5 決めていた。 初めて見たとき、話したとき、そして先日行動を共にして。 何がどう惹かれるのかはわからない。 「君は、俺のものだよ」 そう言うと円くんは嫌そうな顔をした。 「…僕は僕のものだろう」 「いや。君の命は、俺のものなんだ。そう俺が決めた」 「勝手に決めるな」 「誰かのものとして生きるのもいいじゃないか。そういう道もある」 円くんの頬骨を指でなぞる。ガーゼの下は痣が出来ていたはずで、殴られて切れてもいた気がする。 そこをぐっと親指で圧すと、円くんは顔を歪めて俺の手を払い落とした。 「少なくとも、それは僕の道じゃない。僕は好きなように生きるし、好きなように死ぬ」 「そう思っていてもいい。でも君は俺のものなんだよ。俺が君を殺すその日まで、他の誰かが君に手を出すのは許さない」 円くんは冷めた目で俺を見つめた。 「お前が言いたいことはわかったよ。僕を殺したいんだろ?今はまだやらないけど。それを僕に自覚させたいわけ」 「…そう、かな。俺はいつか君を殺したいと思ってる。そうだね、君には常にそれを感じていて欲しいんだ。君は俺に殺される為に生きる」 俺は頭の中で考えながらそう言った。 円くんは俺にとっての獲物だ。どうしてだろう、彼がこの手で死んでいくのを見たいと思ってしまう。 今までこんなに強く思ったことはなかった。 「何かお前、変だぞ」 「うん。俺も不思議なんだ」 ナイフを左手の指に這わせる。鈍い痛みに血が流れる。それが円くんのYシャツに垂れて、赤い染みを作った。 「やめろよ」 円くんが俺の手首を掴む。 「僕の目の前でそういうこと、するな」 そう言われ、俺はゆっくり微笑んだ。 円くんのYシャツのボタンを腹まで外すと、さすがの彼も体を起こしかける。それを押し返して止め、俺はナイフを円くんの首筋に当てた。 「………」 円くんは無言で俺を見る。 俺はそれを見て、やっぱり何だか自然と笑みを浮かべてしまっていた。 [*前へ][次へ#] |