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番外編3-1
「このクラスの出し物なんだけど、執事喫茶がいいと思う」

あと2か月に迫った文化祭に向けて、今日はクラスの出し物を決めるHRだ。
クラスの中で一人しか当たらないという抽選で見事文化祭実行委員の座を得たのは俺、中田惣一(なかたそういち)。
その日の朝の占いは、仕事運も勉強運も絶好調第一位だったのに!!! 畜生! なんで俺は貧乏くじ引くんだよっ。

――と心の中で毒づいて。
俺はアンケート回収に引き続き、笑顔で実行委員を承諾した。
が、ただでは転ばない。
俺に委員をやらせるということすなわち、俺の自由にさせてもらう。

その第一歩がクラスで行う催しものの内容だ。

俺が提案すると、クラスの中から賛成と反対の声がそれぞれやかましいほどあがる。

「いいか、文化祭は保護者や他校の生徒の出入りも自由だ。つまり女もこの学校にこれるってことだ!」

だん、っと教卓を拳で叩く。
俺が力説すると、一体感のある声が返ってきた。ここに文句を言う奴はいないだろう。

「執事喫茶の利点は、接客担当になれば女の子との会話が簡単にできる。それも自然にだ!」

俺たちはこの学校に入学して数か月、同い年の女子というものに触れ合っていなかった。
これで全寮制だったら気が狂っていたと思う。
毎日言葉を交わせるのは食堂のおばちゃんだけなんて、鬼畜すぎるだろ。そのせいで俺は今まで何人『熟女キラーに俺はなる!』と宣言した奴を見たことか。

ただの喫茶店でも交流は可能だが、インパクトに欠ける。他のクラスでも出る案だろう。
その点、執事喫茶はわざわざやりたいという男は少ない。でも、それを求めている女子は多いはずだ。

俺が執事喫茶にこだわる訳。それは、
『お帰りなさいませ、お嬢様』(最初の掴みで会話に入れる。ごく自然に)
女の子が転びそうになったら
『足元が悪いのでお気をつけてください、お嬢様』(さりげなく手を取る)
話がはずんだら、
『お嬢様、お名前をお聞かせ願えますか』(あくまで執事の仕事としての一環を漂わせて、名前ゲット!)
こんなのただの喫茶じゃできるはずがない!

俺は、クラス中にその利点について切々と説いた。

「中田ー天才だー」

冴島がはやし立てる。
全くそんなに褒めると照れるだろ。もっと言ってくれ。

「ただ執事喫茶の一番大きな問題点は、接客担当の数があまり多くとれないってことだな」

この教室で行うとしたら、5人もいれば十分だろう。明らかに需要と供給のバランスが合わない。

「まずは田之上に執事を担当してもらって、確実に女の子を引き寄せてもらうとか」

俺の目の前に座っている三島が挙手して発言をする。
田之上が客寄せパンダか。充分過ぎる。
クラス中の視線が中央に座っている田之上に集まった。

田之上は困ったように笑うと、その場で立ちあがる。

「ごめん、中田。俺と大輔は生徒会の関係で当日は本部運営にかかりきりになりそうなんだ」

ええーという抗議がいたるところで起こる。
それはクラス行事をやらないという批判の意味ではなく、単純に田之上の不参加を残念に思う声だ。
相変わらず田之上は人望がありすぎる。

「田之上は不参加か」

「勿論準備は手伝うけどね。でも中田君はカッコイイし、きっと素敵な執事になると思うよ」

田之上、そんな本当のことを言うなよ。照れるだろ。もっと大声で主張してくれ。

「ぶっちゃけ田之上が抜けるのは痛いな」

イケメン2人が不参加となると、客寄せできる人材が俺と――ちらりと松前の様子を盗み見る。
クールビューティ、松前理広。
だがあの顔文字事件から、俺の中で果たして本当にクールなのかと謎人物になっている男でもある。

松前は肩肘をついて、ぼうっと外を眺めていた。
少し前の俺なら、クラス行事にあまり興味が持てず、外の景色を見てたそがれているクールな男と映ったかもしれない。
でも、今の俺には激しく眠そうだなおい、としか見えなかった。
ってこいつ、ちゃんと起きてるよな?

「中田」

低く抑揚のない声に俺は顔を向ける。その声の主である溝口は、嫌な予感しか漂ってこない意地の悪い笑顔を浮かべていた。

「男子校でやる執事喫茶なんて、魂胆が見えて近寄り難いだろう」

ぐ…。
確かに発情した俺たちが下心丸出しで近づいても警戒されないか、それは極めて難しい問題だった。
俺が女だったら確実に近づかない。

「執事とうたうなら、女子の求めるレベルも自然と上がる。お前はその要求に答えられるのか」

「……それは」

執事喫茶は実際に商業として成り立っている。満足するレベルは難しいかもしれない。
でも、そこはノリで押し切るしかない。そーいうもんだ。

「だがある程度ネタ路線に絞れば、警戒心も求めるクオリティも多少は薄れるぞ」

ネタ路線…?

「それにそのほうが、面白い」

お前の本音はそれだろ!!
こいつ自分が参加しないからって、言いたい放題だな、おい。

「……溝口、俺は聞かないからな、そのネタ路線はなんですかなんて」

「執事とメイドを合わせた喫茶も面白いかもな? 格好いい中田は女装も似合うんじゃないか」

いかにも笑いを抑えられないと言った様子の溝口に、苛立つ。
カッコイイなんて思ってねーだろ。ってか俺の発言思いっきりスルーですかい!? 聞かないって言っただろ!!

いくらリアブレで可愛い可愛いリームを演じていても、実際女装するとなれば話は別だ。
どんなに俺が美形で似合ったとしても、女装なんてノーサンキュー!

溝口の奴、俺が悪口言ったのをまだ根に持ってるに違いない。何か月経ってんだよ、忘れろ! 陰険眼鏡!

「あー、でも中田がメイドやって盛り上げるっていうのもありかな」
「俺がやるんじゃなきゃどーでもいいや」
「キモイ女装がいれば、多少執事がイケてなくても良く見えるっていうか」

ざわり、とクラスの雰囲気が俺にとって嫌な方向へと向いていく。
ってか、誰だ、キモイって言った奴。出てこい。

「俺はキモくねえ! 俺の女装は絶対に似合う!」

「そうか、中田はやってくれるんだな」

フレームを中指で持ち上げながら、溝口がニヤリと笑う。

「な…!? 言質取るのかよ、汚ね!!」

「どうとでも」

よっしゃー俺執事! 俺も俺も、と暢気な声が俺を襲う。
何故だ、何故俺は女装することになってるんだ!?
このままだと俺の彼女作る計画がぶっ潰れてしまう…!!

そう頭を抱えた時。

「中田一人じゃ可哀想だな。俺もやろうか」

ぱんっと手を叩いて、松前が俺に微笑んだ。
クールビューティの松前が見せる笑顔に、思わず惹きこまれる。

「え…松前?」

「俺、可愛く喋れるかな。そこが激しく心配なんだけど」

えー心配ソコー!!!?? 
そう思ったのは、勿論俺だけじゃなかったらしく。
少しの間をおいて、クラス中が一気にどよめいた。



松前の女装メイドは後々伝説になるぐらい評判が良く(勿論俺もだが)、そしてまさか女装がきっかけで理広と仲良くなるなんて、俺はこの時想像もしていなかった。



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