参加だ。
話を聞けば、松前の放課後はほとんどバイトで埋まっているらしい。
立候補したのも女装であれ給仕担当になれば、メインの仕事は衣装合わせ以外はほぼ当日のみとなる。
松前にとって、例え女装をしたとしても、一日で終わる仕事のほうがいいってことだ。

くそッ!
いくら俺がスゲェ美少女になるとはいえども(異論は認めない)、こんな風に周りから女装しろと騒ぎ立てられるのは腹が立つ。
そもそものきっかけは溝口。そして逃げ道を塞いだノビ。
こいつらの遊び道具にだけは絶対になってたまるかよ。

そんな風に心に誓った俺の前に恍惚とした表情を浮かべて、ノビがやってくる。

「惣一君、じゃあ早速服の打ち合わせしようか」

「楽しそうだな、紅林先輩」

敬語なんか使わなくたっていい。尊敬するとこマジで皆無だ。

「惣一君を着飾るなんて、本当楽しみだなあ。可愛いメイド服作るから期待してて。化粧とウィッグでどうにか近づけて見せるから」

近づけるのはリームにだろう。
まあリームの可愛さはプレイヤーである俺にしか表現できないから、そう思われるのは仕方ない。

が、ノビ。空気読めないのはゲームの中だけにしろよ。

ビキビキと、効果音をつけるならまさしくそんな感じで、俺の怒りゲージが上がっていく。

「ところで惣一君は巨乳派? 貧乳派?」

「は?」

思いがけない質問に、眉間にしわが寄った。突然何を言い出すんだ。

「どっち?」

「……貧乳派。というかお前もだろ」

「俺は真性だから。あと生足好きだよね?」

「大好き」

「やっぱりチラリズムは捨てがたい?」

「そこ、生きる糧」

「ふむふむ」

「ちょおい待て、なにメモ取ってんだよ!」

「いやいや、服の参考に」

乳と生足でどんな服が出来上がるんだよ。メイド服だろ、メイド服。

「可愛いは正義だからね! 惣一君にどんなに罵られても、見た目が可愛かったら許されるから。うん俺は許すよ! ああ服のデザイン頑張らなきゃ!!」

可愛いは正義。ノビの口癖だ。紛れもなく、目の前にいる男はノビだった。

さらさらと白い紙に目立つように『貧乳』『ちょっとしたエロス』『生足』と書いているノビの姿を見ながら、次のリアブレログイン時にお望み通り罵ってやると俺は固く決意した。





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