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番外編1-2
よし、全部ある!

バサッと音を立てて、俺はアンケート用紙を整えた。
この厚みも俺の努力の表れだと思うと、満足感がある。
優秀な奴ら=真面目な奴じゃないということがこのアンケート回収を通じて学んだことだ。
特クラでこんな状況なんだから他のクラスはもっと悲惨なことになってるだろう。もっとも回収に当たってるのは担任かもしれないが。

どいつがどの回答をしたのか見てやろうかと思っていたけど、後半になるとそんな悠長なことは言ってられなくなった。
何しろ、書いてない奴らが多すぎる。用紙自体を紛失した奴も数名いた。
一日かかったが今ここに全員分が集められたのが奇跡としか思えない。それというのも俺がそいつらのフォローに奔走したからこそ。よくやった、俺。

「せめて今軽く目を通しますか」

ぱらぱらとめくっていく。
うん。群を抜いて字が汚いのは溝口だと思うが、他もなかなか…個性的だ。

「ん?」

あるアンケート用紙で手が止まる。
どちらかというと丸文字に近い可愛い字だが、俺が目に留めたのはそんなところじゃない。


Q.戦闘難易度について、何か要望はありますか。

モ(゚∀゚)━ウ( ゚∀)━(  ゜)━(  )━(`  )━ダ(Д` )━メ(´Д`)━ポ(;´Д`)━━━!!!

(#)Д`;;)←こんな状況になるので、ダンジョン内に回復ポイント希望。


ごしごしと目を擦ってもう一度、アンケート回答を見る。


Q.協力プレイに関して、あなたの考えを教えてください。

仲間いない…(´;ω;`)ウッ…


誰だこれを書いた奴。ちょっとそこに座れ。俺と友達になってください。

つかマジで誰だよ!? 小学生が書いたようなふざけた回答は。おもしれーだろ!
けど、こんな回答をするような奴が俺には思い浮かばない。こんなキャラの奴、クラスにいたか?

「中田」

「うおっ!? あ…先生ですか」

ぼーっと考えていた俺の肩を叩いたのは、この役目を押し付けた担任だった。

「ちゃんと回収はできたようだな」

「はい、バッチリです」

俺は持っていたアンケートを上に乗せて、担任に手渡した。
俺への評価は内申でガッツリ上げてくださいよ。約束ですよ。
そんな念を込めて、担任の目を見つめる。
けど担任はそんな俺の想いを跳ね飛ばすように、簡単なお礼だけを言うとアンケートを手に教室を後にした。出ていくの早!


おいおいマジかよ。


これは日にちの不幸だと呪って終わりなだけの骨折り損のくたびれもうけ?

一気に力が抜けて、机の上に上半身を倒れさせる。
精神をすり減らして、得たものは何ですか。溝口の好感度下げですか。ロクな事ねえ。

「中田」

「ん?」

再び名前が呼ばれ、寝そべったまま上を見上げると、松前理広が無表情に俺の顔を覗き込んでいた。

松前が俺に何の用だ?
同じクラスとはいえ、今まで松前とは交流が全くない。お互いに名前だけは知っていても、話したことはなかった。

クラス一のクールビューティ。
ほとんど感情を見せることがなく、いつでもポーカーフェイスでいるせいで、周りからこっそりとそう呼ばれている。
愛想をふりまけばもっとモテると思うんだけどな。と思ったけど、男子校だから必要ねーか。

それに笑うって言っても溝口みたいに人を見下したような嘲笑は遠慮したい。

「アンケートってまだ間に合う?」

「あ、駄目。今担任に持っていかれた」

「そっか、もう少し早く思い出していれば間に合ったのにな」

誰も寄りつかせないような雰囲気を放っている松前だけど、話してみるとそうでもねーのかな。これだけじゃわかんないけど。

「書き忘れたのか」

「戦闘難易度のところで、最初の顔文字間違えたんだよなー。喜びから入っちゃマズかった」

ん? 顔文字?

「呼んで悪かったな」

思考がストップしている俺に、松前は詫びの言葉だけを言うとさっさと教室を出ていく。
本当にこのためだけに戻ってきたらしい。

松前が教室から出て行った後暫くして、ようやく俺の頭が動き始める。

「え、あれ書いたの、松前……?」

クールビューティだって、周りから噂されてる松前が、あれを…?


「って嘘だろ!!!!!!」


叫んだ俺に罪はないと思う。例え廊下まで響き渡ったとしても。


それが後に友人となる松前理広と接した最初の出来事だった。




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