ペット条項
嫌な笑みを浮かべて、さも楽しげにあいつは言ったんだ。あの極悪非道な表情で。弱者を痛めつけるのを至上の喜びだとでも言うように・・・
ーーーーーペット条項ーーーーー
1、主人の命令には絶対服従
2、ケンカは勝て、負けたら罰な
俺がペットになり下がった日にできたこの不条理なペット条項。今のところは2つだが椎神は増やす気満々らしい。無視しようと思ったらボコられた。
て、ことは・・・・・・ケンカに負けたら、罰の条項に当てはまるじゃん。
でも相手3人だよ3人。
『俺以外の奴に・・・・・・・・・・・知らねえ奴に好き勝手に・・・・・・・・・・てめぇ・・・殺す・・・・・・・』
あの呪縛が頭でリフレインする。
不良を視界にとらえ、逃げたいと思う気持ちと何とかしなきゃという気持ちが交錯する。
ケンカなんかやだよ〜
そう思いながらも、打開策は他にはない。たとえ負けたとしても、何もしない方がかえって後で何をされるか分からない。
目の前の不良よりも、虎太郎は龍成の罰の方が怖かった。
どうせ殴られるなら・・・
そう思って立ちあがり、向かってくる不良に視線を合わせた。
襲ってくる拳を手の平で受け、隙だらけの腹に蹴りを喰らわせた。さっきまで逃げてばかりだった虎太郎が急に攻勢に出たので、敵も油断していたようだ。
虎太郎の目は、いつの間にか戦う者の目つきに変わっていて、相手の動きを見定め、間合いを取りながら次の攻撃に移る体制を自然にとっていた。
腹を蹴られた男はもだえながらその場に膝をつく。仲間をやられた男2人は、一斉に飛びかかってきた。
1人目の拳をしゃがんでかわし、足元を蹴ってバランスを崩し転がすうちに、もう一人の懐に入り、腹目がけて下から拳を打ちすえる。
虎太郎の拳を受けた2人は地面に倒れ伏し、残るはあと1人。
ジリジリと地面を踏みしめる足音が耳に響く。うまく間合いを詰めた相手は弩号を上げながら腕を振り上げ俺向かって来る。
怒りに我を忘れた拳は脅威で、避けたつもりが顔をギリギリかすめ、頬に熱線が走った。
「っつ、、」
皮膚が擦れた。チリチリと頬が痛む。
男は立て続けに虎太郎の顔面を狙うので、たまらず後ろに下がると、ドンっと壁が背中に当たった。背後はもう無い。男の手が目の前にかざされた。
男は追いつめた虎太郎の首に両手をかけ、力まかせにグッと締めた。柔らかい肉に、爪を立てた獣のような指が襲い掛かり、細い首を握り込むように絞めつけていく。ギチギチと筋肉と骨が軋む音が直に耳に伝わる。
「ぐっ、、、くっ、、、」
男の手を首から引きはがそうと必死に拘束を解こうとするが、狂ったように絞めつける男の手を引きはがす事は出来なかった。男の手は首にどんどん食い込んでいく。
「うっ・・っ、、」
頭に血が上る。
血管がドクドク脈打つのが聞こえ血の気が下がる。手足の先がチリチリ痛み、肺の中もつぶれてしまったように酸素を取り込むことができない。
だめだ、死ぬ・・かも・・ーーーーーーー
「ぐふっ」
意識が遠のきながらも、しびれる足先を何とか動かし、男の腹に残った力の全てを込めて、虎太郎は鳩尾に蹴りを入れた。
男の拘束する手がスルリと離れる。
体全体で息をしながら壁に寄り掛かって、ズルズルと座りこむが、絞められた喉が痛む。気管が痛い。絞められて圧迫されたのだろう。
「ぐはっ、、げ、、っ・・」
男の拘束が解け、急に肺に空気が入り、むせるように空気を吸い込む。頭に集中していた血液が循環し始めるのを感じ、助かった・・・と安堵したが自分ももうフラフラだった。
もう、限界・・・喉痛い・・・
立ちあがれない虎太郎の前に、腹をけられた男が目の色を変えてユラユラ立ちあがった。
「っ、、お前、、 殺してやる!!」
逆光でよく見えないけど、襲いかかって来る男の大きな影にもう俺は何もできない。身をギュッと縮め、これから始まる暴力に耐えようと体に力を入れた。
でも・・・
想像していた痛みは俺の体には堕ちてこなかった。
バコン!!
「ぐふっ」
音がして、ギュッと閉じていた目を開けて男を見ると、奴は地面に膝を折り、痛みにもだえていた。
???
男の目の前には・・・あれは?俺のカバン?
初めに男の拳をかばうために使ったカバンはその場に落としたままだったような気がするが、目の前で悶絶する男の膝元にまたカバンが落ちている。
飛んできたのは俺のカバン?
「It hit well.You cannot but die.」
俺はもう天国に来ているんだろうか、知らない言葉が耳に聞こえてくる・・・・・・・・・あ、いや、分かるぞ・・・
この窮地に何を呑気に考えているのか、虎太郎は単語を拾いながら何となく言葉の意味を考えた。
(『・・・It hit ・・・・当たった?)
(『・・・ cannot but die・・・死ね?・・・)
何とも物騒な単語。
恐る恐る声がした方を見ると・・・・・・・・
「し・・・・・・・し・・・・・・・・・しに・・・・・しに・・・がみ・・・・・」
目の前にいた男たちは、俺の事などすでに眼中には無く、校門の前に立つ美しい天使の微笑を浮かべて冷酷なオーラを放つ、凶悪な堕天使を視界をその視界にとらえそうつぶやいた。
『It hit well.You cannot but die.』
(命中・・・・お前ら・・・・・・・・・・死ね)
冷淡な美しい微笑を浮かべ、冷酷無残な言葉を吐いた堕天使に向かって、不良たちは震えながら口をそろえて言った。
死神・・・・・・・・・・・・・・と・・・・・・・
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