お絵かきBBSお礼1-2(エドとロス中心オールキャラ) 少し進んだところで、僕の目の前に影が落ちた。 狙っていたとしか思えないタイミングで現れた目の前の人物を僕はゆっくりと見上げる。 「ロスベル様」 「…エド」 エドの登場に周りからもざわめきが起きた。 羨望。尊敬。憧憬。そんなプラスの感情ばかりが、エドへと集まっていく。 ――どうして、ここに。 エドも龍を探してるはず。だからここにいても不思議じゃない。 だからこれは、偶然。――そう、考える。 「カイリなら、ユーリと一緒にオーリン教授のところへ行ったよ」 「そうですか」 興味ない、といったような短い返答。エドはその場から動こうとしない。 仕方なく、僕も歩みを止めてエドへ向き合う。 (なんでエド様がロスベルと?) (あれだろ、家関係) (出来の悪い長子がいると大変だよな) 「聖堂へと急いでください。まだ龍が学院内にいます」 聞こえた嘲笑に僕が唇を噛みしめるより早く、エドが冷たく言い放った。 殺気を放つエドに、僕だけじゃなく、周りもその身をすくませる。 鋭く突き刺さるような口調に、周りにいた学生がまるで蜘蛛の子を蹴散らすように聖堂へ向かっていく。 あっという間に、歩廊には僕とエドだけが残った。 エドは周囲の状況を確認して、無人になったのを確認すると、僕の前に跪いた。そして、ユーリがさっきまで掴んでいた指先を取る。拒もうと手を引こうとしたけど、エドの力は僕の抵抗を封じた。 「ロスは人の目を気にしますから」 「エド…! 放せ」 「すぐに放します。貴方は俺にとって、絶対の存在だ」 そういうと、端正な顔を傾けて、指輪から手の甲へと唇を滑らす。 触れられたことが至上の喜びと言わんばかりに、至福そうに顔を綻ばせる。 「聖堂へ行かれるのですか」 「そう。だから、もう――」 「ユーリがカイリ様に付いているのを見かけましたので、その間は俺がロスベル様のお供をします」 「……なに……?」 どくんと鼓動が跳ねる。嫌な予感がした。 「このような状況の中、ロスベル様をお一人にさせてしまい、申し訳ありません。けれど、安心してください。これからは俺がお傍にいますから」 「違う、違うよ! エドが護るのはカイリだ。僕のことはいい!」 「カイリ様なら、お一人で十分対処可能です。龍もお一人で捕まえられたのでしょう?」 平然と言ってのけるエドに、僕は絶句する。 「――そういう問題じゃないだろ。エドはわかってるはずだ」 「ええ。いくら小龍といえども、力を持った龍です。その危険な龍が学院を徘徊している。俺が取るべき行動はひとつです」 嫌な予感が確信へと代わる。 エドがカイリと離れ単独行動をした理由。今、僕の目の前にいることが全ての答え。 「何度も言ってるけど、今の僕は、エドの主人じゃない」 「ロスベル様。そう思っているのは、貴方だけです。俺は、大切な貴方を他の誰にも護らせたくはありませんので」 これじゃあ、従者交換をした意味がない。咄嗟のときに僕を優先してしまっては、何の意味もないんだ。 せっかく従者を交換しているのに、ユーリはカイリの傍にいて、僕の傍にはエドがいる。 なにも、変わっていない……。 僕が一人混乱してるのをよそに、エドは僕の傍へと近付いた。 「なにっ!?」 急に抱きかかえられて、僕は悲鳴に近い声を放ってしまう。 そんな僕を落ち着かせるように、エドが耳元で囁いた。 「俺の傍に。ロス」 その声から数秒遅れて、何かが鳴いている声が聞こえた。それは、鋭い翼を羽ばたかせる音ともに、どんどんと近づいてくる。 エドは僕を腕の中へと抱え込むと、右手を僕の後頭部に寄せる。そして、聞き取れれないほど早口で詠唱を始める。 それが防御魔法なのだと気付いたのは、ふわりと暖かい空気が僕の体を包み込んでからだった。 それから、エドは空中を旋回している龍を見上げて、右手を掲げた。 指輪が眩い金色の光を放ち、龍へと真っ直ぐ伸びていく。 龍の大きさは先ほどみた青龍よりも小さく、僕の腕の長さほどしかない。全身が赤いうろこでおおわれていて、間違いなくカイリが話していた灼熱の炎を吐き出すと言われている赤龍だろう。あんなに小さな龍でも、全力を持って暴れれば被害は甚大だ。 