不審な近親者(4) ※


「新一さん・・・」



いつも表情を崩さない叔父さんの秘書をしている伊勢崎さんが、一瞬だけ目を見開く。頭は包帯、服には血の跡を見れば確かに引くかもな。


「とにかく乗ってください。社長がお待ちです」
「へ?もう仕事終わってんの」


いつもは朝ゆっくりで夜は遅くまで仕事をしているから、この時間にマンションにいるのは珍しかった。

車に乗るとき屈んだ腰が痛む。この車、クッションはむちゃくちゃ柔らかくて座り心地は最高なのだが、今の新一にはそれさえも役不足で、痛む尻を十分カバーできる物には成り得なかった。まっすぐに尻を付けて座れないので、体を斜めにして横向きにドアに寄りかかりながら痛みを逃した。

「連絡ができなかったのは、その頭のせいですか?」

「・・・まあ、これもあるかな」

どっちにしても午前中は携帯なんて見もしなかったし、あのまま無事保健室にたどり着いていたら下校まで寝ていたかもしれない。どっちにしても叔父さんとの連絡は取れなかったと思う。

「新一さんと連絡が取れなかったので、仕事が手に付かなかったんですよ」
「そんなことくらいで」
「今日は休むように言われていたのでしょう?」
「だって休む理由なんか・・・ないしさ」



初めの頃は虐待かと思えるような激しいSEXに慣れなくて、数日学校を休む日もあったけれど、休めば叔父さんを喜ばせるだけだった。以前体のだるさに甘えて学校を休んだら、それを知った叔父さんが寮に現れて、近くのホテルに連れ込まれてSEXを強制された。SEXのせいで休んだのにそれを狙ってまたSEXに持ち込むって人間的にどうよ。
だから、SEXがきつかったから休みますなんて冗談じゃないと思っていたけど、さすがにこんな目にあってしまった今は休めばよかったかも・・・・と少し後悔している。


「俺、一度寮に戻りたいんですけど」
「そんな時間はありません」

「でも・・・服とかこんなだし」
「マンションにも着替えがありますから問題ありません。それより」

助手席からルームミラーに映る俺の顔を見て、ミラー越しに視線がかち合う。

「その怪我の理由、事と次第によっては血の雨が降りますよ」

「へ・・・・・」

物騒なことを言わないで欲しい。今日はただでさえ不幸の連続なのに、これ以上の不幸が身に降りかかるなんて想像もしたくなかった。

「これは・・・不可抗力で」
「それ以上は結構です。私が聞いても何の力にもなれませんから。言い訳は社長におっしゃってください。さて、着きましたよ」


マンションの地下に車が滑り込む。暗い地下駐車場の入り口に入ったとき、まるで地獄の門をくぐったような心境に陥った。
「では、ここで失礼致します」と、伊勢崎はドアを開けて新一をマンションの中に放り込むと、静かにドアを閉めて外から鍵を掛けた。

恐る恐る靴を脱ぎリビングに入ると、スーツの上着を脱いで、シャツの腕をまくり上げて仕事をする大河の広い背中が見える。こちらに背を向けている大河は、書類をさばきながらパソコンを打ちこんでいるようだ。足を忍ばせてリビングに入って来た新一の気配を感じると、振り返りもせず鷹揚に話しかけてきた。



「新一」
「は・・・はい」
「帰ってきたら“ただいま”くらい言え」

だってここ俺の家じゃないし。

大河は新一に背を向けたまま、不機嫌な声で小言を繰り返す。

「それとお前、なんで今日学校に行きやがった」
「それは・・・休む理由がなかったし」
「クソッ。そんな体力が残っていたなら、あと3発ぐらいぶち込んでおきゃあよかったな。しくじった」

3発って・・・・今朝の1発だけでも精一杯だったというのに、俺はセックスドールじゃあないって言うの!叔父さんの異常な発言に次からはきっとそれを実行することが分かり、身の毛がよだつ。

「だいたいてめえは・・・」

パソコンから視線を外し、初めて俺に目を向けた叔父さんの顔が・・・・・・・・・顔が・・・・・・・・・・・・・・・・こ・・・・・・怖ーーーーー!!!!


