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先輩たちが居なくなったのを確認してから、下校する生徒たちの間を縫って校舎裏に向かう。校舎裏は何もない空き地のような所だ。砂利が敷かれていて教師の車が数台停まっている。

校舎に寄りかかるようにして、コンクリートに座り込んでいる円くんを見つけた。

「やぁ、円くん」

俺が声をかけると気怠そうに顔を上げる。それから彼は、少し驚いたように目を見開いた。

「山根?…何で居るんだ」
「見てたんだ。図書室から」

上を指す俺に適当に頷き、円くんはまた目を閉じた。
口の端が切れて血が出ていたし、頬や目の下辺りも痣になっている。鼻血も出ていたし、顔を集中的にやられたみたいだ。
制服が砂で汚れているのはたぶん、腹部を蹴られていたときのものだろう。

まぁこれだけ綺麗に整った顔をしていれば、傷付けたくなるのもわかる。
綺麗なものほど壊したくなるのは俺も同じだ。

「大丈夫かい?」

顔を上げさせると呻く。
円くんは俺の手を力無く払った。

「平気だから…どっか行けよ。僕に構うな。さっさと帰れ」
「よく喋るね。それだけ口が動けば大丈夫だ」

明らかに嫌そうな顔をする円くんを見ると笑ってしまう。ここまではっきり嫌がられていると、いっそ清々しいくらいだ。

しかしそれを喋った円くんは、それから動かなくなってしまった。
俺が頬を叩いても、ついでに抓ってみたりしても、ぴくりとも動かない。

「保健室に連れて行ってもいいかい?」

聞いてみたけれど答えは返ってこなかった。
口を動かす気力もないのか、それとも意識を失っているのか。とにかく円くんは何の反応もしない。

仕方ないので俺は円くんを抱えた。
本当は背負った方がビジュアル的にも危なくない気がするが、完全に弛緩した円くんの体は背負いにくい。少しでも円くん自身に力が残っていれば良かったんだけれど。

高校生男子にしては、というか、身長の割りに妙に軽い円くんを抱え、俺は放課後の校舎に戻って行った。



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