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円くん、なんて名前で呼んでくるから、てっきり知り合いかと思ったのに。
現れた意外な人物に僕は思わず呆けてしまった。

さらさらの黒髪と模範生のような制服の着こなしは相変わらずで、学校で見るのと違う点と言えば、立っているのと本を読んでいないくらいしか思い付かない。
山根はやっぱり人当たりのいい穏やかな顔で、僕の顔を見てにっこり微笑んだ。

「やっぱり円くんだったね」

後ろ姿でわかったのだろうか。
僕は色素が薄いせいで自然と髪が茶色い。それくらいで判断できたのかは謎だけど…

「山根。何でこんなとこに?」

山根はしゃがみ込む僕の隣に来ると、表情を変えずに木の根元を見下ろした。目を伏せるからか睫毛が長く見える。
そして僕の質問を無視して呟いた。

「俺も気になってたんだ。警察が立ち退くのを待ってたんだけど、やっぱり綺麗になっちゃってる。…当たり前か。第一発見者にでもなれれば見れたんだけど」

何が、なんて聞かなくても、ここに来るってことはどういう目的だかわかる。

「せっかく来たんだから、記念に撮っておこうかな。証拠も何もないけど」

山根はポケットからデジカメを取り出すと僕の存在は無視して、彼女の死体があったであろう木の根元の写真を何枚か撮りだした。

しゃがんだまま黙って動向を見つめていると、山根がふと僕に目を向ける。
僕は山根の顔を見上げた。

「円くん。そこ、座ってみてくれない?」

山根が指したのは目の前の木の根元。
かつて彼女の死体が置いてあった場所だった。

「…何でそんなとこ」
「なんとなく。ダメかな?」
「別にいいけどね」

僕はしゃがんだ姿勢のまま体を反転させると、木に背を預け脚を伸ばして地べたに座った。

「君は嫌がらないんだね。そこで人が死んでいたことを知っていても、平気で座ることができる」
「だって今は別に何もないだろ。僕だって死体の隣に座れって言われたら嫌だけど」「なかなか外人思考だね」

山根はにこりと笑いながらデジカメを構える。

「写真、撮っていい?」

僕は黙って頷いた。



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