ガタン!!


座っていた椅子を後ろに蹴散らして、大股で新一に近づいてくる。鬼の形相。この言葉がピッタリなくらい大河は眉をつり上げて眉間のしわとこめかみの怒りマークをマックス状態にして新一の肩をつかんで引き寄せた。

「痛っ」

大きな手に力任せに引っ張られた肩が痛みを発する。肉に爪が食い込むくらい肩と二の腕をきつく掴まれ新一は顔をしかめた。

「なんだ・・・・こりゃあ」

低く唸るような声が頭上から落ちてくる。包帯の上を指でなぞり留め具を外したかと思うと、包帯を荒くほどき始める。左のこめかみに貼られたガーゼをペリペリと剥がしにかかると、引っぱられる皮膚が痛み小さな悲鳴が上がる。

「いっ!」


何するつもり!やめて・・・


そう言いたいけれど、目の前に立つ大河の怒気に身がすくみ、恐怖に体がガクガク震えるだけでなにも言えなかった。傷をじっと見ていた大河は、結んでいた唇をゆっくりと開き不穏な言葉を紡ぎ始めた。

「誰かに負わされた傷なら、そいつを殺してやる」



――――― 殺す!



顎をつかんで横を向かせ、縫われたばかりの傷口をにらみつけている。
怯えながら見た大河の目はぞっとするほど冷たくて、掴まれた顎は歯の根も合わぬほどガチガチ震え出した。

「ち・・・・が」

それでも精一杯しゃべる努力をする。

「違う・・・・ガラスが・・・割れて、ち・・近くに、偶然い・・て・・・」

大河の顔は怒りで血管が膨れあがっている。

「だから、誰も悪・・・・く・・なくて・・・っく・・」

誰も悪く無いし、俺だって悪くない。これは事故で不注意でもない。なのになんでこんなに怖い思いをしなきゃいけないんだよ・・・・・・・・・最後の方はもう泣きながら訴えていた。



「泣くな」

恐怖から出る涙を、太い指先でこすりながら何度もふき取る。もう優しいのか怖いのか、この人に関してはやることがよく分からない。
人のこと好き勝手に扱って、嫌なことや痛いことばっかりするし、そのくせ「すきだ」とか言うし、「好きと言え」とまで強制するし。

「も・・・俺・・・・・・・・・・・ぃ・・・痛い・・・・」

暴かれた傷が痛い、腰だってどこもかしこも痛い。しゃくり上げる胸は息苦しいし、この状況の何もかもが心と体を痛くした。

大体この怪我の原因は、突き詰めれば叔父さんにあると思う。体がきつかったからフラフラ保健室を目指していた訳であって、元気だったらグラウンドを見た瞬間俺はサッカーをしに走り出していたね。
言いたい文句はたくさんあるのに叔父さんは怒って怖いし、ビビリ過ぎて泣き始めたら今度は優しくしてくるし、あんたが剥がしたガーゼのおかげで、傷が空気に触れてピリピリ痛むんですけど!

「泣くなって、もう怒らねえから」
「ひっく・・・・っ・・・ぅ・・・」
「そんなに痛ぇのか」
「い・・・いたぃ・・もん。なんで・・・はがす」

ガーゼを剥がしたことを責めると、「しょうがねぇだろうが」と言って俺をソファーに座らせた。血の付いたシャツのボタンに手を掛けボタンを外しながら、首筋を伝って血の痕が鎖骨にまでこびりついていたのを見ると、シャワーを浴びろと浴室に連れて行かれた。
服を脱いでいる間に、叔父さんは伊勢崎さんと何やら携帯で話をしていたけど、すぐに浴室に戻ってきて俺の体を洗い始めた。



