2 先輩たちが居なくなったのを確認してから、下校する生徒たちの間を縫って校舎裏に向かう。校舎裏は何もない空き地のような所だ。砂利が敷かれていて教師の車が数台停まっている。 校舎に寄りかかるようにして、コンクリートに座り込んでいる円くんを見つけた。 「やぁ、円くん」 俺が声をかけると気怠そうに顔を上げる。それから彼は、少し驚いたように目を見開いた。 「山根?…何で居るんだ」 「見てたんだ。図書室から」 上を指す俺に適当に頷き、円くんはまた目を閉じた。 口の端が切れて血が出ていたし、頬や目の下辺りも痣になっている。鼻血も出ていたし、顔を集中的にやられたみたいだ。 制服が砂で汚れているのはたぶん、腹部を蹴られていたときのものだろう。 まぁこれだけ綺麗に整った顔をしていれば、傷付けたくなるのもわかる。 綺麗なものほど壊したくなるのは俺も同じだ。 「大丈夫かい?」 顔を上げさせると呻く。 円くんは俺の手を力無く払った。 「平気だから…どっか行けよ。僕に構うな。さっさと帰れ」 「よく喋るね。それだけ口が動けば大丈夫だ」 明らかに嫌そうな顔をする円くんを見ると笑ってしまう。ここまではっきり嫌がられていると、いっそ清々しいくらいだ。 しかしそれを喋った円くんは、それから動かなくなってしまった。 俺が頬を叩いても、ついでに抓ってみたりしても、ぴくりとも動かない。 「保健室に連れて行ってもいいかい?」 聞いてみたけれど答えは返ってこなかった。 口を動かす気力もないのか、それとも意識を失っているのか。とにかく円くんは何の反応もしない。 仕方ないので俺は円くんを抱えた。 本当は背負った方がビジュアル的にも危なくない気がするが、完全に弛緩した円くんの体は背負いにくい。少しでも円くん自身に力が残っていれば良かったんだけれど。 高校生男子にしては、というか、身長の割りに妙に軽い円くんを抱え、俺は放課後の校舎に戻って行った。 [*前へ][次へ#] |