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縁切りの神様
もしも奇跡が存在するのならばD






「お待たせしました‥」
「!!」


ガラリと戸が開いて。


つられる様に宗貞が其方に目線を配った瞬間だった。




「あ!!貴方は‥…!!」
「……‥お久しぶりです」


何処かで見た事のある顔だ、と思った宗貞は

依頼人である男が申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた瞬間全てを思い出してこう言ってやったのだ。



「お久しぶりです、藤堂さん。其の後如何されました??無事に縁は切れましたか??」


と。


其の、何気ない宗貞の言葉に男はただただ顔を曇らせ俯くばかりだった。



「…‥‥??」

そんな、依頼人の何処か沈んだ様子に違和感を覚えた宗貞はまさか縁切りが失敗してしまったのだろうか??と一瞬焦りを感じてしまったのだが。




「えぇ、其の節はどうも。お陰様で無事に妻とは縁が切れました」
「そ、そうですか」

やけに力ない声ではあったが、藤堂と呼ばれた依頼人が成功を其の口から告げたので


内心ホッとさせられた宗貞が胸を撫で下ろした矢先。

藤堂はこんな事を言い出したのだ。





「ですが‥やはり自分は妻無しではいられない様です。どうかヨリを戻せる様…取り計らってくれませんか??」
「……‥え??」


其の

何処までも自分勝手で都合の良い藤堂の言葉に宗貞は最初呆気にとられて何も言えなくなってしまったのだが。





「…‥出来る訳無いでしょう!!」
「ッ///」


余りにも虫の良い話だと憤りを感じた宗貞が怒鳴るのも無理は無く。


キッ、とキツい眼差しを藤堂に向けてやった彼は、きっぱりと依頼を拒否してみせたのだ。




「確かに縁切りと縁結びは切っても切れない関係。此の寺とて例外に漏れず縁結びの依頼も受ける事はままありますが‥一度縁切りをした上での依頼は受けかねます」


だが、そんな手厳しい宗貞の切替しにもめげずに藤堂は後生だ。と言わんばかりに




「其処を何とか頼みます!!自分は‥妻を失ってやっと其の有難みが分かったんです!!出来る事なら‥もう一度彼女と夫婦生活をやり直したい―――」

などと喰らい付いて来たのだ。


そして泣き縋る様にドンッ、と畳を叩いては項垂れると




「離れて分かった‥失って初めて気付くモノもあるのだと……自分が如何に愚かだったか百も承知で、其れでも貴方に頼みたいんです!!」

まるで神にでも頼むかの様に訴えかけて来たのだ。



其れでも宗貞の意思は固かった。



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