縁切りの神様
切れぬ縁、其れを人は運命の糸と呼ぶE
「其の百夜通いの際に深草少将が腰掛けた石が菊野大明神に祀られている『縁切り石』で」
「少将の無念が石に乗り移り、確か石の傍を通る男女の縁を切ると伝えられていた筈ですが‥」
「違いますか??祖父上」
と、宗貞が補足を加えた様に
後一夜、という所で本懐を遂げられなかった少将の想いが未だ尚石に宿っていると信じられているのだ。
そして当然、此の寺で育って来た宗貞自身も其れを信じて疑わなかったのだが―――
「宗貞よ」
「何でしょう」
「儂ももう良い歳じゃ。だが‥此の歳になるまで、一度足りとて此の縁切りの石の効力に勝った人間を見た試しが無い」
「…‥‥」
「しかし、じゃ。もしも縁切りの石でも切れぬ縁があったとしたら‥其れこそが運命の赤い糸なのかもしれんなぁ」
柄にも無く、祖父がいきなり感傷的な事を言い出したので。
似合わないな、なんて思ってしまった宗貞が失礼だと分かっていてもくっくっく。と声を殺して笑ってしまった其の時だった。
「お兄様、こんな所にいらしたのですね??」
「ッ///吉子!?」
タタタ、と軽やかな足取りで此方に駆けて来る吉子の姿が目に留まったので。
何事かと不思議に思った宗貞が目線を其方に移してやれば―――
「ねぇ、夕食の買い出しに付き合って下さる??今日は御米も調達したくて」
きょるんと、大きな瞳を無心に向けてはじぃっと見詰めて来るので。
愛らしくて堪らない、吉子の笑みにとことん弱かった宗貞は
「え、あ‥あぁ、構わないが‥…///」
住職の仕事も放り出し、どぎまぎしながらも彼女と一緒に買い出しへと出掛けてしまうのだった。
だが、しかし―――
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