9 僕たちが出掛ける準備をしてる間、こっそりと襖の隙間から覗いている姿があった。誰だかはすぐに予想がつく。 「おい」 若干幼さの残った声。それに山根が振り向いて、驚いたように目を丸くした。 …こいつ、気付いてなかったのか? 「おい、あんたら、村の人間じゃないだろ。何だよ」 少年はするりと座敷に入り込むと、襖を閉じて僕たちに疑わしい目を向ける。 「君は康介くんか。いつから居たんだい」「何で名前知ってんだよ…」 「お母さんから聞いている。さっき外から見ていただろう」 「おれの家に、知らない奴が居たからな」 康介君はフンと鼻を鳴らした。 だいたい小学5、6年生か中学生か…僕より背が高い。顔つきはあまり大人びてはいないから、まぁ僕たちより年下だろうことだけはわかる。 「あんたら村の儀式のこと、探りに来たんだろ。外から来る人間はみんなそうだ」 「…儀式?」 「7月30日にわざわざ来てるんだから決まってる。ついて来いよ、教えてやる」 そう言って康介君は僕たちに構わず、スタスタと出て行ってしまった。 僕は山根と顔を見合わせる。 「…間違いなく例の事件のことだろうね。思わぬ好機だ、向こうから近付いて来るなんて」 「何で彼はわざわざ教えてくれるんだ?」「さぁ…でも何にしても、行かない手はないだろう」 山根がそう言うので、僕も康介君を追うことにした。 「遅いよ」 そう言う彼は玄関口で僕たちを待っていてくれたようだった。 [*前へ][次へ#] |