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何か変な方に巻き込まれているのではないか。
僕の脳内には警戒信号が鳴り響いている。
「俺が事件を追っていることは君もわかってるね?情報を集めているから、犯人や被害者の形は掴めて来ている。円くんが協力してくれたら犯人と対面することが出来ると思うんだ」
…やっぱりヤバい。
僕は事件に巻き込まれそうになってる。
「勘弁してくれ。僕は犯罪とは無縁で居たいね」
「詳しいことを言うと、君に囮になって欲しいんだ。犯人をおびき寄せる為の」
「嫌だ」
こういうことはキッパリ断るべきだ。
時間が経つにつれて人が増えてきたのに山根がため息をつき、鞄を持って立ち上がる。
「場所を変えよう」
そしてさっさと歩き出してしまった。
このまま一人で帰ってもいいとは思うが、なぜか僕は山根を追っていた。
‡ ‡ ‡
次はずいぶん流行っていなさそうな喫茶店だった。
客は初老の男性が一人、他はマスターが居るだけだ。ゆったりとしたクラシックがかかっている。
山根がコーヒーを注文したので僕もカフェラテを頼む。そして山根に続いて奥のテーブル席に腰掛けた。
「…君は案外強情だね。もっとあっさり協力してくれると思っていたよ」
「面倒事は嫌いだって言ったろ」
「犯人の心境を知りたいだとか言ってたけど、多少の無茶をしなきゃそんなことできっこないよ。安全な道ばかり通ってたって駄目だ」
そこへマスターが来たので、山根は口を噤んだ。
なぜだかこいつは僕を巻き込もうと必死になっている。こんな風に一人でペラペラ喋り出すとは。
僕はカフェラテを飲みながら山根を観察することに徹した。
「…いいだろう。それじゃあバイトとでも思えばどうだい?先払いでバイト料を支払おう」
山根はしばらく思案した後、そう言って僕を伺った。
「いくら出す?」
「君の言い値で構わない」
「じゃあ五万」
僕が掌を向けると、山根は少し躊躇ったあと、鞄から一万円札を五枚出す。
「その代わり円くんにはたっぷり働いてもらうよ。覚悟してくれ」
「わかった」
テーブルの上の五枚を取り上げ、僕はそれを真ん中から裂いた。
「……何、やってるんだい?」
山根が目を丸くして呟く。
「お前が払っただけちゃんと働くよ。僕が言った無茶にもしっかり答えたから、お前に協力する気になった」
それは些細な気まぐれであり、山根の心意気に素直に感嘆したからでもある。
だっていくら協力して欲しくたって、普通五万円も出さないだろう。
ある意味じゃ馬鹿みたいな奴だ。
「だからって君…何で破るんだ。金銭感覚が狂ってるんじゃないかい」
「僕が山根の為に動いて、山根が何の犠牲も払わないのは不等だろう」
「いや貰っとけばいいんじゃないかと言ってるんだよ」
「僕は別に金には困ってない」
僕の回答に山根は呆れたように首を振っていた。
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