番外編2
「みろよ、ネカマがいるぜwww」
「しかもロリとか趣味丸出しじゃねw オタクマジキメェ」
荒原フィールドを歩いていると、俺――中田惣一(なかたそういち)のメッセージウィンドウにそんな中傷が流れた。
犯人は俺の斜め前にいる戦士二人組。
そのメッセージを見て、俺は足を止める。実際に止まったのは、画面の中にいる俺のPC、リームだけど。
全く、これだから低俗な奴らは困る。
この俺が可愛い女の子をロールしなければ、一体誰が癒しになるって言うんだよ。
学校でも男! ゲームでも男!! そんな男だらけの環境をお前らは好んでるっていうのかよ!
俺はな、リアブレ世界における必須エロなんだよ!!
そこんとこ、わかってもらえますかね!?
「リームさん落ち着いて! わかってます、俺はわかってます!! リームさんはリアブレ世界に咲く薔薇です。中身が残念な男でもそんなことは全然にじみ出てませんから!!」
俺の様子を敏感に悟った仲間であるノビが微妙なメッセージを打ち込んだ。
ちなみにもう一人、俺のシンパがいるけど、そいつはここ暫くログインしていない。平和なことだ。
「ノビ」
「あのリームさん、何度もいいますが俺はノビじゃなくて鬼獄院雅劉(きごくいんがりゅう)という名前が」
「PCで一発変換できない中二病の名前なんて変換大変だもん!!」
「辞書登録してくださいよ!」
鬼獄院雅劉ことノビの見た目は丸顔に大きな眼鏡、中肉中背。見た目の印象は思いっきり某ネコ型ロボットの作品に出てくるあのキャラだ。
どう見てもそれにしか見えないので、俺は常々ノビと呼んでいる。
「わかった、鬼獄院雅劉(ことあだ名ノビ、ね☆」
「一文字も一致してないし! コピペもちょっと失敗してるし!?」
ちょっとズレたんだって。細かい奴め。
漢字での名前登録はかなりバグが多かったとかで、今では使えなくなっている。ノビの名前はある意味貴重だ。
「で、話もついたところでノビ、召喚のダンス」
ノビのメッセージは黙殺して、行動指示を出す。
「全然、話しついてないし!! 〜〜あああもうわかってます、わかってますよ、リームさんはこーいう人だってわかってますけど!!」
愚痴愚痴と文句を言いながら、ノビがダンスの構えを取った。
ノビの職業はダンサーだ。このリアブレ内の一体どこの層に需要があるのかわからないが、ダンサーだった。二度言ったが、全く大事なことじゃない。
「召喚ってことは、モンスター降臨のですよね?」
「うん☆ つよーいの呼んでね!」
俺はノビから距離をとって、先制攻撃をもぎ取るために呪文の詠唱体勢に入る。
ノビは暫く迷っていたみたいだったけど、俺のお願い通りに奇怪としか言いようがないダンスを始めた。
「なんだよあいつ、ダンサーかよwww」
「ネカマロリとキモダンサーwww」
俺はメッセージウィンドウに表示された二人組の会話ログを見て、思わず口角を上げた。
ノビは何故お前その職業を選んだダンサーではあるが、決して使えない奴じゃない。それは俺が一番よくわかってる。
ノビがダンスを終えた途端、穏やかなフィールド音楽が緊迫感あふれたものに代わる。
きた…!
