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「警察が発表したのは、久我山で浅野恭子の死体が発見されたという情報だけだった」

デジカメをいじりながら山根が喋る。

「ネットで調べれば詳しい場所もわかるだろうね。でもそうまでして君が死体発見現場に出向いた理由は何だろう?」

僕と山根はカメラのレンズ越しに視線を交わした。

「…もしかしたら、犯人に会えるかもしれないから。可能性は否定できないだろ。犯人は現場に戻ってくると言うから」

フラッシュが焚かれて僕は目を瞑る。
山根は撮った写真をしばらく眺めて、また何かいじってから再び僕にカメラを向けた。

「僕が父子家庭なのは知ってるか?」

聞いても返事が返ってこないので僕は勝手に話を進める。

「僕が11歳の時に母さんと姉さんは殺された。友達の家から帰って来た時にはもう殺されていたんけど、それから僕は二人が犯人に切り刻まれていくのを見せられたんだ」

既に息絶えた二人の血が飛び散ったリビング、そこに立つ知らない男。
奴は僕が帰って来たのに気が付くと、ゆっくり振り返って唇を歪ませた。

僕が暴行を受けたことについては関係ないので明かさない。
そのせいで動けなくなっていたのもあって、僕は倒れたまま男が包丁を取り上げるのを黙って見ていることしかできなかった。

「指はね、第一関節と第二関節をそれぞれ切られる。残った部分も掌から切り離される。腕は肘で切断されて、肩で切断されていく。脚も付け根と膝で切られて、足の指もバラバラにされた。僕はその過程を見せられていたけど、途中で嘔吐したのが喉に詰まって意識を失った」

それがなければ僕は恐らくずっと見せられていたのだろう。
二人の顔のパーツまでバラバラにされるのを。

「…僕が興味を持っているのは犯人の心境だ。人を殺す時はどんな気持ちでいるのか。5年前からずっと気になっている」

僕が話し終えると、山根はデジカメを降ろして僕を直視した。

「君は普通の高校生を装っていたんだね。友人とふざけあって笑う君は演技の上での偽者に過ぎない」
「そうしないと人間関係って面倒だから。普通の男子高校生らしくしていれば、煩わしい面倒事とは無関係でいられる」

僕はあの事件のあと精神病棟に入れられていた。
退院して中学生になったころ、友達も作らずに凶悪犯罪ばかり図書館やネットで調べていたら、僕は再び精神科に連れていかれて、そしてまた2年間入院させられた。

そうして僕は世間一般でいう普通でいることの大切さを学んだのだ。
山根の姿は何となく、かつての僕を彷彿とさせた。



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