カイリが捕まえていた龍はもう捕縛された後だった。けれど今僕の頭上にいる龍は違う。あまりに間近で見た龍に、僕の身体が知らずに震える。 怖い…! ユーリ…っ!! その震えを抱きとめていたエドが気づかないわけない。 僕を支える腕にぎゅっと力を入れて、僕の身体を己へと寄せる。 「俺が傍にいる。ロスには傷一つつけさせない」 安心させるように、耳元でしっかりと紡がれる。 エドに護ってほしいとは思ってない。なのに、今の僕はしっかりと護られている。自分の力のなさに、泣きそうになってくる。 僕が力をつけなければ、駄目だ。口先だけで護ってほしくないと言ったところで、説得力がないんだ。 どのくらいそうしていたんだろう。 「ロス、もう大丈夫だ。あの龍は俺の配下に下った」 「え…?」 エドに柔らかく耳元で囁かれ、僕は顔を上げた。 その言葉通り、赤龍は僕とエドの傍をくるくると舞うように飛行している。 エドが見上げて視線を地面へと落とすと、その仕草通りに赤龍が地面へと降り立つ。 そして大人しく、その場で翼を休める。 「配下に……」 エドは、高位の召喚魔法を得意としている。龍と契約を結び、配下にさせることはできない話じゃない。 だけど……この短時間で、龍と契約したっていうのか。 だとしたら、この学院に入学して、僕の想像以上にエドの実力は高まっている。 「もう貴方を傷つけることはない」 その言葉とともに、エドが僕の左腕を持ち上げる。 ふわっと赤龍は左腕に降り立ち、甲高い鳴き声を放った。 「これが…」 昨日までは書物の中でしか読んだことがなかった生き物が、僕の腕にいる。そのことに、感慨深いものが湧いてくる。こんなことがなければ、触れることすらできなかった龍だ。 つんと鼻を伸ばし、赤色の瞳がくるくると動く。 「ロス様っ!」 赤龍に完全に意識を奪われていた僕を現実に戻したのは、僕の大好きな人だった。 「ユーリ…?」 僕は、エドの腕から離れ、ユーリへと近づく。 そして、ユーリの服の裾を掴む。それだけで、心が落ち着いていくのを感じた。エドじゃなくてユーリに傍にいてほしかった。 傍にいてくれたなら、きっとどんな危険なことだって、耐えられる。 「聖堂にいらっしゃらなかったので、お探ししました」 「ごめん、ユーリ…! ありがとう、ちゃんと来てくれて…」 カイリとエド。ユーリと僕。 赤龍を挟んで僕たちは別れる。 「さすがエドだ。仕掛けることなく、あっさりと捕まえてしまうなんて」 カイリは興奮気味に、エドへと近づく。 「カイリ様。これで逃げだした龍は全部ですね」 「これでお役御免だ。ユーリ、今度は僕とエドでこの龍をオーリン教授の元へ連れて行くから」 「……はい」 「行こう、エド」 そう言って、カイリはエドの腕に自分の腕を絡める。 「カイリ様。腕を掴まれたままでは、術が使えません」 「あ、ごめん。もうこの龍はエドの配下なんだっけ? 教授、驚くだろうね」 一歩引き、エドから少しだけ距離を取る。エドはそれを一瞥すると、わざとらしく右手をかざした。その腕に赤龍がちょこんと乗る。 ――嘘だ。エドは詠唱するだけで、術を放つことができるじゃないか。 それにさっきは目配せだけで、赤龍を僕の腕まで飛行させた。術は完全に施されている。使う必要性なんて、ない。 僕が睨んでいるのを別の意味にでも捉えたのか、なぜかエドは僕に向かって微笑む。 「…っ、ユーリ!」 なんだかとても怖くなって、僕は大好きな人の名を呼ぶ。 「どうかしましたか、ロス様?」 呼びかけにユーリが心配そうに僕の顔を覗き込む。 ユーリの顔が視界いっぱいに映って、僕の中から恐れや不安が消えていく。 ユーリがいればいい。ユーリが僕の傍にいてくれたら、それだけでいいのに。 「帰りたい……」 「わかりました。帰りましょう」 微笑むユーリの存在を確認するかのように、僕は裾を掴んでいた指先に力を入れた。 「ロスベル様。どうかお気をつけて」 心配そうに僕を見るエドに、 「じゃあね、兄さん、ユーリ」 そのエドに寄り添うカイリ。 早く離れたくて、望んでいた形に戻したくて、僕は二人に背中を向けた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |