極悪龍と堕天使と飼い犬の夏休み
そして訪れる帰り際の恒例になった悪魔の儀式・・・
「今日は、どこにすっかな〜」
そう言って僕の体をジロジロと見聞してから、昨日は腕で、その前は肩だよな、で、その前が・・・と独り言を言いながら考えている龍成に椎神が、
「その前は、ふくらはぎで、さらに、その前が指、足首、うなじ・・・」
と体の部分を表す言葉をどんどん上げていく。
「そうだったそうだった」
さすが、椎神は記憶力がイイな〜と龍成は褒めながら僕に近づき、
「じゃ、今日は耳!」
とか、軽々しく言って僕の耳を噛んだ。
「いっ!」
そう、こいつは毎日毎日飽きることなく、僕の体に噛みつく行為を繰り返しているんだ。
「痛くねえだろ。いいかげん慣れろ」
「慣れるわけないじゃん。それに痛いよ」
「強く噛んでねぇだろ。痕もそんなに残らねえし、あんなの舐めてるみたいなもんだ」
「でも痛いしやだもん!」
傍にいれば、しばらくは噛まないの「しばらく」の期間はすでに終了したらしい。
二人が帰った後、体力がない僕は、そのままバタンキューで夕ご飯に呼ばれるまで深い眠りに就く。
これが40日間毎日続き、あいつらはもう家族の一員のように綾瀬家に存在していた。
僕を除く家族みんなに歓迎されて。
夏休み最終日のグラウンドで、僕は『夏休みラジオ体操40日間皆勤賞』で表彰され、龍成と椎神と僕、そして毎日サッカーをした連中とともに指令台の前に立ち、校長先生から表彰され賞状をもらった。
その中には僕をいじめていた、北川や迫田たちもいたが、彼らは夏休みの間に龍成ともめながらもいつの間にか仲良くなり一緒に遊ぶ仲間に変わっていた。そしてあんなにいじめていた僕にちゃんと謝ってくれて、もう2度と意地悪はしないとまで誓ってくれた。これは龍成のおかげかも知れないので、心の中では少しだけ感謝しているが、絶対本人には言わない。
すぐカットなって暴力をふるうケンカっ早い龍成だけど、結構同級生には人気があって、人が集まるところではいつもリーダー的存在で、そんな龍成は嫌いじゃない。
そして僕も少しずつ変わっている。
少なくとも夏休みは劇的に去年までとは違った。
龍成のことは、正直・・・できれば近づきたくない。
こいつ、噛むし。乱暴だから遊ぶだけでも怪我するし。傍にいると僕まで厄介事に巻き込まれて嫌な目に合うし。命令口調で「タロ」とかまるで犬みたいに呼ぶし。偉そうだし。すぐ怒るし。
そう、僕とあまりにも正反対で、こんな奴と一日中一緒にいると楽しさ10%の苦痛90%だ。
でも、夏休みも終わった。クラスも違うし、顔をわせるにしても中休みと、昼休みさえ我慢すればいいし。
おかえり、ぼくの日常。
ーーーーーそんな甘い考えは次の日に覆された。
すばらしい晴天の朝。
今日から2学期始業式。
靴を履いて玄関を出ると、そこには・・・
「よう、タロ」
「おはよう、コータ」
極悪龍と堕天使!
なんで?君たち、夏休みは終わったよ・・・
「今日から一緒に登校しようね」
笑顔が輝く堕天使の洗練された優雅な一言に、これでこたの学校生活は安泰だ、今日は赤飯だと有頂天な家族が玄関で万歳三唱をしている。
「あ、タロ、もちろん帰りもな」
「・・・・・・・・・・」
そして夏休みは終わった・・・僕の緩やかな学校生活も始まる前に終わった・・・
吐き気がしそうな2学期がスタートした。
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