縁切りの神様
二兎を追う者は一兎をも得ず@
こうして、京が婚約者である業平と濃密で切ない一夜を過ごしていた間。
彼女の長年の想い人であった宗貞はどうしていたかというと―――
「一体、何処へ姿を消してしまったのやら‥‥」
方々探したけれど未だに見付からない、幼馴染とも腐れ縁とも呼べる京の事を心から心配していた。
「お、宗貞よ。京殿は見付かったか??」
「いえ‥…」
「そうか」
うーむ、と父である男が唸ってみせる。
昼間、神社を訪ねて来た京が暫くもしない内に玄関を飛び出して逃げ去る様に帰ってしまった。
其れは本当に一瞬の事で。
朴念仁である息子に限って其れは無いだろうと思いつつも、すれ違い様に確認出来た京の涙に動揺を隠し切れなかった宗貞の父が
「…京殿と何かあったのか??」
なんて、気遣う様な声色で問うても
「いいえ、何も」
と、間髪入れずに息子が返して来るから。
父である彼も其れ以上は何も言えなくなってしまい
酷く重い口振りで
「そうか。なら良いが……」
と、答えるのが精一杯だった。
きっと、父親である自分にも言えない事情があるのだろう。
先程からただならぬ雰囲気を放つ息子に対し、心配を装いながらも幼馴染である前に宮司という権力を有する京と何かあっては大変だ。と懸念を抱いていた彼は内心気が気で無かった。
其れでも、自身よりも遥かに誠実で勤勉な息子を信頼していた彼は
「とりあえず今日はもう休め。京殿ももう子供では無い、必要以上に心配するのはお前の悪い癖だぞ??」
と言うなり、さっさと宗貞の部屋から退出してしまった。
其れを横目で確認しながらも
「……子供では無い、ですか。全く其の通りですね」
父親である男が何気なく放った其の一言が妙に重く感じ、宗貞は固まった様に暫く身動きを取る事が出来なくなってしまったのだ。
「昔は‥何てお節介で世話焼きな女性なんだろうか。と正直苦手に思っていた時期もありましたが」
「何時の間にか、私の知らない『女』の顔をする様になっていたのですね」
「其れにもう少し早く気付く事が出来ていれば‥或いは、今頃―――」
小さく呟いた独り言が宙に消えると同時に
当に温もりを失った、宗貞の薄い唇が再び熱を取り戻す。
あの時は軽く触れただけの、本当に拙い口付けであったが―――
「貴方の婚約者である業平殿では無く。もしかすれば私が貴方と男女の仲になっていたかもしれないのに」
未だ女を知らない、歳若く人並みの性欲を持っている宗貞には余りにも刺激が強過ぎた。
「ッ、クソ///」
後ろから抱き疲れた際、背中越しに実感出来た彼女の豊満な乳房の感触が忘れられなくて。
吉子という想い人が居るにも関わらず、じわじわと募る性欲を抑え切れずに悶々とするばかり。
そんな、不誠実な自分を情けないと思う一方で
「まだまだ修行が足りない、という事ですね‥‥」
張り詰めた部分から零れ落ちる、我慢汁に苦笑しながら
宗貞はごそりと、衣類に手を入れ欲望を吐き出そうと試みた。
其の時―――
「お兄様‥‥」
「!!!!!」
コンコンと、ドアを叩く音と共に扉越しから自分を呼ぶ愛らしい声が聞こえて来て。
一気に現実へと引き戻された宗貞は、酷く狼狽させられ思わず声が裏返ってしまった。
「っ、吉子?!」
と。
其れを滑稽だと思う反面
妹である女は一切気にした様子も無く
「はい、吉子です」
なんて答えるから。
ホッとしつつ、其れでもドキドキと胸を高鳴らせたままの宗貞はあくまで平常心を装いながらも
「ど‥どうしたんだ、こんな時間に」
「………‥‥」
努めて落ち着いた声色で、訊ねてやったのだ。
すると
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