縁切りの神様
貴方を想うからこそD
其れから数週間後の事だった。
「……おや??」
テクテクと境内に向かって歩く人影を見付けた宗貞は、其れが先日現れた娘だと悟ると
「どうしました??そんなに浮かない顔をして。また不都合でも??」
と、人懐こい笑みを浮かべては優しい声色で訊ねてやったのだ。
そうすれば
「…‥‥いいえ」
非常にか細い声で娘が答えたので。
何処か気落ちしている娘を気遣いながらも
「では一体‥…??」
実に訝しげな表情で問うてやったのだ。
すると
「縁切りが成就したので、お礼参りにと―――」
「!!!!!」
俯きながらも掠れた娘の声が辛うじて聞こえたので。
其れは良かった。と宗貞が答えようとした瞬間だった。
「う、ぅっ……///」
「…‥‥娘さん??」
急にボロボロと大粒の涙を零し始めた娘。
コレには宗貞もビックリしてどうしたものかと悩んだのだが。
「変ですね。自分から望んだ筈なのに‥こんなにも辛いなんて」
そう言って娘が無理に笑ってみせたので、宗貞が伸ばしかけた手を止めてギュッと拳を握る事しか出来なくなってしまった。
「涙が…止まらないんです。困ったなぁ…‥‥」
懸命に泣くまいと堪える娘。
だが、其の想いに反して自然と頬を伝って零れ落ちる彼女の涙を拭う資格があるのは彼女の兄だけなのだ。
だからこそ、宗貞は眉を寄せて
「本当にご利益はありましたか??」
と、確認してみせたのだが。
「えぇ‥」
短く答えた娘は続けて
「兄は大学卒業と共に家を出る事になりました。海外留学するそうです。ですから‥もう二度と会う事も無いでしょう」
と、力なく答えてみせたのだ。
其の言葉を前に宗貞はふぅ。と息を吐いて
「そうですか‥‥」
などと答え、更に落ち着いた声色で
「本当は別れたくなかったのでしょう??」
しかし彼女の気持ちを確認する様な口振りで問うてきたのだ。
だから娘も唇を震わせながら
「勿論です‥実の兄妹でなければ、私は…兄と結ばれたかった―――」
以前は口にするのも引け目を感じていた、己の素直な感情を吐露してみせたのだ。
其の瞬間、宗貞の口元が優雅に弧を描いたのを娘は見逃さなかった。
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