叔父さんのマンションでは、俺は自分の体さえ洗えない。



立ったままの俺にシャワーの湯を掛けると、泡立てたスポンジから泡だけ取って手の平で直に俺の肌を洗う。それは首筋から始まり胸に下りると必要以上に乳首に指をあてがい、ツルツル滑って掴みにくい突起を弄ぶ。両腕、背中とたっぷり泡を付けられて滑り具合を楽しみながら動かすその指先がとてもエロティックで見ていられないほど恥ずかしいし、それに反応して震える自分の体にも罪悪感を覚える。でもそれは始めのうちだけで、すぐに罪の意識は別のものに変わっていく。
足は指先から洗う。壁の取っ手に掴まり片足ずつ洗われその手はどんどん上に上がってきて、最後は体の中心に到達した。


「ん・・・」


何度されてもそこを触られる瞬間は恥ずかしさに声が出てしまう。

「硬くなってるぞ。新一・・・」
「んぁ・・」

そんな俺の反応をいつも楽しみにしている叔父さんは、わざといやらしいことを言って、体を触られて反応し始めたペニスを大きな手で緩く握り込む。強弱を加えながらギュッギュッと絞られると、自分のペニスが叔父さんの手の中で変化する。小さい肉芽がドクドクと脈打ち、首をもたげて男を主張し始めた。反り返るペニスはより感度を増し、刺激を欲しがり自ら腰を揺らして無意識の愛撫をねだった。

そんな淫らな反応を楽しむ大河は、手の中に収まる小ぶりなペニスをしごきながら、反対の手を尻に伸ばし震える双丘を撫でた後、割れ目に沿って指を滑り込ませて穴に中指の腹をグッと押し当てた。

「い・・いたぃ・・・おじさん・・・そこ・・まだ痛くて・・・・さわらな・・」
「・・・名前で呼べって、何度言やぁわかんだぁおめえはよぉ」
「ごめ・・な・・さい・・・たいが・・さ・・・。でもそこ・・・・や・・」
「まだ少し腫れてるみたいだな」

いつもより少しプックリ腫れた穴の周りをくすぐっていた指が、その中心にググッと差し込まれ、痛みに腫れた括約筋がギュッと引き締まる。

「いた・・あぁ・・・・・やだ・・・」

泡の力を借りて難なく入った指だが、中をグリグリかき回されると入り口がこすれる痛みと広げられる痛みが襲ってきた。

「お・・お願い・・本当に・・お尻・・痛ぃから・・・抜いて」
「後で、薬を塗ってやる。だから中もきれいにしておかねぇとな」

指を2本に増やし泡でグジュグジュ穴の奥までかき回した後、シャワーのコックを尻の穴に当てて、洗浄を始めた。

「うぐ・・・・・んぁ・・・・」

腸壁内を逆流するこの感触がとても気持ち悪い。腸内で勝手に暴れ回る水流は吐きそうなくらい中を圧迫する。やめてと懇願しても願いが叶ったことなんて無い。だって・・・・・・叔父さんはこうすることが好きだから。


俺の嫌がることが好きで、やめてと拒否したら、拒絶したことに怒り痛みを伴うSEXを味わわせる。
俺の全てを知って、俺の体の全てを思い通りにできないと気が済まない。
病的に俺の体を欲しがって離さない。

従順に従えば、とろけるほどの快楽を与えてくれる。
「すき・・・」なんて強制的にでも口にすれば、それが本心じゃないと知っているくせにそれでも、愛しい者を見るような陶酔した目で俺を見て、甘くしびれるような口付けを落とす。



まるで恋人のように。



叔父さんのそんな顔を知っているのは、俺だけかもしれない。


俺を抱きたくてたまらない。
俺でしか欲情しない。


この1年で俺は、叔父さんの性欲を満足させるための、最高の玩具になり果てていた。

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