画面中央部に突如として、それは現れた。
巨大な翼をはばたかせ、ライオンのような険しい表情で咆哮する。
メッセージウィンドウには俺が求めていた文章が表示されていた。
「なんでガーゴイルが!?」
――そう、現れたのは、ガーゴイルだった。
続いて画面にガーゴイルの能力値が現れる。
俺たちをからかっていた戦士たちのメニュー画面にも表示されてるはずだ。
この召喚のダンスは俺たちのPTレベルに合わせたモンスターが召喚される。
俺のPCはなかなか強い。ダンスしか取りえないノビも、俺が引っ張ってるからそこそこレベルがある。
つまり、俺たち二人が呼ぶモンスターはそれなりの強さがあるモンスターだ。
二人組の戦士はあわあわと逃げの体勢を取る。
へえ、自分の力量がわからない馬鹿じゃないらしい。勝てない相手には無理をしない。これ、全滅しない鉄則な。
「さーてっ☆ リームもがんばろっと!」
くるんっと杖を持ったリームを、ミニスカートを舞わせるように回転させる。特に行動に意味はない。俺の自己満足。以上。
その動きに伴って、薄緑色の縦ロールの髪がゆらゆらと揺れた。こういうとこ、リアブレは無駄に細かい。
今まとっているピンク色を基調とした衣装は、生足もさらけ出しているミニ仕様だ。俺のPCながらマジ可愛い。
俺は戦闘のメニュー画面から、魔法を選択する。
リームは先制攻撃を高確率で得られるスキルを持っている。それは詠唱時間を戦闘に入る前に取ることができると言う優れものだ。
後は術を選ぶだけだけで発動する。放つ魔法は出力最大。雑魚なら一発即死の大魔法だ。
「――メテオスウォームッ!」
別に叫ばなくてもいいんだけど、気分的に叫んでおく。
隕石が落下するというこの魔法は、上位魔法の一つで、敵全体に大ダメージを与えることができる。
勿論消費MPも半端ないが、基本俺の回復は仲間に任せている。俺はただ強大な魔法をぶっ放していくだけでいい。
画面上部に魔法が表示され、それと共に隕石が落下する演出が画面上を覆った。次々と巨大な隕石がガーゴイルにヒットしていく。
小気味いいSEも連続で聞こえてくる。
爽快感と共にあっという間にHPを削り取られたガーゴイルは一瞬にしてその姿を消していた。
俺の悪口を言っていた戦士二人はその場で固まったように一歩も動かなかった。
「リームさん、さすがです! 痺れるぅ!! あ、勝利を記念してキャプ(※キャプチャ。ここではPC上に表示されてる画面を画像ファイルとして保存すること)を取らせて下さい! アングルはあおりでお願いしまーす!!」
ノビめ、さりげなくエロ目線だな。でも期待に答えない俺じゃない。
少し小高い丘に登り、ノビの望むようなポージングをする。また見えそうで見えないミニスカデザインなんだな、これが。
「はーい、オッケーです! 今日も可愛いですリームさん!」
「ありがとっ☆」
「あ、さっきの二人組、逃げましたね」
「むにゅう!? 逃げた!?」
ノビに言われて二人組が固まった地点を見れば、すでにその姿はない。いつの間にかログアウトしたのかよ!
「リームさんの実力見て、PKされるとか思ったんですかね」
「にょ、リームはそんな非道なことしないもんっ。ただ、目の前で実力の違いをたっぷり見せてあげただけだよっ」
「そーですね、お前らが敵に回したPCはこんなに強いんだって、悪役のように嫌味な実力を披露しただけですもんね!!」
「ノビ……てめーそろそろ黙らないと、先輩だからって容赦しないぞ」
敬語で俺に話しかけてくるけど、ノビのプレイヤーは3年の先輩だ。俺とは2つ年が離れてる。あともう一人も今ごろセンターとの戦いだろう。
ノビは一足早く推薦で大学が決まったとかで、1月の今ものんびりとリアブレにログインしている。
「リームさん、リアルの口調がダダ漏れてます!!」
「みょっ!? いけないいけない☆ ……そろそろそのお口閉じないと、魔法で大人しくさせちゃうからねっ」
「でもそこ、言い直すんですね…!」
「大事なことだもん」
俺は小高い丘を下り、無言でノビの傍に近付いた。
「わああっ、すみませんすみませんっ!!
――あああああ、でも怒ったリームさんもいいですね! もう一枚キャプいいですか!」
ノビは決して使えない奴じゃない。
ああ、それは俺もよくわかってる。
「ホントリームさんを見てると、可愛いは正義って言いたくなりますね!! その容姿だけで、中身が多少アレでも許せます!!」
多少魔法で懲らしめても許されるよな? うん許すね☆
俺はそう自問自答すると、メニュー画面から魔法を選び始めた――
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