お絵かきBBSお礼1-1(エドとロス中心オールキャラ) ※お絵かきBBSへの投稿イラストお礼に書いたお話です。 「オーリン教授の龍が?」 僕はユーリに連れられて、聖堂がある棟へと向かっていた。僕たちの周りにいる学生も、同一方向に向かっている。 ユーリが周囲に神経を張り巡らせながら、離れないようにしっかりと僕の手を握っている。強く握られてるけど、全然痛くなんかない。 ユーリに触れられていると思うと、緊張で汗ばんでくる。 別に大した意味はない。はぐれないように、つなぎとめているだけ。それだけ。 意識していることを知られないように、僕は極力平静を装いながら、ユーリに問いかけた。 「はい。なんでも魔術を施していた檻を破って、学院内に逃げ出したとか」 オーリン教授というのは、治癒魔法を専攻している教授で、龍研究にも造詣が深い。研究室に小龍を数頭飼っているとは耳にしたことがある。その龍がまさか逃げ出すなんて。一体何が原因なんだろう。 「まだ子供といえども、龍の力は強大です。教授クラスならともかく、オレたち学生に対処できるレベルではないのではないかと」 オーリン教授の檻を破るぐらいだ、その力は僕たちより遥かに強いものだと思う。 龍は相手の能力を見抜き、自分より劣るものには従わない。己の中で序列をつける生物だ。格下と認識されれば、敵とみなされ返り討ちに遭うことだってあり得る。 学院内は簡単に魔法発動ができないように特別な封印が施されているけれど、それは龍にも対応するものではない。それにこの学院の封印は、僕でも解呪できるぐらい、緩い封印だ。安全な場所とはとてもいえない。 「ですから、ロス様。全ての龍が捕らえられるまで、安全な聖堂内に留まっていただきます」 うん、と僕は頷いた。 聖堂には全ての攻撃を緩和させる結界が張られている。作りも頑丈だし、おそらく聖堂前には教授たちが何人も龍捕獲と生徒たちの警護のために集まっているはずだ。 それに、ユーリが一緒ならこれ以上心強いことはない。ユーリがいるだけで、僕自身が強くなれる、そんな気持ちすら沸き起こってくる。 ――刹那。 歩廊に面した中庭から、ぱんっと鋭い音が聞こえ、劈くような鳴き声が響き渡ってきた。 「なに…?」 「龍の鳴き声です。もうひとつは――」 これが…と僕は、声の聞こえた方角を見る。同じように周りの生徒もそちらの方向を眺めていた。 「ユーリ?」 言葉が切れたまま、ユーリが一点を見つめている。僕も目を凝らして、ユーリの視線の先を食い入るように見つめた。けれど、人が多いせいで何が起きているのか、この場所からだとよくわからない。 「カイリ様」 「――え」 「見ろよ、カイリ様だ」 「すごいな、簡単に捕縛してる」 「レベルが違うぜ」 ユーリの呟きの後に周りから感嘆の声が漏れ聞こえる。ユーリはただ真っ直ぐに、カイリがいるらしい場所を凝視している。 「……カイリの傍に行こう?」 「すみません、ロス様」 僕の言葉と同時に、ユーリは僕の手を引っ張り、前へと進む。 カイリは特別クラスの生徒だ。僕たち一般クラスとは、レベルが違っている。だからこの龍の捕縛に対して、借り出されることもあるのかもしれない。 とはいえ、龍と戦っているかもしれないなんて思ったら、誰だって心配、する。 心配しなくちゃいけないんだ、僕も。 この醜い嫉妬心より、まず先に心に想うのはそれであるはずなのに。 *** 眩いまでの赤い光がカイリの右手から放たれ、龍の身を覆っている。その光の中で、龍は僕の身の丈ほどある身体を縮ませていた。 碧いうろこをもつ、青龍と呼ばれる龍だ。 「カイリ様!」 群衆を一歩飛びぬけて、ユーリがカイリへと近づいた。繋がれていた手が離れる。急に冷たくなった指先を握りしめ、僕も慌ててそのあとを追う。 「カイリ様、お怪我は?」 そう声をかけたユーリに、カイリは大きくため息をつく。 「見ての通り、なんともない」 「どうしてカイリ様が、龍の捕獲を……」 「この広い学院内を教師たちで補うには限界があるからだ。学院内にいる龍は全部で5頭。今捕獲をしたので4頭だから、残りは赤龍だけだな」 まだ捕獲できていない龍がいるのか。 「ところでカイリ様、兄さんはどこに…」 きょろきょろとユーリがあたりを見回した。 「エドは僕と同じく、龍の捕獲に回ってる」 「そんな…兄さんはカイリ様の身をお護りする立場です。別れて行動なんて」 「ユーリ。エドは僕を信用してくれてるんだ」 信用とか、そういう問題じゃない。エドはカイリを護る立場にある。 僕の従者だった時、エドはそう言い放ち、僕の傍から離れなかった。 分散して捕獲をしなければいけない理由なんて、ないはずだ。エドが取るべき行動は、カイリの身を護るために、捕縛協力を拒むか、あるいはカイリと共に龍の捕獲をすることだ。それを別れて捕まえよう、だなんて……。 「それに効率の問題もある。一刻も早く龍を捕まえなくてはいけないし」 「でも、なにかあったら」 「なにか? なにがあるっていうんだ。こうして僕は一人でできてる」 光の帯が龍の首に巻きつき、首輪のように光り輝く。 「僕はこれからこの龍をオーリン教授へと届ける」 だから、どいてくれないか。とカイリは僕たちをきつく見据えた。 ユーリはカイリへ一歩踏み出しかけて、留まる。目に見えて逡巡していた。 そんなユーリを気にかけもせず、カイリは龍を引き連れて中庭を移動する。 「ユーリ、カイリについていってあげて。聖堂まであと少しだし、人も多いから僕なら大丈夫」 「…ありがとうございます、ロス様」 胸の痛みは笑顔に変えて。 大丈夫、ユーリはきっとすぐに戻ってきてくれる。 それまで聖堂で待っていればいいだけの話だ。 龍を引き連れているカイリと、このまま人の流れに沿えば安全な聖堂にたどり着ける僕。 ユーリは少し迷ったみたいだけど、僕の提案を受け入れた。 ユーリがカイリの後を追う。僕はその後ろ姿をちくちくする胸の痛みとともに見送る。 「は〜、さすがカイリ様だよな」 「あっという間に捕まえちまうんだもんな」 「次元が違いすぎるよ」 称賛の声を聞きながら、僕は歩廊へと戻り、聖堂へ向かうため歩みを進めた。 僕の弟と思えないぐらい――いや、僕がカイリの兄と思えないのか――カイリは優秀だ。 ユーリだって、僕に合わせてくれてるだけで、本当なら執行部に所属できるほどの実力の持ち主なんだ。 ふぅと大きく息を吐き出す。 早く僕も移動しよう。そこでユーリが戻ってくるのを待つんだ。 [次へ#] [戻る] |