薫様とお兄様
「薫ちゃぁーん。元気になってよかったね。今度遊びに行こう」
「薫先輩。少しやせたのではないですか〜お労しい」
「薫様!!お荷物お持ちいたします」



いつもと同じ校門をくぐるうざったい光景。俺の隣を歩く高槻薫は恐ろしいことに男子校のアイドルだ。こいつにはファンクラブまで存在する。俺と身長はそう変わらないし、体つきだって似たような物だ。じゃあ何が違うって見た目がすごい。ふわふわの金に近い茶髪に色白の肌にくるっとした目、プルンとしたチェリーのような唇。宗教画の天使のような美貌だ。そして極めつけがその性格。


「みんなありがとう。もう元気になったから。」


優雅に手を振る姿は皇太子様か!そしてにっこりほほえむと、周りから薫様ぁ素敵!キャーと奇声が上がる。男がキャーとか言うな。こいつは自分の顔が万人にうけるということをはっきりと自覚し武器にしている。モデル事務所がスカウトに来るくらいだ。その顔を思う存分自分の利益のために役立てている小悪魔のような奴だ。見た目はかわいいが腹の中は・・・黒いのかもしれない。いや、きっと真っ黒なはずだ。


「おい、高槻」
「やだな〜吉田先輩。かおるって呼んでっていつも言ってるでしょう」

甘えた声で3年の先輩を上目遣いで見ている。始まったぞ。高槻流男の落とし方。

「あ、いや・・それは人前ではだな・・」
「本当は先輩だけにそう呼んでほしいんだけど」
「たか・・いや、薫・・・」
「先輩・・・」

まったく朝っぱらから学校でする会話じゃあないよな。薫の好みは男らしい筋肉マン。さっきの吉田って人は確かラグビー部でかなり男臭い。こうやって薫は気に入った男を手のひらでころころ転がして、ベットのお供にしている。別に友達がホモでもそれが原因で嫌いになったりはしない。俺は女が好き。周りが誰を好きだろうと人は人だから差別はしないし偏見もない。差別しようものなら、この学校では村八分にされてしまう。



「俺先に行くわ」

男のイチャイチャを見る気は当然ないので、薫を捨てて校舎に向かう。あれをずっと見ていると忘れたつもりの嫌な出来事を思い出してしまう。
消去だ消去。昨日のことは忘れた。俺はノーマル。ちょっと変なホモに出会ったに過ぎない。他人のホモは許せても、自分に降りかかってきたホモは別だ。断固拒否る。忘れよう。自己暗示をかけながらまたもやかわいい女の子の想像をして歩き始めた。






「おい、鹿嶋・・・かーしーまー」

うるさく俺を呼ぶ声に振返ると、加藤がこっちに来いと手招きしている。あいつの話は100%女がらみだ。薫のファンクラブに入っているくせに、ちゃっかり女にも手を出している。いろいろな毛色の人間がここにはいる。

「何」
「相変わらずぶっきらぼうだな〜そんなクールなところが女にもてるんだろうけど」
「用件があるなら早く言え」
「お口もぶっきらぼうさん」
「・・・じゃあな」
「うそうそ待って鹿嶋様!夕輝さま〜」

おちょくられるのは好きじゃない。こんなアホは放っておこう。しかし去る俺の腕にすがりつく加藤の目は必至だ。


「冗談だよ鹿嶋ぁ〜ごめんごめん。あのな」

加藤の話は合コンへの参加だった。
鹿嶋が居ると居ないじゃ、女のレベルと集まりが違う。硬派で顔がいいお前が居ると、女が喜ぶ。金は出すから来てほしいと言うのだ。

「俺、そんなにしゃべらないぞ」
「いいのいいの、座ってるだけで適当に相槌打ってくれれば」

俺に参加の意があると分かった加藤は大喜びで日時と場所をメールで送ると言ってよこした。金払ってくれるなら行ってもいいか。どうせ暇だし。

「あ、月末はだめな。俺用事があるから」
「25日だけど」
「25日かぁ。ぎりぎりだな〜ちょっと親に聞いてみないと」
「頼むよぉーー鹿嶋だけが頼りなんだ」

そんなことを言われても、うちにも家庭の事情と言うものがある。特にうちは変わっているから。






帰り道、駅までは薫と一緒なので、今日引っ掛けた先輩の話などを聞かされながら(聞きたくもないが)歩いていると前から来た車がゆっくり止まった。ん?この車見たことが・・・ハザードランプが点滅し、中から出てきたのは・・・


(げ・・・・あ、あいつ・・・あの変態!!)


