鹿嶋家のリビングで ※
「ねえ・・・巽。ちょっと、たつ・・・」
「いいじゃねえか。夕輝は爆睡中。頭一発殴ってみたが反応なしだ。ちょっとだけだからよ」

黒髪を短く刈り込んだ大柄な男は、自分よりも頭二つ分ほど低い小柄な男を背中からがっちりと抱きしめ、腰から太ももにかけてのラインを行ったり来たりなぞるように指を這わせる。

「な、殴ったって。夕輝に何するのさ!暴力は止めろっていつも言ってるだろう!」
「愛の鞭だ。気にするな。それにあいつはそんなにやわじゃねえ。」
「巽の愛の鞭は度が過ぎる。夕輝の頭がへこんだらどうするんだ!」
「夕輝夕輝って・・・ちったぁ俺にもかまえよ。」

ふざけた言い回しも、最後の方はすこし声のトーンが下がる。普段は傍若無人が服を着て歩いているような巽だが、そんな彼がすねるような言い方をするのは少しかわいい気がして湊は笑ってしまいたくなる。だが、愛しい息子を殴ったことに関しては釘を刺しておかなければならないし、子どものようなわがままを通す巽の要求ばかり聞いてはいられない。
湊だって好きで仕事に溺れていたわけではないからだ。

「そんなの仕方が無いだろう。締めきり迫ってたんだし。今度原稿落としたら打ち切りかもしれないんだ。」
「だから我慢してたんじゃねえか。3週間も!おめえの邪魔にならんように俺様は清廉潔白に過ごして来たんだ。ご褒美があっても罰は当たらねえだろう。な、最後までしねえから・・」
「当たり前だ!!!!ゆ、夕輝がいるっていうのに、そんなこと、で、できるか。バカ巽!!」
「声がデケエって。夕輝起きるぞ」
「うっ・・・」

窓からさす夕日に2人の影が絡み合って1つになる。
古びたマンションの一室にある、鹿嶋家の狭いリビングは恋人たちの逢瀬の真っ最中だった。



「湊・・・また痩せたな」
「そうか?よく分かんないけど。そうだな、昨日・・・食べてなくて・・・おとといは食べたような・・・あれ?食べたっけ?」
「夕輝のやつは何してやがった」
「夕輝は悪くないって・・・作ってくれても・・・・が・・ぁ・・食べないと・・・・んっつ・・・・・き多い・・・んああぁ・・・」

すでにパジャマとの区別がつかなくなっているトレーナーの裾から、巽のごつごつとした手が侵入する。部屋に引きこもり日の光に当ることがほとんど無い湊の青白く貧弱な肌に、日に焼けた男のゴツゴツとした熱い指が強めに押しあてられる。

「んっつ・・・・・・あん。」

「湊・・・」

「た・・・たつ・・・・み・・・」

勢いよくリビングのソファーに湊を横たえるが、湊が衝撃を受けないように片腕でしっかりと後頭部と背中を支える。噛みつくようにキスをし、胸や股間を荒々しく撫で上げて、最後まではしないと口先の約束は破り、湊の先走りの蜜を借りて自信の猛り狂う黒ずんだ欲望の杭をすぐさま穿つ。

「う・・はあぁ・・・んんぁ」

「痛ぇか」

「・・・ん・・・だ・・・・・・・・・じょ・・・ぶ。」

巽は湊を傷付けることはしない。
若いころは一方的なセックスを強いたこともあったが、今は違う。
2人のセックスには愛がある。



15年。
日ごと夜ごとに、愛した体。



はたから見れば荒々しい巽の行為も、湊にとってはごく当然の愛撫となっていた。痛みよりも快感をすぐに呼び起こされてしまうほど、巽は湊の体の全てを支配していた。

どこに触れれば湊がよがるか熟知している。
右の乳首を吸い上げて噛めば、鈴が鳴るように声高に泣き背中が美しい弧を描く。
下肢のシンボルを隠す陰毛は薄く、生白いそれは少年のような幼さを感じさせる。小さなそれを手の中で遊ばせると、「あんあん」と子どものように泣き声を上げながら腰を巽の手に擦り寄せて来る。それが愛しくてたまらず、いつも理性が吹っ飛び無理を強いてしまう。計画していたあれやこれやの小道具などあまり使ったためしが無いのは、湊の無意識のおねだりに完敗している自分がいるからだ。

毎日でも抱きたい。ずっと湊の中に己の欲望をねじ込んでいたい。
誰にも触れさせたくない。自分だけの湊にしたい・・・


子どものような自分勝手な欲望。


他の誰にもこんな無様な姿を見せたことは無い。
自分は完全に湊に溺れている。いや、溺れ切ってもう浮かび上がることは無いだろう・・・たとえ浮輪を投げる者が現れても、浮かび上がる気持ちは巽にはもちろんない。



―――溺れる時は湊も一緒だ。



「っ・・・んあ。たぁ・・つ、そこ・・」

「いいだろうが、湊。久しぶりの俺のは・・・。さあ、どうしてほしい」

湊の上に覆いかぶさり、爆発寸前まで膨れ上がった雄を限界まで引き抜いた巽は、意地の悪い笑みを浮かべて湊を見降ろす。
自分を高見へと導く巽の雄を離すまいとするかのように、湊の後孔はぴくぴくと痙攣する。

「あ・・・やべ。一回出しとくわ」
「ふっ・・ぁああ、ああんぁ」

どうしてほしいかと問うたはずの巽だが、久々の湊とのセックスに感極まり、ドクドクと精を吐きだした。

「思ってたより元気やわ」
「な・・・に?」
「いんや、こっちの話。さて、本番本番」

久々のセックスにがっつくのはみっともないと思い、一昨日花街で抜いて来た巽だが、湊の中で己の暴走を止めることはやはりできなかった。

日曜の昼を過ぎてもまだ寝ている夕輝がいつ起きるか分からない。
さすがにこの絡みを目の当たりにさせるわけにはいかない。なら、始めから湊の部屋でひっそりと事に及べばよいのだが、下半身の欲求はリビングで勝手に暴れ出し、あろうことか連続花火を打ち上げ始めた。

あともう一回中に出したら・・・とりあえず湊の部屋に移動するか・・・

息子に隠れての恋人同士のセックスは、夕輝が目覚める夕方まで続いた。


[←]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!