送りオオカミ
「仁。ちゃんと送ってよね」
「当たり前だろうが」
外で兄弟が何か話している。
「送りオオカミとか無しだよ」
「お前と違って俺は、見境いなく誰とでもやらないんだよ」
「どうだか。夕輝に手を出したら・・・僕許さないから」
「安心しろ、子どもは範囲外だ。お前もそれを知っているから俺に送らせるんだろ」
そう言って仁は薫に背を向け車に乗り込んだ。
薫は仁の好みを知っている。男でも女でも綺麗な顔が好みなのだ。特に少し気が強くて負けん気のある男を組み敷くのがたまらなく好きなことも。その点については夕輝は完全に仁のタイプに当てはまる。しかし兄は未成年には手を出さない。成熟しきったた大人の体にしか興味が無いからだ。後腐れ無い大人のつき合いしかしない仁。だから大丈夫だと思った。
「まさか・・・ね」
弟の同級生にまで手を出したりはしないだろう。そこまで飢えているはずないし、仁が欲求不満に陥ることもない。仁の相手はよりどりみどり、いくらでもいる。でも一応明日学校で確認しよう、変なことされなかったかって。今は大丈夫でも数年後のために唾くらいつけておくかもしれないし。仁にももう少し釘を刺しておかないと。
だって夕輝は僕が狙っているんだから―――――
静かに走る車内は無言。
ときおり仁が話しかけるが、隣に座る夕輝は完全に無視。誰がしゃべるかとそっぽを向いている。
「そこまで露骨に避けるか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すげなくされると、逆にそそるな」
「・・・・・・・・・・・」
「気位の高い王子様だ」
「・・・・・」
気持ち悪くなる言葉をいけしゃあしゃあと言いやがる。ちょっとは黙って運転しろ。・・・・・・・・・・?
「おい、どこに行っている」
「やっとしゃべったな」
「・・・・ふざくんな。車止めろ」
自分の家は先日リサーチされた。なのにこの道は方向が違う。
「お前が無視するからだ」
「なにをわけの分からねえこと言ってんだ、降ろせよ」
車のスピードは上がる。街からどんどん離れ、文句を言っている間に車は寂れた倉庫街に入りエンジンを止めた。外はもう真っ暗。点滅する電灯と遠くに見えるビルの明かりだけが闇夜にボウッと浮かび上がっている。
シートベルトを外し、急いでドアを開け逃げようとするが、ロックされたドアは開かない。
「クソッ、開けろ」
肩を掴まれ運転席を振り返ると、間近に暗い影が落ちる。
「ん・・っ!」
肩をシートに押さえつけられ、無理やり唇を奪われる。押さえつけられた体は動かず、あの時と同じようにむさぼるような口付けが襲う。
上と下唇を交互に吸い上げられ、唇の線を舌が左右にすべる。中にもぐりこんだ舌が歯列をなぞり徐々に口を開かせ、舌は巻くように絡めとられジュルと音を立てて離れてはまた吸い上げられた。
口内に満ちる互いの唾液を息をするために飲み込み、口を開ければまたあふれる唾液を注ぎ込まれる。飲みきれないものが口から垂れ下がり耳や首筋に流れ出る。
「・・・くぅ・・・・・ぁ」
体が熱い。前もそうだったがこいつのキスは・・・・うますぎる。認めたくは無いが。そして自分はまたしてもこのキスに追い詰められている。事実体が震えて力が入らない。信じられないことに気持ちがいいのだ。
シュル・・・
布がこすれるような音にうっすらと目を開くと、自分の両手首を紐で拘束しようとしているのが目に写る。
「何しやがる!」
「縛っているんだが、見てわからないか」
「ざけんな!」
気が付いたときはギュッと締められた後で、そのままシートを後ろに倒された。ガクッと落ちる急な衝撃に面食らっている間に両手は縛り上げられ、後ろのドアノブに紐の先を結びつけられた。
倒されたシートの上に、両手をバンザイと固定され自由を奪われた自分。それは一瞬の出来事で、手馴れた手管にやはり初めからこうすることが目的だったことを知ったが、それもあとの祭りである。
「楽しくなってきたな」
身動きできない俺を上から嘲笑しながら眺め、あいつの指先が、俺のネクタイを緩めシャツのボタンを1つずつ外し始めた。
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