明るい日差しの下、高そうな外車から颯爽と降りてきたのは、きのう薫の家の玄関で、俺に変態行為をしたイケメンでむかつくホモ男だった。

「あ、仁(じん)だ」

「じん?」

誰だそれ?と言う目で薫を見ると。

「あれ、うちの兄貴」



「・・・・あ・・・・・・・・・・・あにき?」



通り過ぎる人たちが男を見て立ち止まる。イケメンを見て眼福の極みなのだろう。顔を赤らめてスーツの似合う色男を、熱気を帯びた視線で追っている。しかしそんなことも気にせず男は、薫の兄は俺達を見ている。薫が小走りで兄の元まで行く。

「何しに来たのさ、仁」
「ちょうど通りかかったのさ。乗れ、送って行ってやる」
「なにそれ、めずらしいじゃん。なんの気まぐれ」



2人の兄弟の会話はなんだか少し棘がある。話し合いがにらみ合いに見えるのは俺の気のせいだろうか。天使な薫がつっけんどんな言い方でしゃべるのは嫌いな相手に対してのしゃべり方だ。対する変態・・いやいや、薫の兄もそんな言い方を気にもせず、無表情に話している。
なんなんだ?この兄弟は。



「しかたないなぁ。そこまで言うんなら、乗って帰ってあげるか。ねえ、夕輝おいでよ」

呼ばれたが近寄りたくない。そりゃそうだ、誰が自ら危険な奴のそばに行くもんか。俺が立ち尽くしているとあいつがそばまでやって来た。心臓がドキドキする。このドキドキは嬉しいドキドキじゃないぞ。恐怖のドキドキで心の中のハザードランプが点滅中だ。



「はじめまして・・・ゆうき君」

この美貌、そして更に極上のスマイルで初対面ぶったあいさつをかます。何が「はじめまして」だ。何食わぬ顔をしてのうのうと現れやがって。どの面下げて来やがった。こいつ通りかかったとか言ってたけどそれマジか?まさか・・・わざとじゃねえだろうな?
疑いだしたら止まらない。なにせあんなことがあったのだから。


「おい、さっさと乗れ。それとも昨日と同じことをここでしてやろうか」


俺にだけ聞こえる声で脅してくる。


「ケッ、誰が乗るか」
「じゃあ交渉決裂だな」


言うが先か、肩をつかまれ顔を寄せてきた。
げ、デジャブ!!マジでか。

慌てて後ろに下がり距離を持つ。こいつは人前だろうがなんだろうが本気でやるつもりだ。気ちがいか!!

「早く乗れ、それとも公衆の面前で熱い口付けをしてもらいたいのか」
「誰が、そんな気持ちの悪い・・」

俺はそっちでもいいがなと付け加え、俺を挑発する。



「夕輝―――何してんの。はーやーくー」



薫の呼ぶ声に2人の会話も途切れ、俺は仕方なく車に乗るという不本意な選択をした。

「何話してたの」
「・・・・・・・別に」



後部座席に座った俺に薫がいろいろ話しかけてくるけど、ほとんど上の空で聞いていた。時折運転する薫の兄に方に目をやると、バックミラー越しに視線が合う。その目はじっと俺を見ていて、昨日の行為を思い起こさせる。勘弁してくれ。

ああ・・・最悪だ。俺はなんで2日も続けて変態と顔を合わせてんだよ。隣で笑う薫は何も知らない。右だの左だの言ってご丁寧に俺の家への経路を説明している。
こんな危険な奴が薫の兄で、俺は薫の友達で・・・




車は俺のマンションの前で止まる。言いたくはないが薫に変に思われても嫌なので送ってもらったお礼を言う。


「今度、うちに遊びにおいで、鹿嶋夕輝君」


家も、名前もインプットされたのは大きな失敗だ。
あいつ・・・仁とかいう奴。何を考えてるんだ。絶対待ち伏せしていたに違いない。家と方向全然違うのに偶然通学路とか通るかよ。



とにかく気をつけよう。・・・何を?どうやって?
分からないけど・・・しばらく薫と帰るのもやめるか・・・
遠ざかる仁の車を見ながら、今日のことも早く忘れようと念じる夕輝だった。

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